第10話 舞い込んだ厄介事
エンカウントしたゴブリン達を全滅させたアイシャ達は、洞窟の奥へと進んでゆく。
俺は
ゴブリンが下位魔族語で"侵入者を殺してくれ"とオーガに頼み込んでいるが、オーガは昼メシらしき猪の足を貪るのに夢中で取り合わない。
……ゴブリンだけならアイシャ達でもなんとかなるが、オーガがいるとなると苦戦は必至。最悪の場合、俺が出るしかなさそうだぞ。
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「わっ!な、なにかでっかいのがいる!」
「アイシャ、あれはオーガです!ルル、オーガを引き付けて!アイシャはウッドゴーレムと協力してゴブリンを!」
「わかったのニャ!」 「うんっ!」
レイは
……ルルが一発喰らったら、加勢しよう。それまでは静観だ。大丈夫、オーガとの戦い方は教えておいた。すぐにでも飛び出したい気持ちを抑え、生徒達を信じるんだ。
素早いルルは懸命にオーガの振り回す木槌を躱し、鉤爪で反撃する。だが、一撃必倒の怪力を誇るオーガが相手だけに踏み込みが浅く、有効打にはなっていない。
ルルの献身に応えるべく、アイシャとレイはゴブリン達を倒してゆく。ゴブリンを全滅させた時には二体のウッドゴーレムも破壊されていたが、とにかく3対1の構図を作った。
さて、ここからが問題だな。タフなオーガを仕留める為には踏み込まなければならないが、それは怪力の餌食となるリスクと背中合わせ。アイシャ、ルル、レイ、頑張れよ。
「ルル、いくよっ!」 「ニャニャ!」
木槌を小盾で受けたアイシャは吹き飛ばされ、洞窟の壁に激突する。アイシャを吹っ飛ばした太い腕にルルが鉤爪を突き立て、オーガに苦悶の声を上げさせた。背中をしたたかに打ったアイシャだったが、持ち前のガッツで立ち上がり、ルルの元へと駆け付ける。そして狙いすましたレイの理力擊がオーガの顔にヒットし、巨体をよろめかせた。
「今です!!」
レイの叫びに二人が呼応する。
「喰らえ~~!!」 「ニャニャニャ~!!」
呼吸を合わせた広刃剣と鉤爪の一撃を喰らい、オーガは洞窟の床に崩れ落ちた。
「やったね♪」 「やったのニャ♪」
ハイタッチする女の子二人を暖かく見守る魔術師。よくやったぞ。俺の出番なんてないに越した事はない。
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ゴブリン&オーガを倒したアイシャ達は村に戻り、村長に依頼の達成を報告。オーガまで潜んでいた事に驚いた村長だったが、村の狩人を洞窟にやって成果を確認させた。そして村を救った勇者達は喜びに沸く村人達と一緒に宴を楽しむ。ルル、村人達が感謝の言葉を述べているんだから、飯ばっか食ってないで、返事ぐらいしろ。
しかし、生徒達が村を挙げて歓待されてるってのに、村はずれの巨木の上で乾燥肉を囓る身の悲しさよ。メンター稼業は辛いねえ。早くおうちに帰りたいぜ。
帰ったらリリアに生徒達の冒険譚を聞かせてやろう。ガラス細工職人が彼女の生業だが、本当は冒険者になりたかったって言ってたよなぁ。冒険には出られなくても、冒険譚を聞けば少しは慰めに……逆か。諦めた夢を思い出させて、彼女を悲しませるだけだ。ハーフメデューサである彼女は旅の仲間を作れない。冒険に出る事は叶わないのだ。
……ん? 村に向かってる男がいるぞ。
よろめきながら村の広場で催されている宴席まで辿り着いた男は、差し出された水をガブガブと飲み干し、恐怖に引きつった顔で事情を話し始めた。
「アンタらパレス所属の冒険者だよな!すぐにギルドへ戻って応援を呼んできてくれ!」
「何があったの? とにかく傷の手当てを…」
アイシャが
「後でいい!とにかく急いでくれ!」
「とりあえず何があったのかを話してください。事情も相手もわからないのでは、ギルドもどんな応援が必要なのか判断出来ないでしょう。」
レイがもっともな事を言い、少し落ち着いた男は事情を話し始めた。
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男の名はミッチ、彼はここから二日ほどの距離にある村から山賊退治の依頼を受けて、仲間と共にやって来た冒険者だった。
だが、その山賊はタダの山賊ではなかった。正確には山賊が、ではなく山賊どものリーダーが、だ。ソイツは人間ではなく
「すぐに助けにいかないと!」
立ち上がったアイシャだったが、パーティーの参謀役レイは首を振る。
「いけませんっ!ミッチさん、その山賊のリーダーは間違いなく魔族だったんですね?」
「ああ。顔と体は人間にしか見えなかったが、フードの下に羊みてえな片角を隠してやがった。角の生えてる人間なんざいねえだろ。」
「人型で角付き、本当だとすればマズいですね。最低でも中級魔族、下手をすれば高位魔族である可能性があります。」
レイの推察は正しい。人間形態で角があるのは中級以上の魔族に見られる特徴だ。……だが片角ってのが引っ掛かるな。魔王化した時の俺もそうだが、普通は頭の左右に同じ角が生えているものなんだが……
「でも!ミッチさんの仲間はまだ生きてるかもしれないんだよ!」
「やめとけ、嬢ちゃん。見た感じ、アンタら駆け出しだろ。俺らも似たようなもんだが、アンタらよりは経験を積んでる。その俺らでさえ、ソイツにはまるで歯が立たなかったんだ。行ったって死ぬだけ、俺の仲間は……もうダメだろう……」
ミッチはそれだけ言うと、張り詰めていた気力が尽きたのか、気を失ってしまった。
「アイシャ、ルル、急いで助けを呼びに王都に戻りましょう。村長さん、村人は家に避難して決して表には出ないでください。その山賊達がすぐにこの村にやって来るとは思えませんが、用心に越した事はありませんから。私達が戻るまで、ミッチさんをよろしくお願いします。」
「わかり申した。お早くお戻りくだされ。ゴブリンでさえ手に余るこの村に、そんな山賊達がやって来たらお終いですじゃ。」
村長だけではなく、歓喜に包まれていた村人達の顔も曇る。アイシャの初めての冒険を苦い思い出にさせない為にも、やるしかないな。
「アイシャ、ルル、レイ、すぐに助けに向かうぞ。」
広場に歩み出た俺の姿を見た三人は、当然ながらビックリしたようだ。
「アムル先生!」 「ニャ♪」 「先生、どうしてここに!」
「話は後だ。村長、この羊皮紙にその村までの地図を書いてくれ。」
片角の魔族がたとえ高位魔族であろうと俺なら問題ない。配下は人間のようだから、アイシャ達も連れていこう。ないとは思うが配下も魔族だった場合、アイシャ達は逃がして俺が一人でカタを付ける。
万一、片角が超高位魔族だったら……真名を明かして封印を解き、魔王化して始末をつける。そうなったらアイシャ達とはお別れしなきゃならなくなるな……
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