第8話 勇者(予定)パーティー結成



「ふ~、満足です。片付け甲斐のあるおうちでした。」


雑巾バケツを足洗い場に置いたアイシャは、至福の表情でそうのたまった。


「ご苦労様。ピザでも食うか?」


「いただきます!お腹がペコペコ!」


ルルほどじゃないが、アイシャも結構食い意地が張ってる方だよな。成長期だからかもしれんが……


「焼いてる間におかわりを持ってくる。」


アイシャは働き者でよく動くせいなのか、なかなかの大食いだ。ピザ半分じゃ到底足りまい。


冷凍ピザを持って地下室の階段を上ろうとした矢先、聞こえてきたのは言い争う声。


Uターンして地下室に引き込もりたくなったが、なんとか思い直して階段を上る。それでもリビングのドアを開けるのには勇気が必要だった。


「なんでアイシャがアムルの家にいるのかな!」


「だって、先生は私のメンターですよ? エミリオ先生こそ、先生とは無関係なんじゃ?」


「僕はアムルの同僚!A級冒険者になったら卒業するアイシャと違って、いつまでも同僚だから!」


「私がA級冒険者になっても先生は先生です!」


「とにかく、アムルの家の掃除は、いつも僕がやってあげてるんだ!こんな事はこれきりにしてね!」


……面倒臭いが、もう自分で掃除しようかな……でも本当に面倒臭い……


「エミリオ先生、今までご苦労様でした。今後は私が先生のお世話をしますから。先生と私は師弟なんですから、それが普通ですよね?」


「アイシャは女の子だろ!年頃の女の子が、若い男の家に出入りしてるなんて、良くない評判が立ったら困るじゃないか。そういう事は慎むべきだ!」


「エミリオ先生だって女の子みたいな顔してるじゃないですか!」


確かに。エミリオが女装したら、そこらの女じゃ太刀打ち出来まい。話の方向性があさってに飛んでいってるような気もするが……


「僕の顔は関係ない!あ、アムル!いたならなんとか言ってよ!」


「ミミックだってわかってる宝箱に近付くには勇気がいるんだよ。とりあえずピザを焼くから、口論じゃなく、食べるのに口を使ってくれ。」


エミリオは何か言いたげだったが、とりあえず矛を収める気にはなってくれたようだ。もちろん、機嫌は直っちゃいない。俺の家の掃除って、そんなに楽しいのだろうか?


しかしこの調子じゃあ、アイシャが地母神アイロアの聖戦士を目指すにしても、地母神司祭のエミリオは面倒を見てくれそうにないな。まあ、聖戦士どころか、今は戦士としてどうかって話だ。先の事は先で考えよう。


──────────────────


綺麗に片付けられた俺の部屋が少し散らかってきたあたりで、レイとルルが王都にやってきた。早速二人をアイシャに引き合わせ、パーティーを結成させた。


冒険者ギルドの酒場でささやかな結成記念の宴を催し、翌日から訓練を始める。


訓練広場で俺の作ったウッドゴーレム3体と対峙するアイシャパーティー。お世辞にも勤勉ではない俺が、それなりにギルドで重宝されている訳は、ゴーレム作りに長けているからだ。もっとも俺は、自分がゴーレム作りが上手だとは思っていない。付与魔術を極めた魔女、ドルエラに比べればお遊びみたいなもんだ。


「薪を集めて作ったゴーレムだ。遠慮せずに壊していいぞ。」


「はいっ!」 「いくのニャ!」 「ルルが二体抑えてください。アイシャは一体に集中して。」


やはり司令塔はレイが適任だな。冷静な後衛だけに、状況が一番見えてる。


ウッドゴーレムを相手に奮戦するパーティー。ゴーレムの一体を後衛のレイに向かわせようと操ってみたが、素早いルルはそうはさせない。さほど苦戦する事なく、新米冒険者達はゴーレムを撃破してみせた。


「よろしい。今日のところは見事だと褒めておこう。」


このゴーレムの強さはゴブリン以上、オーク未満といったところ。これに苦戦するようでは、冒険に出るべきではない。


「明日はストーンゴーレムを用意しておく。材料にする石の材質にもよるが、ウッドゴーレムとは防御力が桁違いだぞ。」


「アイシャ、ルル、今からストーンゴーレム対策を相談しましょう。普通、ストーンゴーレムは動きが遅いものですが、先生の事ですから動きの速いゴーレムを混ぜてきますよ?」


レイは本当に賢者の素質を持ち合わせているようだな。今のパーティーは、おまえが頼りだ。しっかり娘二人を導いてくれ。


「その前におやつにするのニャ!」 「レイ、動いたらお腹が空いちゃった!」


食うのはいいが、頭にも栄養を回してくれよ? 頭脳面をレイに任せきりじゃ、魔王討伐なんか夢のまた夢だからな。


─────────────────


ストーンゴーレム3体には勝てたアイシャ達だったが、5体に増やしてやるとやはり厳しくなった。どうしても後衛のレイにゴーレムが向かってしまうのだ。いかにレイを守るか、三人の中で一番未熟なアイシャは基礎能力の底上げを図り、本能任せだったルルは考えて戦うようになった。レイは俺から即席ゴーレムの作り方を習い、自分を守れるようにと研究する。生徒が成長してゆく姿を見るのはメンターとして嬉しい。


アイシャ、ルル、レイはすぐに馴染み、連帯感も増してきた。特にアイシャとルルは気が合ったようで、同じ宿の同じ部屋で暮らしているようだ。連帯感が一体感になる頃には、ストーンゴーレム5体を相手に勝てるようになるだろう。


レイが屋敷を買ったというので引っ越しを手伝い、空いてる離れでアイシャとルルも暮らす事になった。レイの事だから離れのある屋敷を狙って買ったに違いないのだが。王都の市街にある屋敷をポンと買ってしまえるあたり、小金持ちとかいうレベルじゃないな。レイの実家は相当裕福な大貴族なのだろう。人界の貴族にあまり興味はないが、スキュトネール家について調べておこうか。レイは市井の魔術師として生きてゆくつもりのようだが、周りがそうはさせないかもしれない。


そのレイとも相談したのだが、"神官の仲間は自分達で探す"という結論になった。確かにその方がいい。本来、冒険者とは自分の仲間は自分で探すものなのだ。アイシャが女神の血を引く勇者候補だから、相応しい仲間をと動いてはみたが、あまり過保護にするのもよくない。"アイシャにリーダーの自覚を持たせる為にもそうすべきです"というレイの言い分はもっともだ。


三人は絆を深めながら訓練に励み、数週間後にストーンゴーレム5体を撃破してのけた。いよいよ冒険に出る時がきたのだ。俺は生徒三人に、初級の依頼を受けてもいいと許可を出した。


「いよいよですね!いよいよ私達の冒険が始まるんですね!」


「腕が鳴るのニャ!」


「アイシャ、ルル、依頼は慎重に選びましょう。私達のパーティーにはまだ神官がいませんから、長丁場になりやすい迷宮探索ではなく、短期間で終わる護衛か魔物退治を選ぶべきです。」


レイが言い終える前に、アイシャはルルの手を取り、ギルド酒場に向かって駆けだしていた。


「ルル、早速依頼板を見に行こうよ!」


「ニャ!」


「ああっ!また私の話を聞かないで……」


ガックリ膝をついたレイの肩に静かに手を置き、慰める。本当にレイには苦労をかけてるなぁ。




アイシャの初めての冒険か。どんな冒険になるのか、陰からこっそり眺めるとしよう。初級冒険者が初めて冒険に出る時には、全滅しないようにメンターが見守るってルールもあるしな。


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