雨上がり、君の匂い
「聴いてほしい歌があるの」
そう言って君は俺の左耳に蓋をする。
雨の匂いがまだ残る縁側で、俺達は静かな歌を聴く。
梅の花びらは地面に押し花のように平たく積もっていて、ヒヨドリが首を小刻みに動かしながら歩いている。
「時計なんて無くなればいいのに」
君は言う。
一時間が一時間過ぎていって、悲しい気持ちになって。
そんな感覚から俺達は解放されたがっている。
ムクドリが飛び立つ。
車が車道を走る音が聞こえる。
君は俺の肩に頭を乗せる。
香水では表現できない柔らかい匂い。
君の肌は白く儚げで、俺はいつも胸が締め付けられる。
歌が終わる。
アルバムの最後の曲だったから音楽は再生されなくなった。
「お茶入れる?」
君は聞く。
俺はかぶりを振る。
「もう少しこうしていたい」
君はあの頃のように微笑み、背筋を伸ばして俺の手を握る。
冷たい手。
俺は握り返す。
はげかけたレンガ、排水管に溜まった雨水。
俺の体温が、全部君を温めるために使われればいいのに。
そんなことを思いながら。
時間は過ぎていく。
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