第9話 虹夜の自宅

 虹夜は、ビルファの別々にある空間をつなげることでその場所を行き来できる空間魔法により、自宅前まで帰ってきた。


 虹夜は3回建の立派な一軒家に住んでいるものの、外観の壁は窓ごと黒のペンキで塗りつぶされており、玄関のドアも元は綺麗な薄茶色だったが、紅色に外内両方乱雑に塗られていた。


 家の中も動物の糞尿がそこら中に落ちており、腐った果物や放置された甲殻類の殻が散らばっている。


 ただし、他の家族の部屋は、綺麗な状態であるが、それ以外の虹夜が使用している所は、ゴミ屋敷という言葉すら生ぬるいくらいの惨状である。


 これら全ては、虹夜が自ら故意にそうしたのだ。


 虹夜は、ビルファと出歩く前にある存在と一緒に暮らしていた。彼はに強く依存していた。


 ある時理不尽にその存在との日常を壊されてしまった。


 自分が依存しているくらい大切に想っていた存在を失ったことで、に関連すること全てを拒絶するようになった。


 その存在と暮らしていたこの家を汚し尽くすことで、その事を思い出さないようにしているのだ。


 風呂も当然汚物塗れだが、時折帰ってくる母親に、握り潰すと体を洗浄して綺麗にすることが出来る、使い捨てマジックアイテムを貰っているので、外に出る時はそれを使っている。


 そんな自宅に帰ってきた虹夜は、リビングにある自分で集めてきた動物の糞尿や、握り潰したぐちゃぐちゃの腐った果物や野菜で、悪臭漂うソファーに寝転んだ。


「こんな酷い有様な俺の家を見たら、あかりが観たら悲しむだろうなぁ……」


 虹夜のもう1人いる友達の女の子がこの現状を見られた時のことを彼は想像する。


「こんな家に住み続けたら、頭おかしくなるって自警団の人たちに言われたっけ……」


 彼は、この街の自警団にある事情により加入している。


「でも、雷華らいかがいつか帰って来るかも知れないからね……俺は待ち続けるんだ」


 生きているかも分からない大切なとの再会を信じて、今日も虹夜は、汚物塗れのこの家に住み続ける。

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