第3話
それから、15分くらいすると、一人の初老の女が、なにやらビニール袋と皿の様なものを持って、猫の傍に来た。
「あー、よしよし、ミケは今日もいいコにしてたね。
おなかすいたろう」
そういうと、ビニールから鰹節をまぶし魚の骨を砕いたものを混ぜ合わせたご飯を皿に盛り、猫の前に差し出した。
『にゃー』
「そうか、そうか。
今日もご飯を待っていてくれたんだね。
今私を待ってくれているのは、この世でミケだけだからね。
私も嬉しいよ」
『にゃー』
「そうか、そうか、しっかりお食べ。
今は夏だから、まだ寒くはないけど、今のうちにしっかり食べておかないと、冬を乗りこせないからね。
あのコもしっかりご飯食べてるのかね」
『にゃー』
「だよね。
男だから、家により付かないのは、わかるけどね。
正直寂しいよ。
お父さんも亡くなってもう十年。
独り暮らしも慣れてはいるけど、やっぱり、盆暮れくらいは家に顔を出して欲しいよね」
『にゃー』
「そうかね。
確かに男は忙しいんだろうけどね。
わかるよ、お父さんもそうだったからね。
平日なんてろくに会話も出来なかったからね。
朝早く出て、帰りは常に午前様、体のことだけが心配だった。
そう思ってた矢先、あんな病気で、あっという間に逝っちまったからね」
『にゃー』
「そうそう、わたしの心配はそこなんだよ。あのコも父親に似て頑固だから、体のことより仕事を優先しそうでね。
体あっての仕事だってこと、わかっちゃいないからね」
『にゃー』
「そうだね。
こっちで悶々と心配だけしててもしょうがないね。
ミケの言うとおり、あっちが来ないならこっちから行ってくるね。
ありがとう。
今度の週末、連絡して行って来るよ」
そういうと、初老の女は猫をひとなですると立ち上がり、猫が食べ終わった皿を拾い上げ、家のほうへ歩いていった。
残された猫は黙って、初老の女を見送った。
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