10年後の私達

「早紀ちゃんの結婚式も、いよいよ来月なのねー」



家族みんなと早紀で囲む、賑やかな夜の食卓。


お母さんがいち早くその話題を持ち出した。


「準備は順調?」


早紀の向かいに座っているお姉ちゃんも、嬉しそうにたずねる。


「はい、なんとか。それに、ホテルとかで大々的にやるのとちがって、レストランでアットホームにささやかに……ってカンジなので。割と気楽で……」


「そっかぁ。レストランウェディングね。いいなぁ。友達の結婚式に行くと、大体みんなホテルだから。行ってみたいなー。誰かレストランウェディングやってくれないかな」


そう話すお姉ちゃんに、お母さんがすかさず口を挟んだ。


「友達の結婚式もいいけど。ゆかり自身の結婚式の話も早く聞きたいわねぇー」


ちらっと横目で見るお母さん。


お姉ちゃんはしらーっとして、急にご飯をパクパク食べ始めた。


そんな様子を見ていたら、なんかおかしくって思わず笑っちゃったの。


そしたら。


「あら、かおり。アンタだって笑ってる場合じゃないのよ。もう27歳なんだから、早紀ちゃんみたく、そろそろ結婚のこととか考えてもいいお年頃よー?ゆかりは、とっくに考えていいお年頃だけどね」


う……。


そうきたか。


確かに、20代後半にさしかかってくれば、結婚という言葉が出てきてもおかしくはない年頃ではあるよね。


うちは、どちらかと言うと、姉、妹2人揃って『日々仕事一生懸命タイプ』で、そんな気配全然ないもんなぁ。


「母ちゃん、無理無理。まずその相手を見つけるとこから始めないと」


そう言いながら、ツヨシがケラケラ笑ってる。


「なによー。ツヨシ」


お姉ちゃんが、ポコッとツヨシを叩いている。


そんなきょうだいのやり取りを見ていた早紀が、楽しそうに笑って言った。



「なんかいいなぁ。すごく楽しい。きょうだいっていいですよね。私、1人っ子だから。羨ましい」


「なんならツヨシあげよっか?」


「おい、姉ちゃんっ。あ、でも。早紀さんめっちゃ美人だし。オレ、いってもいいかも」


ツヨシの言葉にみんなが笑う。


でもそのあとに、お母さんが優しい笑顔でこう言った。


「早紀ちゃん。いつでも遊びにおいでね。もちろん赤ちゃんも連れて。たまにはおばさんにも面倒見させて。この子達なら、一体いつになったら孫抱かせてくれるのか……。あんまり期待できないから」


「はい!ありがとう、おばさん」


早紀もとっても嬉しそう。


「おじさんにも抱っこさせてくれな」


お父さんも笑顔で早紀を見た。






「ーーーやっぱいいなぁ、かおりんちは。みんな優しくていい人だし。賑やかですっごく楽しい」


私が早紀の布団を敷いていると、早紀がパジャマに着替えながらしみじみ言った。


「そうかなー。けっこううるさいよ?特にツヨシなんか。あ、でもホント赤ちゃん生まれてからもしょっちゅう遊びにきて。お母さんも喜ぶから」


「うん。そうさせてもらう」


パジャマに着替えて、すっかりリラックスした私達は、小さいライトだけつけて深夜の語らいモードに入った。



「あのさー。10月のかおりの誕生日の時、私達喫茶店で待ち合わせしたじゃん?その時にさ、かおり10年前の17歳の私達のこと思い出したって言ったじゃん?」


早紀が、布団の上に仰向けに寝転がりながら口を開いた。


「あ……うん」


「なんかさー。私もさ、最近妙にあの頃のこと思い出すんだよねー。なんかわかんないけど……。10年って。なんかそういう節目の時なのかなぁ。10年一昔って言うしね」


早紀が、そっとお腹をさわりながら笑った。


「うん……。そうなのかもしれないね。でも、あの頃……自分達がこうして大人になって、10年後、早紀はママになって、結婚してーーー。そういう未来?っていうかなんていうか……そういうの、想像もつかなかったよね。あの頃は……ただなんとなく、大人になったらいつかみんなそういう日が来るのかなって、漠然と頭の隅で思ってはいたのかもしれないけど」


私も、かすかにふくらみ始めている早紀のお腹を静かになでた。


「だよねー。すっごいわかる。私も自分がこうなるなんて思ってもみなかった」


「なんか不思議だよね」


「うん。不思議」


2人で笑っちゃった。



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