ヒーロー
「うん。昨日、自分でも調べたし、病院でもちゃんと検査してもらった。間違いないって。私、かなり早い段階で気がついたみたいで。まだホントの初期らしいんだけど」
ドッキ ドッキ ドッキ。
あ、赤ちゃん。
早紀の、赤ちゃんーーーーーー。
な、なんか、なんかすごいっ。
嬉しい!
「タ、タクちゃんはなんて?喜んでた?」
2人は、もうしっかり気持ちも通じ合ったステキな恋人同士だけど。
まだ、結婚はしてない。
でもでも、こんな嬉しそうで堂々としている早紀を見ていたら。
2人の絆がしっかりしていれば、結婚が先でも、新しい命が先でも、どちらでも同じく幸せだって思えた。
「タクちゃん、大喜びだったでしょっ。子ども大好きだもんね!そっかぁ……。早紀、ママになるんだぁ……。すごい、すごいっ。いよいよ結婚だね!おめでとう!」
私は、嬉しさのあまり早紀の手をガッチリ握った。
「ありがとう、かおり。でも。まだタクには言ってないんだ」
「え?」
ケロッと言う早紀。
「な、なんで?まず最初にタクちゃんに言わないと!それとも……なんか言いづらい理由でもあるの……?結婚……したくないとか……?」
「ううん。全然。ただ、このことは、いちばん最初にかおりに教えたかったの」
「え……?」
早紀が笑顔で、私の手をそっと優しく包み込んだ。
「妊娠がわかった時ね、嬉しくて。思わず『かおりー!!』って私心の中で叫んでた。ぴょんぴょん飛び跳ねそうになりながら。だから。かおりに最初に教えたかったの。タクはその次」
そう笑う早紀。。
早紀のあたたかい手のぬくもりが、私の身体中に伝わって。
胸がいっぱいになった。
「早紀……ーーー」
ありがとう。
嬉しいよ。
ホントに嬉しいよ……。
「あー。こらこら、泣くなっ。今日はめでたいこと続きのハッピーな日なんだよ?はい、笑って、笑って」
早紀が、私のほっぺたを横にビヨーンと引っ張った。
「ウケる。この顔」
早紀ってば、私の顔で遊んでひとりで爆笑してるの。
「もぉー」
私もその笑い声につられて笑っちゃった。
ひとしきり2人で笑ったあと。
早紀が、優しい瞳で私を見た。
「かおり、私ねね。この子が男の子だったら。正吾の名前から一文字もらって、その漢字を使った名前にしようかと思ってるんだ」
「え……?」
思わぬ言葉に、私は早紀を見た。
「正吾が死んで、もう10年経つけどさ。私、正吾のこと今でもずっと大切な人だって思ってる。これから先もずっとね。あの頃みたいな『好き』……っていう気持ちじゃなくて。なんかもっとそういうの通り越した気持ちっていうか……。うまく言えないけど。もうこの世にはいない人だけど。……例えて言うなら、性別を超えた、1人の人としての『好き』っていうか。アイツへの想い……っていうかさ……。そういう気持ちがあるんだ」
早紀が、薄暗くなった窓の外を見つめながら、静かにコーヒーを飲んだ。
「……わかる。私も早紀と同じ気持ちだよ……。きっと、これからも時々ふっと彼の笑顔が浮かんできたりすると思う。ずっと、そうやって私達の中で生き続けていくんだと思う」
私の言葉に、早紀が笑顔でうなずいた。
「アイツは、みんなを元気にしてたよね。私やかおりだけじゃなかったと思う。アイツのこと好きだったのって。なんか、そういうヒーローちっくなヤツだったよね、正吾ってーーー」
「……うん」
「アイツは、みんなを元気にするために生まれてきたのかもね。いっぱい元気もらったしさ。みんなアイツのことが好きだったし。男子も女子もさ」
そうだね。
ホントにそうだったよね。
彼は、みんなに愛されてたよね。
元気で、楽しくて、おもしろくて、少年のような澄んだ目をしていて。
そして、とっても優しくて。
みんな。
みんなあなたのことが、大好きだったんだよーーー。
「ーーーそれでね。あ私の生まれてくる赤ちゃんが、もし男の子だったら。正吾みたいに、人に元気と優しさをいっぱいあげれる人になってほしい……って。そう思ったの。もちろん、女の子でもだけどね」
早紀がほほ笑みながら、自分のお腹をそっとなでた。
「……うん。すごく、ステキだよ。早紀……」
きっと高林くんも喜んでるよ。
「もちろん、タクも最高の男だから、まずいい子に育つのは間違いないけど」
カラカラと笑う早紀。
「そうだね。きっと2人に似たとってもカワイくていい子が生まれてくるよ」
「うん。今夜は、大発表だ。アイツら驚くだろうなー」
「……アイツら?」
「うん。
「えっ⁉︎」
聖也くんも来るの⁉︎
「あんなにストレートな男も珍しいよね。誰が見てもわかるくらい、かおりに好き好きビーム出しまくりだもん」
「そ、そんな……」
恥ずかしくて、顔が真っ赤。
実は、私ととっても仲良くしてくれてる男の人がひとりいて。
聖也くんっていうんだけど……。
タクちゃんの仲良しの友達なの。
だいぶ前から、みんなでよく遊んだりするようになったんだけど。
早紀のように社交的じゃない私に、とっても気さくに話しかけてくれて。
けっこう好きなモノや感じることとか、意外と似てるところもあったりして。
私自身、聖也くんと一緒にいるのがすごく楽しくて……。
いい人だなぁ……って思ってるの。
聖也くん、明るくて楽しい人なんだけど、すごく真面目で誠実で、優しい人なんだ。
一緒にいて、すごく楽しい。
ちょっと、ドキドキしちゃうけど……。
「ーーーよしっ。そろそろ行こうか。もう準備もだいぶ整った頃だろうし。聖也もかおりが来るのを今か今かと待ちわびてるし」
ニヤッとする早紀。
「べ、別にそんなことないからっ」
「ありますー」
すーぐそうやって冷やかすんだから、早紀は。
「よーし。今日はとことん飲むぞーっ」
早紀が元気よくこぶしを振り上げた。
「ダ、ダメだよ、早紀っ。お酒はっ」
もう1人の身体じゃないんだから。
私が慌てて言うと。
「わかってるって。ウーロン茶で酔っ払うから大丈夫」
そう言った早紀の笑顔は、とてもキレイで。
本当に……ママになったんだ……ーーーと。
私はひどく感動して。
また涙が出そうになったんだ。
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