桜が満開の、4月のある晴れた日
そうだよね。
彼の笑顔は、なんか不思議と人を元気にさせちゃう力があったよね。
「かおりは?」
今度は、早紀が私に訊いてきた。
「私も……たまにある、かな……。早紀と一緒。なんか元気がない時とか、ちょっと落ち込んでる時とか。高林くんの笑顔がふっ……と浮かんできたり。そんなカンジ」
「なんかさ。アイツ、うちらが元気ない時とか、ちょっと落ち込んでる時とか、こっそりうちらの中に現れて元気づけてんのかも」
早紀が笑顔で言った。
「ーーーうん。そうかもしれないね」
私も笑顔でうなずいた。
あの頃から、もう10年。
私達2人が想いを寄せていた高林くんは。
もう、この世にはいないーーーーーーー。
私の誕生日がきっかけでみんなで仲良くなったあの日から、数ヶ月後。
彼は、静かに……そして夢のように。
いなくなってしまったんだ。
病気、だったんだーーーー……。
誰も気づかなかった。
彼自身も、自分が倒れて病院に搬送されるまで、自分が治らぬ病に侵されていたことに、全く気づかなかったんだ……。
心臓の病気だった。
桜が満開の、4月のある晴れた日。
彼は、病室で静かに息を引き取った。
英語の授業中。
教室の窓から見える校庭の桜の木が、すごくキレイで。
開けた窓から、ハラハラと舞う桜の花びらが、風に乗って教室の中に入ってきて。
私は、キレイだなぁ……と見とれていたのを、今でもハッキリ覚えている。
彼が亡くなったという知らせを聞いたのは、そのすぐあとだった。
ついこの間まで、一緒に笑っていた彼は。
もう、いない。
あまりの突然のことに。
あまりの信じられない、信じたくない出来事に。
私は、夢を見ているような気分だった。
みんなが泣いている中、私と早紀は、ただ黙って手を握り合っていた。
みんながいなくなってからだよね。
放課後の誰もいない教室で。
私と早紀が、涙が枯れるまで泣いたのは。
「ーーー実はね。かおりの誕生日パーティーをする前に。報告したいことがあるんだ」
しばらくの間、懐かしそうに目を細めていた早紀が、私に切り出した。
「えー?なになに?もしかして、それで今日、タクちゃんちに行く前にお茶でも飲んで行こうって言ったの?」
「ピーンポーン」
笑顔の早紀。
今夜ね、タクちゃんちで私の誕生日パーティーを開いてくれることになってるんだけど。
いつもはどこかに集まるにしても、各自で現地集合ってカンジなの。
それなのに、今日は早紀がお茶してから行こうって言うから。
喫茶店なんてあまり来ない早紀なのに、珍しいなぁって思ってたんだよね。
そうそう、タクちゃんっていうのは早紀の彼氏。
もう4年くらいになるんじゃないかなー。
当時、早紀がバイトしていたパスタ屋さんで知り合った人で。
早紀はすぐにタクちゃんを紹介してくれて、私もすごく仲良くしてもらってるんだ。
タクちゃんはとってもいい人だよ。
3つ年上なんだけど、優しくて楽しくて、おまけにカッコイイし。
私からしてみると、優しくてステキなお兄さんってカンジ。
そして料理がすごく上手なの。
今日もね、私のためにご馳走作ってくれるんだって。
嬉しいなぁ。
「それで?報告って?」
内心ドキドキ。
でも、早紀の様子を見ていたら、なんか悪い報告ではなさそう。
むしろ、なにかいい報告のような気がするんだけど……。
そんな、ちょっぴり緊張し気味の私に、早紀はにっこり笑って言ったの。
「かおり。私、ママになる」
え。
にっこにこの早紀。
「ここに、新しい命があるーーーー」
そう言って、優しく静かにお腹をさわった。
え、え。
「えええーーーっ⁉︎」
私のスットンキョーな叫び声に、店内の人達がいっせいにこっちを見た。
慌てて口をおさえたけど、心臓がバックン、バックン。
私は、今まで感じたことのない、それはそれは嬉しいのとビックリとの気持ちで、興奮の絶頂に達していた。
「ホ、ホントなのっ?早紀っ」
私は小声で身を乗り出した。
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