10年目の優しい時間
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「かーおーりっ」
私を呼ぶ声に、ふっと我に返った。
「ごめんねー。遅れちゃって。待った?」
「ううん。全然だよ」
私は、慌てて店に駆け込んできた様子の早紀に笑顔で言った。
「さっき、この窓越しにかおりが見えたから、手振ったのに。かおりってば、どっか遠くを見るみたいなカンジでボーッとしちゃって。全然気づかないんだもん」
「ああ……ごめん」
私がへへっと笑うと。
「誕生日のめでたい日に、なんか悩み事?」
向かいの席に座りながら、私のおでこをちょんとつつく早紀。
「ううん。ちがうの。今ね……ちょっと思い出してたの。10年前の私達のこと」
「10年前の、私達ーーーー?」
早紀が、ちょっと意外そうに笑った。
「うん……。ちょうど10年前の今日、私17歳になったんだなって。さっきまでね、そこの席に高校生の女の子達がいたの。プリクラとか見せ合って、なんか楽しそうで可愛かったんだよね。それでね、その中になんかあの頃の早紀の雰囲気に似てる子がいてさ」
「そうなの?えー。見たかった」
記憶を探るように、ちょっと上を見て黙っていた早紀が、パンッと手を叩いて笑った。
「あった、あった!カラオケね!覚えてる覚えてるっ。あの時さ、お互い好きだった人が、実はまさかの同じ人ーーー正吾だったってことが発覚してさーっ」
早紀が楽しそうに、そしてとても懐かしそうにうなずいている。
「あの時、私ひとりで部屋飛び出しちゃって」
「そうそう!そんでもって、かおりってば次の日風邪引いて3日くらい学校休んだんだよねーっ」
「うん」
2人で大笑い。
「それで、早紀がお見舞いに来てくれて。早紀が買ってきてくれたアップルパイ一緒に食べたんだよねー。いろいろ語りながら……」
「そうそう!食べた、食べたっ。語った、語ったっ。ああー。懐かしいねぇ……。もう10年も経つんだねー」
早紀がしみじみと言いながら、窓の外に目を移した。
「それからだったよねー。いつの間にか、あの日集合したあのカラオケメンバーと、よーく遊ぶようになったのはさ」
「……うん。そうだったね」
「かおりと、私と、知里と、戸田と寺下と、正吾と……ーーー」
みんなの笑顔が、目の前に浮かんでくる。
あの日以来、高林くん達はなにかと私達を気にかけてくれて。
おもしろい小ネタを用意して話しかけてきてくれたり、楽しい企画を考えてくれて、休みの日にみんなで遊んだり。
遊園地にボウリングにキャンプにクリスマス。
肝試し大会なんかもしたっけ。
いつの間にか、学校でも昼休みになると自然に6人で集まって。
ワイワイ騒ぎながらお弁当を食べたり、他愛もないことで笑い転げたり。
気がつくと、すごく仲のいい6人ーーー大好きな仲間になっていて。
私の毎日が変わり始めて。
私の毎日がキラキラし出して。
人見知りで、おとなしくて、いつも自分に自信のなかった臆病者の私が、気がつくと笑顔が増えて、よく笑うようになって。
みんなといると、楽しいな……って。
そう思える自分になっていた。
こんな風に笑顔で人と向き合えるようになったのは、彼との出会いがあったから。
高林くんと、出会えたからーーーーー。
いつも元気にで明るくて、ちょっとひょうきんで。
でも、すごく優しくて……。
いつもみんなの中心で、みんなを明るくしてくれる太陽みたいで。
私は、いつも眩しかった。
そんな彼に、私は恋をしていた。
同じような純粋な想いを抱える早紀と一緒に。
私達は、高林くんに恋をしていたんだ。
一緒にいれて楽しい。
一緒に笑えて嬉しい。
大好きーーーーーー。
それだけで、十分だった。
こんなキラキラした毎日がずっと続くような気がして。
私は、幸せだったんだ。
「ーーーねぇ、早紀。今でも時々高林くんのこと、ふと思い出したりすることある……?」
私は静かに早紀に訊いてみた。
「……そうだねぇ。たまーに、ふっとアイツの笑顔を思い出す時はあるかなー。しかもさ、そういう時って決まって仕事でミスして落ち込んでたり、なにか大ピンチに陥りそうになってる時なんだよねー。それで、不思議と元気になったり、勇気が湧いたり、またがんばろって思えたり……。無意識のうちに、正吾の笑顔をパワーにしてる時があるのかも……。まぁ、ホントにたまーにだけどね」
早紀が優しく笑いながら言った。
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