好きって気持ち
「ねぇ、かおり」
早紀がアップルパイを食べながら、私に聞いてきた。
「正吾って、かおりにはどんな人に見える?」
どんな人ーーー……。
「……よくわかんないけど……。あの人を見ていると、なんかすごく元気になれるような気がするの。それで、なんか楽しいっていうか、嬉しいっていうか。そういう気持ちになるの。なんでかわからないんだけど……」
言いながら、顔が赤くなっていくのが自分でもよくわかった。
「正吾のこと……好き?」
私の顔を覗き込むように聞いてくる早紀の言葉に、私の顔は一気に熱くなってしまった。
私はなにも言えずうつむいてしまった。
心と体は正直だ。
もう、ちょっと気になる程度だとは言えない自分がそこにいた。
「……そっか」
そんな私を見て、早紀が静かに優しくうなずいた。
もう、早紀もわかっている。
私が、高林くんのことをすごく好きになってしまったことを……。
なにか言おうと、必死に言葉を探していると。
「私も、かおりと同じ」
穏やかで優しい早紀の声が聴こえてきた。
「私も、アイツ見てると元気になれちゃう気がするの。で、一緒にいると妙に楽しくて、嬉しくてーーー。で、なんかわかんないけど、好きになってた。へへ、かおりと一緒」
恥ずかしそうに笑ってる。
その時、私は感じたの。
私と早紀は、ホントに……純粋に……高林くんへの同じ気持ちを抱えているんだって。
そう思ったら。
そう感じたら。
なぜかその感情をすごく愛おしいと思い。
なぜか不思議と、心がやわらぐような……。
そんな感覚になり、私は自然と笑顔になっていたんだ。
「一見お調子者なカンジなんだけど。なにげに優しかったりするし。けっこう友達思いだし。それに、アイツの笑顔って、昔っからなんていうか……憎めないやんちゃ坊主みたいでさ。あの笑顔見てたら、なんかこっちまで顔が笑っちゃうんだよねー」
早紀がやれやれって顔で笑ってる。
「うん……ーーー。わかる」
私も思わず笑う。
そうなの。
彼の笑顔は、なぜか風を切って走る少年のような澄んだ色をしているの。
「はぁーーーー」
アップルパイを食べ終えた早紀が、制服のままごろんと仰向けに寝転んだ。
美味しかったーという風にお腹をさすっている。
ふふ。
私も小さく伸びをして、ゆっくり仰向けになった。
白い天井が見える。
今、これがもし外だったら。
青い空だったら。
どんなに気持ちいいだろう。
そっと目を閉じてみる。
青空の下で、眩しい笑顔の彼が、ボールを蹴りながら駆けていくーーー……。
そんな光景が浮かんだ。
今、早紀も。
高林くんのこと、考えてるのかな……。
「かおりー」
早紀が、ポソッと口を開く。
「あたし達、やっぱり気が合うね」
そう言って、ふふふと笑った。
「うん……。そうだね」
私も笑う。
「結局、理屈じゃないんだよね。好きって気持ちは。好きーーー。ただそれだけ」
〝好きーーー〟ただそれだけ。
……そうなんだよね。
〝好き〟っていつの間にか始まってて、いつの間にか自分の中にいて。
なんでとか。
どうしてとか。
説明できない。
好きって、そういうものなんだよね。
私も、早紀も、みんなも……。
同じ人を好きになってしまった2人。
同じ気持ちを抱えている2人。
でも、だからこそ誰よりもお互いの心を分かり合える2人。
早紀が、隣に寝転んでいる私に、人差し指を差し出した。
「E・T」
2人で笑いながら。
私も人差し指を差し出した。
E・Tーーーーー……
ふれた指先から、なにかを感じる。
あたたかななにかを……。
あたたかい光を……ーーー。
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