早紀

「おいしーーーっ。やっぱここの店のアップルパイは絶品だねっ」


「……………」


こくん。


早紀の元気な声に、私は小さくうなずいた。


「ーーーちょっと、かおりー。いつまで下向いてんのっ。こら」


コツン。


おでこをこづかれた。



早紀ってすごい。


こんなことになっても、なにも変わらず元気で優しいんだもん。


……ううん。


きっとホントは早紀だっていろいろいっぱい考えてたと思う。


悩んでたと思う。


でも、そんなことを感じさせないくらい私には明るく接してくれている。


早紀は、私にね。


『正吾のよさをわかってくれて嬉しい』


って、ほほ笑んでくれたの。



その時、私思ったんだ。


ああ、やっぱり早紀だーーー……って。


みんなに好かれるわけがわかるなぁ……って。


本当に優しい女の子だなぁ……って。


早紀と友達になれて、本当によかったなぁ……って。



「今日さ、学校で偶然正吾と会ったんだよね。で、ちらっと話した。アイツ、昨日ちゃんとかおりのとこ行ったんだね」


ドキン。


『かおり』ーーーーーー。


私を呼ぶ高林くんの声が、頭に蘇る。


「う、うん……。あのっ……。早紀……。この前はいきなり飛び出しちゃったりして、ホントにごめんね……」


私がペコッと頭を下げると、早紀が静かにフォークをお皿に置いた。


「ホントだよー。主役のかおりがいきなり帰っちゃうんだもんだから、あたしどうしようかと思ったもん」


「ご、ごめん……」


「どうしようかと思って、開き直って思いっ切りカラオケで歌って叫んできた。かおりーーー!って。なに1人で帰ってんのーーー!しかもポシェット忘れてるしーーー!って」


「え……」


「ウソウソ。かおりのことは心配だったけど、きっと正吾がかおりを見つけて元気にしてくれると思ってたから。だから、アイツらとちゃんとカラオケしてきた。せっかく差し入れ持ってきてくれたのに、さすがに誘った私までいなくなってその場をお開きにするわけにはいかないじゃん?」


早紀が笑う。


「そうだよね……。ごめんね、早紀……。いろいろありがとう」


「ううん。でも、私もビックリした。まさか、かおりの〝保健室の彼〟が正吾だったなんて。全然考えもしなかった。だから、正直『え?え?どういうこと?』って混乱した。ちょっと動揺もした。だから、どうしていいかわからなくなって飛び出しちゃったかおりの気持ち、わかるから」


早紀が静かにほほ笑んだ。


「早紀……」


「でもさー。こんな偶然、ホントにあるんだねー。ある意味うちらすごくない?」


「うん……。すごい」


早紀のはじけそうな優しい笑顔につられて、私も少し笑った。


「正吾、すぐ来た?」


「あ……えっと……どうだったかな。ちょっと薄暗くなってきてから、来てくれたかな……」


「そっか。でも、ちゃんとかおりを見つけられてよかった。『たぶんかおりは、その辺の公園とかにいるかもしれない』って私ヒント出しといたんだー。かおりといろんな話する時、けっこう公園とか行くじゃん?ベンチ座ったり、ブランコ座ったり。だから、きっとそうじゃないかと思って。ビンゴだったねー」


早紀がにししと笑いながら、私の顔を覗き込んできた。


「そうだったんだ……」


「もし、かおりに会えなかったら戻ってくるって正吾言ってたの。でも、戻ってこなかったから。ああ、ちゃんとかおりと会えたんだなって思ってた」



〝やっと見つけた〟ーーーー。



私を探して、私のところまで来てくれた彼の声が、今もまだ耳に残ってる。


なんだか胸がきゅうとなった。


「……ち、知里ちゃんやみんなは大丈夫だった……?」


「問題なし。めっちゃ楽しんでたよ。今度はかおりも一緒にって言ってたよ。アイツらいいヤツらだから大丈夫」


なんとなくみんなの楽しそうな姿が目に浮かんだ。


そしてその中で、きっと早紀は誰よりも明るく楽しくみんなを盛り上げようと笑顔でいてくれたに違いない。


「……そっか。ありがとう」


ちょっと涙が出そうになった。


早紀の笑顔は、とても優しい。



そして、とても綺麗だ。



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