君が好きーーーーー。

「おわ!かおり⁉︎おいっ。大丈夫かよっ」


慌てて駆け寄ってくれる高林くんの気配を感じつつも、思いっ切りぶつけたお尻が痛くて。


一瞬、チカチカと星が見えた。


い、痛い……。


「だ、だ、大丈夫でございます……」


痛さのあまり、おかしな言葉遣いになっていることも気づかず、私はのそのそと体を起こした。


すると。


「ぶ……ぶはははは!」


そばにしゃがみ込んでいた高林くんが、突如お腹を抱えて笑い出したの。


しかも、涙流しながら。


え……?


「おまえ。おっもしれーな」


ひーひー言いながら笑う彼。


お、おもしろい……。


転んでる私の姿が、ダサ過ぎて。


笑われてるの……?


私の中に急に恥ずかしさが込み上げてきた。


顔は火のように熱い。


絶対真っ赤だ。


とてもじゃないけど、高林くんの顔など見れない。


「……ご、ごめんなさい……。あ、じゃなくてっ……。その……」」


なんで謝ってんの?


やだ、どうしよう。


なんか泣きそう。


うつむいてまぶたをぎゅっと閉じる。


すると。


「あ、ごめん。ちがうんだ。おもしろいっていうのは……なんつーか。褒め言葉!」


「……え?」


褒め、言葉……?


ぽろっとこぼれてきた涙をそのままに、私はキョトンと高林くんの顔を見た。


「なんかさ。かおりって、顔に似合わずいきなり予想もしないような行動するから、ビックリする。で、おもしろい」


そう笑顔で言いながら、私の腕を優しく持って立たせてくれる高林くん。


「……あ、ありがとう……」


「大丈夫か?ケガは?」


「……大丈夫。……お尻がちょっと痛いけど……」


「だろうな、見事な尻もちのつきっぷりだったもんな。おまえ、コントやれそ」


「コ、コントなんてっ……。私できない!」


ちょっとだけムッとして、思わず真顔で否定。


「ジョーダン、ジョーダン」


高林くんがおかしそうに笑いながら、私の頭をくしゃくしゃっとなでた。



ドキン……ーーーーーー。



顔がまた熱くなる。


どうしよう。


どうしよう。



胸が高鳴る、熱くなる。


彼の手が、声が、笑顔が。


私の中でいっぱいになる。


私。


この人が、好き……。



好き……ーーーーー。



だけど。


彼は、早紀の好きな人ーーー。


大切な友達の好きな人。


私の中でいろいろな感情が入り乱れる。


どうしたらいいの……?


早紀の明るい笑顔が、私の胸の中をよぎっていく。



キィッ。


高林くんが、ふいにブランコに立ち乗りして勢いよくこぎ出した。


「まぁさ。みんないろいろあるし、いろんなヤツがいるけどさ、無理しなくていいんじゃね?」


え……?


「おまえにはおまえのよさがあるよ。今日のことは気にすんな。アイツらも気のいいヤツらだから、全然気にしてないから」


カラッと笑う高林くん。


やっぱり、すごく優しい人なんだな……。


いろんな気持ちの中で、あたたかい言葉が胸にくる。


「だから。とりあえず、元気出せっ」


私に笑いかけてくる、優しい瞳。


外はもう薄暗いけど、彼だけ明るく見える。


「オレでよければ、いつでも話聞くから。どうしようって悩むこととか、困ったこととかあったらオレに言え」


ドキン ドキン ドキン。


「力になるから」



ーーーーー喉の奥が、熱い。



ガシャンッ。


威勢よくブランコからジャンプして地面に着地。


そして。


「誕生日、おめでとう」


私の方を振り向いて、彼が笑ったの。



「ーーー……ありがとう」



熱い……。


「帰るか。家どこだ?近くまで送るよ」


「あ、大丈夫。そんなに遠くないからっ……」


「そうか?じゃあ、気をつけて帰れよ」


「あ、これっ……。洗って返すから……」


私が慌てて言うと。


「やる。けっこういい生地だろ?色もキレイだし。誕生日プレゼントーーー。なんつってー。ジョーダン、ジョーダン。ただのハンカチ。やる」


カラッと笑う優しい笑顔。



胸が、熱いーーーーーー……。



「じゃあな」


小さくなっていく後ろ姿。



早紀……?


どうしたらいい……?


私も。


私も、高林くんが……。



高林くんが、好きだよ……ーーーー。



こぼれる涙。


彼のハンカチは、太陽の匂いがした。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る