ブルーのハンカチ
胸が痛い。
早紀は、私がどうして飛び出したのかちゃんと知ってる。
それでも、私のためにわざと高林くんを来させてくれたんだ……。
自分が大好きな、高林くんを……ーーーー。
「……そう……だったんだ……。あ、ありがとう。ご、ごめんねっ。私大丈夫だから。……高林くんももう戻って。みんなのとこ……。ホントにごめんなさい」
私が頭を下げながら言うと。
「おまえも戻るか?」
高林くんが、お茶をグビッと飲みながら私に聞いてきた。
「え?わ、私は……そ、その……。今日は、もう……」
「じゃあ、オレも戻らない」
「え、ええ?」
「アイツらなら、オレらがいなくても盛り上がってっから大丈夫だよ。原田もおまえのこと心配してたけど、アイツらが『正吾に任せとけば大丈夫だから!』とかって、オレ追い出して原田にマイク持たせて強引に歌わせてたから」
高林くんが笑いながら言った。
そうだったんだ……。
「あ、あの……。ごめんなさい……。いろいろ……。ちょうど私の誕生日だからって、みんなわざわざ集まってくれたのに……。私……」
私のせいで、みんなに迷惑かけてしまった。
高林くんにも、早紀にも……。
最悪……。
申し訳ない気持ちとなんだか情けない気持ちと、いろいろ気持ちがぐちゃぐちゃになって、また涙が溢れてきた。
「あーあー。泣くなっ。それ以上泣くと、脱水人間になっちまうぞっ」
「……脱水人間……?」
「そっ。体の水分がなくなって干物みたくカラッカラになっちまうんだぜ」
イタズラっぽい瞳で、真面目な口調。
「……ふ」
乾いて枯れていた土に一滴水が染み込んだみたいに、私の心にもほんの少し光が差し込んだ。
「お。やっとちょっと笑った。これ、使えよ」
高林くんが、ジーンズのポケットから取り出したブルーのハンカチを私に差し出した。
「でも……」
「大丈夫、ちゃんと洗濯してあっぞ」
「あ、そ、そういうことではなくて……。悪いから……」
私が小さく横に手を振ると。
「いいからっ」
高林くんが私の手にハンカチを持たせた。
「しかし、おまえもラッキーなヤツだな。オレ、ハンカチなんてめったに持ち歩かねーんだぞ。今日たまたまこのパーカー、洗濯干してあるとこから取ったら、横にそれも干してあって。ついでに取ってポケットに突っ込んできた」
……うん、そんなカンジ。
ふふ……。
「ありがとう……」
私は、彼のハンカチをそっと目にあてた。
それだけで……不思議と、赤く腫れたまぶたも治るような気さえした。
そんな私の横で、高林くんが小さくブランコをこぎながら言ったの。
「ーーー人、苦手?」
「え……。え、えっと……。苦手というか……緊張してしまうというか……。うまく、話せないというか……」
今回は……それだけではないんだけど……。
「オレは?オレといても緊張する?」
「え?」
高林くんが私を見る。
ドキン。
胸が鳴る。
「この前さー。オレ、楽しかったよ」
「え?」
「おまえと……かおりと、保健室で話したの」
「えっ?」
楽しかった……?っていうか。
か、か、かおり⁉︎
高林くんが、サラッと私のことを下の名前で『かおり』と呼んだ。
ドッキン ドッキン ドッキン。
心臓が尋常じゃない速さで波打っている。
「どした?」
「い、い、いえ……な、なんでもないですっ……」
真っ赤な顔で、ブンブン首を振る私。
しゃ、しゃ、社交的で明るい高林くんは、きっと女子のことをなんの気なしにサラッと自然に下の名前で呼べちゃう、そういう人なんだよ。
早紀や知里ちゃんもかおりって呼んでるから、その流れで。
現に、私のことを『かおり』と呼ぶ高林くんが自然過ぎて、あまり違和感を感じないのも事実だし。
だから、これはなんら深い意味はないんだよ。
だから、落ち着こう、私。
胸をさおえながら、深く深呼吸。
スーハー……スーハー……
スーハー……スーハー……
「……なんでそんな深呼吸してんだ?」
目を閉じて深く深呼吸していたら、ふと目の前っで高林くんの声。
パチッと目を開けると。
ちょー至近距離で、高林くんが私の顔を覗き込んでいた。
「!!」
ひゃーーーーー!!
ガシャンッ。
私は、驚きのあまり思わずブランコから手を離してのけぞって。
ドタンッ。
後ろにひっくり返って落ちた。
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