帰り道の公園
キィ……。
ひとりぼっちのブランコ。
帰り道で見つけた、どこかの知らない公園。
誰もいないこの公園のブランコにひとり座る私は、空が薄暗くなってもその場から動く気になれなかった。
こんなことってある?
保健室のあの人が……あの彼が……。
早紀の好きな人だったなんてーーーー。
止まりかけた涙が、また溢れてきた。
ぐずっ。
きっと、私今ひどい顔してる。
こんなんじゃ、うちに帰れないなぁ……。
コンッ。
突然、ブランコの前にある手すりの柵に小石が当たった。
え……?
なに……?
「ナイスショット」
誰かの声。
薄暗い公園の入り口に立ちすくんでいる影。
誰……?
こっちに向かって歩いてくる。
「やっと見つけた」
え。
「……た、たっ……」
高林くんっ……⁉︎
そこには、小石をポンポンと手の上で投げている高林くんが立っていたんだ。
ウソ!
なんで……?
イヤだっ……。
ガシャンッ。
私は、ブランコを乗り捨てて駆け出そうとした。
だけど。
「おいおいおいおい、待てって」
ぐいっと腕をつかまれた。
ドキン!
「忘れもん」
彼が、ひょいっと小さなベージュのポシェットを持ち上げた。
「えっ?あっ……」
私は慌ててポシェットのヒモをかけてたハズの右肩と、バッグがあるハズの左腰を触った。
ないっ。
それ、私のポシェットだっ。
そうだ……私、カラオケの部屋にポシェット置いたまま出てきちゃったんだ。
やだ……。
ポシェット忘れてきたことにも全然気づかなかった。
目の前に高林くんがいる緊張と、ポシェットを忘れた恥ずかしさとで顔が真っ赤になってしまった私は、かすかに震える手でポシェットを受け取った。
「……あ、ありがとうっ……」
そして、ペコッと頭を下げてその場を走り去ろうとしたのだが。
「待てって」
再び、ぐいっと腕をつかまれた。
ドキン。
大きく鳴る胸。
喉の奥が熱い。
苦しい。
早く逃げ出したいっ……。
心の中で『ごめんなさい』と言いながら、私は彼の手を振りほどいて逃げようとしたの。
だけど。
「逃げるなってっ」
ビクンーーー。
彼の、力強い声と、その真っ直ぐな瞳に。
私は振りほどこうとしていた自分の手を、静かにおろしたんだ。
プシュッ。
缶ジュースの開く音。
「あったかいから」
ココアの甘い香りがする。
「……ありがとう」
少し肌寒くなってきた中。
高林くんが差し出してくれたホットココアを受け取り、私はそっとそれを両手で包んだ。
あったかい……。
「ちょっと寒くなってきたよな。オレもなんかあったかいの飲もっと」
高林くんが、自動販売機に走って行った。
寒いのに。
体はひんやりするのに。
ドキドキして、胸の中だけ熱くなってる。
だけど……。
すごく、苦しい。
あったかいお茶を買ってきた彼は、私の隣のブランコに座った。
そして、ペットボトルのキャップを開けながら言った。
「『かおりはすごく人見知りだから。知らないヤツらが一気に現れて、たぶん極度に緊張しちゃったんだと思う。それでどうしていいかわからなくなっちゃって、飛び出しちゃったんだと思う。だから大丈夫』」
「え……?」
「『でも、正吾みたいな明るいお調子者が話を聞いてあげれば、かおりもきっと元気になるから。遅刻した罰としてかおりを探して元気にしてあげて』」
え……ーーー。
「と、原田におまえのポシェットを渡されて。カラオケを追い出されて。で、オレが今ここにいるーーーーーというわけ」
早紀……ーーーーーー。
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