彼の名前はーーーーーー……
う、うわー。
緊張するっ……。
顔、上げられないよぉ。
「かおり、みんな知らないヤツばっかだと思うから紹介するね」
「う、うん……」
下を向いたまま小さく返事。
「かーおーり」
みんなの顔を見れずにうつむいている私の肩を、知里ちゃんちょっと笑いながら優しくポンと叩いた。
そ、そうだよね。
こんな下向いてちゃみんなの顔見れないよね。
ちゃんと挨拶しなきゃね。
私は、おそるおそる少しだけ顔を上げた。
「こっちが
「ういっす!」
「どもー」
元気そうな男子2人が、明るく声をかけてくれた。
「は、はじめまして……」
まともに顔を見ないまま、私はペコッとお辞儀。
そして。
「ーーーで。こっちが正吾。中学から一緒のヤツ」
早紀の声。
高林くんだーーーー。
私は、緊張しながらも静かに顔を上げたの。
ーーーー……え?
私の目は、ひとりの男子の瞳に止まった。
ウ……ソ。
なんで……?
私の頭は真っ白になってしまった。
なぜなら。
そこに立っていたのは……。
私がもう一度会いたいと思っていた、あの名前も知らない保健室のあの、彼だったから。
〝その人〟だったからーーーーー。
「ーーーあ、おまえっ⁉︎」
彼が私に気がついたみたいで、声を上げた。
「え?なに、2人とも知り合いなわけ?」
キョトンとしている早紀。
どうして……?
どうして……?
どうして……ーーーーー?
胸が震える。
「この前の地区大会の時、たまたま教室でオレら鉢合わせて。ドア開けるタイミングが悪くてオレが転ばせちゃって足痛めちゃって。それで、一緒に保健室まで行ったんだ」
彼の弾む声。
「ーーーえ……?」
早紀が、静かに彼を見た。
「そういえば。あの時、お互い名前聞かなかったもんな」
嬉しそうに話す彼。
やだ……。
やだ……。
「おまえ、川村かおりだろ?オレ、高林正吾。よろしくな」
私の目の前に差し出される手。
ほんのり日焼けした大きくてキレイな手。
その手を見つめる早紀と私。
思ってたよ。
また……会いたいって。
もう一度、会いたいって。
願ってたよ。
17歳の誕生日の奇跡を。
それが、叶った。
また、会えた。
私のこと覚えててくれた。
奇跡が起きた。
だけど……。
苦しいよ。
胸が痛いよ。
悲しいよーーー……。
どうして……ーーーーー。
つーっと、涙がひとしずく流れ落ちた。
「かおり……?え?ちょっと。どうしちゃったの⁉︎」
知里ちゃんが、私の顔を覗き込んで声を上げた。
「ちょっと待って待って。え?え?どうしちゃったの?」
ただならぬ空気にオロオロしている。
「お、おい……」
驚いているような戸惑ってるような彼の声。
私はうつむいたまま。
見れない。
彼の顔も、先の顔も……。
どうして……?
こんなことってあるの……?
早紀……ーーー。
「わ……わ、私……。よ、用事思い出してしまいました……。ご、ごめんなさい……」
震える声で精一杯振り絞った言葉。
「あっ。ちょっ……。かおり!」
「おいっ……」
知里ちゃんと、彼の声。
そして。
「……かおり……ーーー」
小さく私の名前を呼ぶ早紀の声を背中に聴きながら。
私はひとり駆け出した。
彼の名前は。
ーーーーー高林正吾ーーーーーー……。
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