聴いたことのある声
「遅いねー。正吾くん達」
3人でテンション高くカラオケをスタートしてから約30分。
知里ちゃんが、自分の曲を歌い終えてソファにもたれ込んだ。
「んーーー。もうすぐ来るハズだと思うんだけど……」
早紀が壁時計を見る。
私は、少々緊張しながらも、めったに来ないカラオケで久々にノリノリに(私になりに)なって楽しんでいた。
知里ちゃんが歌う元気なロックにワクワクしたり、早紀が歌う甘く切ないラブソングを聴いて、早紀と高林くんがうまくいくといいなぁ……なんて思ったり。
これから来る男子達の中に、あの人はいるのかな……なんて密かにドキドキしていたり。
だけどーーーーー。
そんな私に……私達に。
予想もしなかった出来事がこれから起ころうとしていることを、知里ちゃんも、早紀も、私も、誰も全く知るよしもなかったんだ。
まさか。
まさか、こんなことが起こるなんて。
こんなことがあるなんてーーー。
私も、そして早紀も。
夢にも思わなかったんだ……ーーーーーー。
「おっそい!」
40分経過してもまだ現れない高林くん達にしびれを切らした早紀が勢いよく立ち上がった。
「きっともうすぐ来るよ」
私が笑って言うと。
「いいや。遅刻し過ぎっ。頭きた。せっかくかおりの誕生日を祝おうって誘ってやったのにっ。張り切ってたくせにっ」
早紀がブスッと腕組みをした。
「早紀、私は全然平気だから。むしろ、わざわざ来てくれることに感謝してるくらいだよ。遅れるくらい全然大丈夫だよー」
「かおり、あんた偉い!」
知里ちゃんがふざけて頭をなでなでしてきた。
「でも、遅い!あたしちょっと見てくるねっ」
言うが早いか、早紀が部屋を飛び出して行った。
なんか、みんなせっかくの休日に無理させちゃったみたいだな。
悪いことしたなぁ……。
そう思っていたその時。
バンッーーー。
勢いよくドアが開いて、息を切らした大きな声が聞こえてきたの。
「わりぃ!遅れちまってっ」
「おっそいよぉー。駆けつけ1曲!」
知里ちゃんが笑いながらマイクで叫んだ。
うわ。
お、男の子達来ちゃった!
ど、どうしようっ。
また緊張してきちゃった。
入り口を背にするように置かれているソファ。
私が座っているそのソファの後ろで、男の子3、4人がガヤガヤ。
部屋の空気が一気に賑やかになった。
早紀も一緒に戻ってきたみたいだけど、恥ずかしくて後ろ向けないよぉー。
「ホント、遅刻も遅刻、大遅刻よっ。バカッ」
早紀がちょっとふざけながらその人をポンと押してる様子。
きっと、その人が早紀の好きな高林くん、だね……?
「ってーなぁ。悪かったって。まぁ、差し入れ持ってきたからよ。ほら、めちゃくちゃ買い込んできたぜ。ここ、持ち込み禁止だろ?だからこっそり」
嬉しそうな声。
「あんた、よくこんなに隠し持ってこれたねー」
早紀が笑ってる。
「やったー。どれどれ、見せて見せて。あ、これあたし好きー」
駆け寄った知里ちゃんがわしゃわしゃと袋の中を見ている。
「うまいよな。オレもそれ好き」
イタズラっぽく知里ちゃんと話す声。
あ、れ?
この声……。
どこかで聴いたことがあるような……ーーー。
「かおりっ。カモンカモン」
「えっ」
早紀が来て、私の腕をつかんで立ち上がらせた。
それから耳元で。
「正吾、紹介するから」
小さな声でこそっと私に言った。
「あ……」
早紀の顔は、少し赤かった。
「う、うん……」
なんだか私まで赤くなってしまう。
すごく恥ずかしいけど。
緊張するけど。
こっそり私に紹介してくれるのって、なんかすごく嬉しい。
早紀の好きな人ーーー。
私も会ってみたかったんだ。
ドキドキする胸をおさえながら、私は早紀に連れられて、入り口付近でワイワイしてるみんなの前に立った。
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