少し新しい自分


プルプル!


思いっ切り頭を振っていると。


「かおり?」


早紀がひょこっと私の顔を覗き込んだ。


「えっ?」


「どしたの?頭振って。顔も赤いけど」


ドキン。


「えっ。あ、ううん。なんでもないのっ」


慌てて笑ってごまかしたけど、早紀に私が今考えてたこと気づかれちゃいそうで心臓がドキドキ鳴った。


「あ、えっと……みんなもそろそろ来るかな」


とりあえずなんでもいいから話題を変更しようと、私は歩きながら軽く後ろを振り返る。


すると。


「あ!それなんだけどねっ。アイツら寝坊したみたいで。ちょっと遅くなるから先始めててって」


早紀がプンプン怒ってる。


「あ……。高林くん達?」


「そうっ。家出るちょっと前に電話きてさ。『すまん、今起きたっ』だよぉー?昨日、正吾んちでみんなで遊んでそのまま泊まったらしいのよ。どーせ朝方までギャースカ騒いで遊んでたんでしょーよ。ホントバカ!たぶん今頃急いで順番にシャワーでも浴びてるわ、きっと」


プンプンしながらため息をつく早紀。


でも、どこか憎めないってカンジでちょっと苦笑いも混ざってる。


ふふ。


「そうなんだ」


みんな慌てて家飛び出して来るんだろうな。


なんかおかしい。


クスクス笑ってたら。


「ごめんね、かおりー。せっかくかおりも誕生日だしみんなでパーッとやろうって計画したのに、アイツら遅刻で……」


早紀がすまなそうに手を合わせた。


「ううん。全然だよ。私の方こそ、せっかくの休みなのにみんなに集まってもらっちゃって。高林くん達にも忙しい思いさせちゃったね」


「とーんでもないっ。この話持ちかけ時、正吾すっごい乗り気でふたつ返事でOKだったんだから。今日の集まりめっちゃ楽しみにしてるよ。アイツお祭り大好き人間だから。今日も楽しみにしてたんだよ。だから、きっと誰よりも張り切ってくるよ。しっかり遅刻だけどね」


早紀の呆れた笑い。



早紀、高林くんのことバカだって怒ったり呆れたりしてるけど。


すっごくすっごく好きなんだね、きっと。


見ててそんなカンジがする。


だって、怒ってても呆れてても、なんだか高林くんの話をしている早紀は、なんだかとっても嬉しそうなんだもん。


確か、中学から仲がいいって言ってたよね。



早紀の好きな人ーーーーーーー。



きっと、とってもいい人なんだろうな。


高林くんは幸せ者だ。


明るくて、性格もよくて、美人でモテモテの早紀に好かれるなんて。


もしかしたら……高林くんも早紀のことが好きだったり……ってこともあるのでは?


昔から仲いいみたいだし。


うん、きっと高林くんだって早紀のこと好きだと思う。


もしそれが、今はまだ友達としての『好き』だったとしても、早紀の友達以上の『好き』の気持ちを知ったら。


高林くんだって、きっと早紀のこと好きになっちゃうよ。


だって。


私が、もし男だったらーーーーー。


高林くんだったとしたら。


きっと、早紀を好きになっちゃうから。



「かおりのそのワンピ、カワイイ。この前一緒に買いに行ったヤツ?」


「うん」


今日は、買ったばかりの淡いアイボリーの小花柄小のワンピを着てきたの。


七分袖で、裾にはゆるいフリルがかかってるんだ。


そして、足元には白のペタンコシューズ。


私にとっての精一杯のオシャレ。


「私にはちょっとハデかなぁ、とも思ったんだけど……」


「全然!そんなことない、すごい似合ってる。確かあの時、薄いピンクかアイボリーかで迷ってたんだよね。やっぱアイボリーで正解だったね」


「ホント?嬉しい」


よかった、これ着てきて。



「やっほーーー!」


カラオケの入り口のところで、知里ちゃんが大きく手を振っている。


「おーす」


「やっほー。知里ちゃん」


私が手を振りながら近づくと。


「うわ!かおりが髪下ろしてるっ。カワイイ!」


知里ちゃんが、ふざけて私にぎゅっと抱きついてきたので思わず笑っちゃった。


「ありがとう、知里ちゃん。17歳になったから、ちょっとイメチェンしてみた」


「すごくいい!あたしも髪伸ばそっかな。で、正吾くん達は?もう来る?」


「それがさぁ……」


「さては寝坊だ!」


知里ちゃんが楽しそうにズバリ。


「正解。ホントごめんねー。かおりも知里も。でも、アイツら先にやっててって言ってたから、先、行っちゃおう」


「行こ行こ!カラオケ久々っ。歌うぞぉー!」


知里ちゃんが元気よくこぶしを振り上げた。


「よっしゃぁー!歌いまくるぞー!踊りまくるぞー!」


早紀もこぶしを振り上げる。


「かおりもほらっ」


知里ちゃんが私のこぶしを持ち上げる。


「え、ええ?」


「かおりも歌いまくるぞー!ハッピーバースデー!!」


早紀が笑いながらわたしの隣にピタッとくっついてきた。


知里ちゃんも「おー!」と言いながら反対側にくっつく。


2人に挟まれた真ん中の私。


「……お、おおー!」


不慣れながらも、一応こぶしを静かに上げてみた。


そんな私を見て、早紀も知里ちゃんも大笑い。


2人の笑い声につられて、私も笑う。



17歳になった私。


ちょっとだけ。


ほんの少しだけ。


新しい自分に出会えた気がした。




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