奇跡があるのならーーー

「えっ」


私は思わずパッと顔を上げた。


「図星、でしょ」


満面の笑みで私の顔を覗き込む早紀。


「……えっとその……」

たじたじの私。


早紀にはかなわないなぁ……。


「う……うん」


私が小さくうなずくと。


「そっかぁー」


ヤケに嬉しそうちゅるちゅるとにシェイクを飲む早紀。


「ホ、ホントにそんなんじゃないのっ。この前一度会っただけだし、名前も知らないし……」


「わかってるって。ただ、なんとなーくいい人だなぁーと思って、なんとなーく気になって、なんとなーくまた会いたいなぁ……って思ってるだけだもんね」


恥ずかしい。


「……も、もういいからっ。私のことは」


「はいはい。でも、とりあえずカラオケには行こう。景気づけにさ。それからがんばっちゃお!テストも恋も。それに。もしかしたら、その人来るかもしんないよ」


「えっ?そ、そんなわけないよっ」


「わかんないよぉー?だって、その人もサッカー部だったんでしょう?」


「うん……。ジャージ着てた。サッカー部の。試合の話もちょっとしてくれた……」


「そしたら、たぶん……っていうか、間違いなく正吾もその人のこと知ってるってわけだ。しかも、ただ知ってるだけではなく、正吾の友達っていう可能性もあるわけだ」


「え?そ、そうかな……そういうこともあったりするのかな……」


「可能性は十分にある!だとしたらさ、なんかすごい楽しくない?私とかおり、好きな人が同じサッカー部で!それでもって、いつか4人でダブルデートとかっ」


「す、す、好きな人!ダ、ダ、ダブルデート!」


そんなフレーズだけで、ど緊張でくらくらしてきちゃう。


「いいねいいね!絶対楽しい!」


ウキウキ興奮気味の早紀。


「そ、そうだね……」


「ああー!かおりのその人誰ー?気になるーっ。どこのクラスかもわかんないんだっけ?」


「うん……。同じ学年ってことしか……」


「うーーーん。せめてクラスだけでもわかればなー。そしたらさ、正吾にそのクラスのサッカー部の友達連れてきてって頼めるんだけどなー。そしたら、かなりの確率でかおりの〝その人〟に会えるかも!」


真剣に考え込む早紀。


「い、いいいい!早紀、いいのっ。そんなに考え込まないで。もし、万が一その人がカラオケに来たら……私、嬉しいけど恥ずかしくて困っちゃうし」


「ねぇ!いっそ洗いざらい正吾に打ち明けて相談乗ってもらっちゃう⁉︎で、その人探してもらおうよ!」


「ダ、ダメダメ!絶対そんなことしないでよっ⁉︎」


そんなの恥ずかし過ぎるもんっ。


「んーーーー。わかった。じゃあ。今回はとりあえず正吾と正吾の仲いい友達何人か呼んで。その友達の中に、かおりのその人がいるかもしれない、という奇跡を願おう」


「う、うん……。ありがとう早紀」


「あ、でも。学校でもしその人見かけたりしたら、ちゃんと教えてよぉー?」


早紀がニヤニヤしながら肘でつついてくる。


「……うん。わかった」


私は照れ笑いしながらうなずいた。




もしかしたら。


もし、奇跡があるのならーーーーー。


あの人と偶然の再会ができるかもしれない。


また、あの人に会えるかもしれない。


会って、また一緒に話ができるかもしれない。


もし現実にそうなったら、恥ずかしさと緊張で大パニックになってしまうにちがいない。


だけど。


知らず知らずのうちに、その小さな可能性にかけずにはいられない気持ちになっている私が、ここにいた。


私は心の中で小さくつぶやいた。



……もし、奇跡が起こってくれたら。


嬉しいな……。




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