放課後の保健室
「おわっ?」
後ろから、驚いた男の人の声。
いたた……。
ああ、そっか。
この人がドアを開けた時、私がもたれかかっていたから……。
「いたた……」
思いっ切りぶつけてしまった左足をさすりながら、私は起き上がろうとした。
「お、おいっ。大丈夫かよっ⁉︎」
その人が慌てて私のそばにしゃがみ込んだ。
「わりぃ!大丈夫かっ?」
すごく心配してくれてる様子。
「い、いえ。私がドアにもたれかかってたりしてたから……いたた……。ホントにごめんなさい……つっ……」
どうしよう、足ひねっちゃったのかなぁ。
痛くて立てないよぉ。
「足か?」
そう言うなり、その人はいきなり私の体を自分の背中に引っ張り寄せたの。
「えっ⁉︎」
お、おんぶーーー⁉︎
ビックリ、パニック。
思わず痛さも吹き飛んだ。
「あ、あのっ……いいですっ。大丈夫です!お、お、降ろして下さいっ……」
「いいから。黙って乗ってろ。保健室まで行くから」
「えっ……。で、でもっ」
ひとりでオロオロしていると。
その人は、私をおんぶしたまま誰もいない廊下をさっさか歩き出したの。
う、うわ。
ど、どうしよう。
ドキドキしながら、おそるおそるその人の肩にそっとつかまる。
ジャージ……サッカー部だ。
上は長袖のジャージ、下はユニフォームのハーフパンツ。
「あ、あの。ホントに大丈夫ですっ。私重いし……」
ど、どうしよう。
予想もしなかった出来事に、私はオロオロするばかり。
だけど。
「いいから。ちゃんとつかまってろよ」
ちょっと強引で、でも優しそうな声でそう言われて。
「……はい」
私はなにも言えなくて、思わず小さくうなずいてしまったんだ。
「よし」
そう言うと、彼はカラカラと笑ったの。
細いけれどガッシリした大きな背中。
D組の教室に入ってきたけど……うちのクラスの人じゃないよね。
顔もちゃんと見てなくて、どこの誰なのかもわからない人。
そんな人の背中におぶられて。
考えたら、私今かなんかすごいことになってない……?
うわ……急にみるみる緊張してきた。
早紀、助けてぇーーーー。
私、知らない男の人の背中におんぶしてもらっちゃってるよぉぉ。
あたたかい背中の後ろで、私の心臓はバクバク鳴っていた。
「ーーーはい。これでよし。腫れもないし、しばらくシップしていればじきに良くなると思うわ」
保健の
「あ、どうもありがとうございます……」
「じゃ、私はちょっと職員室に行ってくるから。そのまま少し休んでいきなさい」
「あ、はい」
パタン。
三山先生がいなくなって、保健室は私ひとりになった。
さっきの人。
あの、私をおんぶしてきてくれた人。
結局、誰かもわからないうちに行っちゃった。
私をベッドの上に座らせると、『先生、お願いしますっ。オレ、ちょっと……』って、慌てて保健室を飛び出して行ったの。
ちゃんと顔も見れないまま。
誰だったのかもわからないまま……ーーー。
だけど、すぐいなくなってくれてよかったのかもしれない。
だって、あの人の背中に乗っている間、心臓がバクバクいっててすっごい緊張してたから。
もしかしたら、あの人の背中に私の心臓の音が響いていたかもしれない。
だとしたら、ものすごく恥ずかしい。
もし、今ここにあの人がいたら。
保健室に、私とその人との2人きりになっちゃってたかもしれない。
かぁぁ。
無理。
そんなのとんでもないよっ。
ブンブン首を振っていたら。
ガラッ。
突然、保健室のドアが開く音がして。
「おすっ」
なんと。
さっきのあの人が、息を切らして立っていたんだ。
ドキンーーーーー。
大きく胸が鳴った。
ウソ。
な、なんで?
どうして……また来たの……?
またしても予想もしなかった出来事。
頭が真っ白になってしまった私の視線は、その人に釘付けになってしまったの。
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