出会い

「あ、ほらっ。今ボール蹴った人!あの人だよっ。かおり!」


え、え、どれ?


「わかんないよぉー。早紀ー」



ようやく〝早紀ちゃん〟から〝早紀〟に慣れてきたこの頃。


今はね、早紀と2人でサッカーの試合観てるんだ。


うちの高校のグラウンドでやってる地区大会。


いろいろな高校のサッカーチームがきてるの。


ちょうど今、うちの高校のサッカー部の試合やってるんだ。



それでね。


その中に、早紀の好きな人がいるんだって。


同じ2年生の人で、名前は高林正吾たかばやししょうごくん。


A組の人らしいんだけど。


私っていまいち他のクラスの男子にうといっていうか、知らないっていうか……。



「ほらっ。背番号9のヤツ!」


早紀が私の肩を揺さぶってるけど。


ダメだぁ。


遠くてわかんないや。


「やっぱりここからじゃわかんないかも……」


あーん、残念っ。


早紀の好きな人を見れるいい機会なのに。


どんな人なのか知りたかったなぁ。


ちなみに、早紀とその人は一緒の中学で、その時からの友達でけっこう仲もいいみたい。


学校の中では、なかなか会えないみたいで話す機会もあんまりないみたいだけど。


「ほらほらっ。あれ!」


「えー」


「かおりっ。もっと目ェ広げて!」


「ええー?」


そんなカンジで、笑いながら私と早紀がフェンスを背にして夢中で試合を観ていると。


ポン。


隣の早紀が、誰かに肩を叩かれた。


私も一緒に振り向くと。


他校のサッカー部のジャージを着た男の人が2人、並んで立っていたんだ。



うわわ。


な、なに?


この人達は……。


そのうちのひとりが、いきなり早紀に。


「あ、あの。ちょっと話があるんだけど、いいスカ?」


なんて言ってるの。


「は?」


ポカンと相手を見返す早紀。



話?


話ってなに?


当の本人よりも、隣にいる私の方がドギマギしちゃってる。


前にもあったような気がする。


ほら、桐山くんが早紀を呼び出した時。


あの時も、私の方がドキドキしちゃって。


ーーーあ。


私はピンときた。


同じだ、あの時とーーーー。


と、すると。


これって、これって。


ひょっとして、また……



告白……ーーー⁉︎



ドッキーン。


うわ、顔が熱くなってきちゃった。


私が緊張しても仕方ないのにっ。


で、でもっ……。


「あっ。えっと……。さ、早紀、私ちょっと教室に行ってくるねっ」


「えっ?」


私、どうしたってこういうのダメだぁ。


「ちょ、ちょっと。かおりっ?」


お邪魔虫は消えますっ。


ごめんね、早紀。


私は、そそくさと小走りでその場を去った。





ガラッ。


誰もいない教室。


「……ふぅ」


私は、閉めたドアにもたれかかった。


早紀、どうなったかな。


やっぱり告白されたのかな。


たぶんそうだよね。


あ、でも……早紀は高林くんのことが好きだから。


あの人、フラれちゃうね。


そんなことをぼんやり考えている間に、走ってきたせいで速く鳴ってた鼓動もだんだん落ち着いてきた。


「ふぅーーー……」


大きく深呼吸。


窓の外に目を移す。



……私のバカ。


私が緊張してどうすんだ。


全然関係ないのに。


なのに。


走って逃げてきちゃう自分がすごく恥ずかしくて、すごく情けないよ……。



わぁぁぁーーーー……



窓の外から、小さく歓声が聞こえる。


試合、終わったのかな。


どっちが勝ったんだろう。


うちの学校だといいな……。


気になるものの、なんだかその場から動く気になれず。


私は、ドアにもたれかかったままボーッとしていた。



早紀ってね、今まで6人の人に告白されたことがあるんだって。


すごいよなぁ。


私なんて当然ながらゼロ。


早紀の周りは、いつだって華やかな空気が流れてる。


ホントにドラマみたいなラブストーリーが起こりそうな、そんな空気を持っている。


それに比べて。


私は、なんだろう……。


これから先、私を好きになってくれる人なんているんだろうか。


なんだか切ない気分になってきた。


だって。


ひょっとしたら……私はずーっとこのまま、ひとりなのかもしれない。


そう考えたら、体の奥の方から深いため息が出そうになった。


フルフル。


慌てて首を振った、その時。



ガラッ。



もたれかかっていたドアが勢いよく開いて。


「きゃぁー!」



私は、床へ吹っ飛ばされたんだ。





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