気持ちや想いは、言葉にしないと伝わらない

早紀ちゃんは、さっきからひとりでしゃべっている。


いつもと変わらぬ帰り道。


いつもと変わらぬ風景。


いつもと変わらぬ早紀ちゃん……。



でも。


早紀ちゃんは今なにを考えているの?


隣にいるのに全然わからないよ。


私と早紀ちゃん、仲良くなってからもうだいぶ経つのに。


今までいろんな話、いっぱいしてきたのに。


お互いなんでも言い合える相手だと思ってたのに。


どうしてなにも言ってくれないの?



だけど……。


早紀ちゃんだけじゃない。


私だって、明るく笑い飛ばして早紀ちゃんに話しかければいいのに。


『好きな人いないって言ってたけど、早紀ちゃんホントはいるんでしょー。さっき桐山くんに早紀ちゃんの好きな人は誰なのか聞かれたよー』


って。


明るく笑って……。


そんな風に、サラッと受け止めてサラッと流せる自分になりたい。


なんでも自分の中でだけで考え込んで、勝手に寂しくなってしまうそんな自分が大キライ。


キライだけど、これが私……。


だけどーーー。


私は、早紀ちゃんのこと……大好きだから。


大好きだから……ーーーー。



「かおり?」


喉の奥が熱くなって、私はいつの間にか立ち止まっていた。


「……どうしたの?かおり?」


「わた……私には言えない……?」


気がついたら、口から言葉が出ていた。


「わ……私は、早紀ちゃんのことが好きだから。大好きだから。大切な友達だから。どんなことでも力になりたいし、応援したい。口だって硬いし。だからーーーー。早紀ちゃん……。もしよかったら、私になんでも話して。ホ……ホントのこと言ってーーー……」


涙が出るのとほぼ同時。


早紀ちゃんが、私のことをぎゅうっと抱きしめた。



「私もかおりが大好きーーー。……桐山に、私の好きな人は誰かって聞かれた?」


私は、泣き顔のまま静かにうなずく。


「ごめんね、かおり巻き込んじゃって。突然桐山にそんなこと聞かれてビックリしたでしょ。……昼間は好きな人いないって言ったけど……。ホントは、いる。……ちゃんとそのうちかおりにも打ち明けようと思ってたよ。でも、今日いきなり桐山に告白されて。それで知里もいたから、なんか言えなくて……。

今も、いつ言おうか、どう言おうかってずっと考えてた。でも、ウソつかれたみたいなイヤな気持ちにさせちゃったよね……。ごめん、かおり」


早紀ちゃん……ーーー。


早紀ちゃんがそっと離れた。


「なんかさ。やっぱちょっと……。ちょっとっていうか、だいぶ、恥ずかしくってさ」


ふと顔を上げると、早紀ちゃんの顔が耳まで赤くなっていた。


「早紀ちゃん……。顔、赤い。……カワイイ」


赤というより、割と真っ赤だ。


私は、涙と鼻水をすすりながら思わず笑った。


「もぉ、かおり笑わないっ。それと〝早紀ちゃん〟じゃなくて、〝早紀〟!」


私の涙は、嬉し涙に変わっていた。




気持ちや想いは、言葉にしないと伝わらない。


例えそれが小さな些細なことだとしても。


勘違いや誤解を招いたまま、寂しい気持ちを抱えてしまうこともある。


仲がいいからこそ、きっと大切なことなんだ。


早紀ちゃんに、自分の想いをちゃんと言葉にして伝えることができた今日の私は、今までのうじうじした自分から、ちょっとだけ一歩前に進めたかもしれない。



私の心は、澄み切った青空のように晴れやかで。


そして、とてもあたたかかった。



それから。


明日は土曜日で学校も休みということで。


いったん家に帰ってから、私はお泊まりセットを持って早紀ちゃん……早紀の家に遊びに行ったんだ。


話が尽きない私達が、大盛り上がりで急きょ決めたお泊まり会。


楽し過ぎたことは言うまでもない。



そして、その日は2人でパジャマで朝まで語り明かしたんだ。




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