心の友

そして、その日の放課後。



私は、早紀ちゃんに告白した桐山くんに呼び止められたんだ。


ちょうど、放課後の玄関掃除当番の早紀ちゃんを待っている間に。





「ーーーーーー川村さん。ちょっといいかな……」



最初は誰だかわからなかったけど。


なぜだかとっさに昼間の早紀ちゃんの笑顔が浮かんだ。


そして、私は桐山くんと共に人通りの少ない廊下の隅に移動したんだ。



「急に呼び止めてごめん。川村さん、原田はらだと仲いいって聞いて……。それで知ってると思うんだけど。オレ、原田に告白したんだ……」


私は黙ったままうなずいた。


やっぱり、彼が桐山くんだ。


「それで……ちょっと川村さんに聞きたいことがあって……」


「な、なに……?」


おそるおそる私が聞くと。


桐山くんは、寂しそうな瞳でこう言ったの。


「もう聞いたと思うけど。オレ、原田にフラれたんだ。好きな人がいるからごめんって……」



え……?



「それで。オレ、どうしてもソイツが誰なのか知りたくて。ソイツがどうとかじゃないんだ。ただ、オレ……ずっと前からすげー原田のこと好きだったから。原田が誰のこと好きなのか知りたくて……」



早紀ちゃんの好きな人ーーーーーーー……



「川村さんなら知ってるかなと思って。……教えてくれないかな……。絶対誰にも言わない。それ知ったら、なんていうか……。原田はコイツのことが好きなんだなって……。オレにはもう見込みないんだなって。なんか諦められる気がしてさ……」



知らないよ、私……。


だって、早紀ちゃんに好きな人がいるなんてこと。


なにも聞いてないから。


私、なにも知らないよ……。



「川村さん……?」


「ごめんなさい……。私……ーーーー」


うつむいた目からは、なぜか涙がこぼれそうになっていた。


「あ……。あ、いいよ。ごめん。そんなの言えないよな。オレが無理に聞き出そうとして悪かった。ごめん……。ありがとう」


そう笑いながら、桐山くんは走り去って行った。



……言えないんじゃなくて、知らないんだよ。




「かおりーーーっ。そんな所でなにやってんのぉ?」


玄関掃除を終えて階段を上がってきた早紀ちゃんが、私を見つけて大きく手を振っている。



早紀ちゃん。


さっき、『好きな人はいない』って言ってたよね。


どれがホントの早紀ちゃんの答えなの?


……私には、話せない?


私達、〝心の友〟だよね……?



「かおりーーーー?」


「い、今行くっ……」


私は、薄っすら涙で滲んだ目を慌ててこすって教室に向かったの。



教室に入ると、いつもと変わらない早紀ちゃんがカバンを持って待っていた。


そして、すぐそのあとから知里ちゃんが教室に入ってきたんだ。


「あ、かおりっ。さっき桐山くんに呼び止められてたでしょー。なになに?どしたの?」



ドキンーーーーーー。



興味しんしんってカンジの知里ちゃん。


でも、早紀ちゃんはなにも言わずに窓の外を見ている。



「あ……。それは……」


どうしたらいいの……?


早紀ちゃん、なにか言ってよ。


聞こえてるでしょ……?


「そ、それは……」


声が震える。


「かおり……?あ……ごめん。なんか、あたし余計なこと言っちゃったかな……。ごめん、部活行くね」


知里ちゃんが、気まずそうに教室を出て行った。



「ーーーーーー帰ろう、かおり」



早紀ちゃんは、笑顔だった。




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