第24話 大砲ゴーレムと強化火薬


 ギラーテア達を見送った1週間後。


 いよいよ、このクリスト・ベリアにも抱擁の魔導王による、ペグ・クリストファ都市国家連合への宣戦布告の話はひろまり、戦いに備えての準備で、毎日が慌ただしくなってきていた。


「いやぁ、あそこの魔導王はバカ野郎だねぇ〜。この無学なアタシにだってひとつの都市国家が、連合に喧嘩売って生き残れないことなんざ、ゴーレムを見るより明らかだっていうのにねぇ〜」


「なにか企んでるんですよ。魔導王だって人間の魔術師。知ってますか、魔導王ってのは魔術の生まれた国アーケストレス魔術王国に起源をもつ、貴族達のことを呼んでいるってことを」


 俺は熱々のティーカップをアンの机において、部品ごとに分けられた魔導弓に、強化を付与していく。


「外国の貴族だって? なんで、そんなもんが、他の国で偉そうにしてんだい?」

「……昔の話をしましょう。一般には忘れられてますけど、そもそも都市国家ってもっとも古い国の形なんです。連合の外側、外国が変わっていくなかで、都市国家連合かひとつにならないのには、理由があります。″精霊せいれい″がそれぞれの都市に住んでいるからです」


「精霊かい。そりゃ、都市を外敵から守るって言う神様のことだろう。なんで、そんなものが為に、あたしたちゃ都市国家を維持するんだい」


「それは、精霊はもう精霊のままではいられず、今となっては恐ろしい『けもの』に変わってしまったからです。獣はたがいに殺しあってしまいますから、俺たちはひとつの国を作れません。ずっと昔に、魔導王という存在が必要とされたのは、各都市に巣食う獣を人がぎょするためらしいですよ。これが最初の質問の答えです」

 

 強化し終えたパーツをアンへ手渡す。


「獣、ねぇ。そんな大層なものが街のなかにいるなんて、聞いたことがないけどねぇ」

「人目にはつかない闇のなかにいるんですよ……まあ、たぶん、この街のはんですけど。……ん、組みたて終わりました?」


 話半分に聞いていたアンは、作業机のうえの弓を両手で持ちあげて見せた。

 

 ドラゴンの牙ではなく、そのための試作機として作成した、鋼と上質な木材の合成弓だ。


 一気に重たくなった弓を持つために、最近は筋力トレーニングと、弓身をささえる右手だけでも腕力を高められるように、他人用の強化魔術をなかば無理やりに調整したりしてきた。


 アンに渡された試作機を持ってみる。


 ん、ギリギリ構えられる、と言ったところ。

 自己強化が下手くそすぎて、ほとんど腕力が変わらないが、これはおいおい解決していけばいい。


「よし、木材の安い弓より、ずいぶんと耐久性も攻撃力もあがったはずさ、さっそく試してみようじゃないか!」

「そうですね、それじゃ、ちょっと寝てるウィンディ起こしてきます」


 俺は弓のための専用魔術≪展開てんかい≫を使って、弓を変形させ、刃渡り1メートルほどの幅広の剣ーーブロードソードに戻して腰に差した。


 やや重たいが……これも、おいおい解決できると願おう。



           ⌛︎⌛︎⌛︎



 公園での試射を行なった帰り。


 木々が無秩序に破壊されている、という世間話を散歩していた老人に聞かされて、マトモな試し射ちはできなかったという不満を俺は抱いていた。


 ゆえ、俺たちは地面へ矢をはなって、どれくらいの規模で、えぐれたのか、おおきさと深さを測り、威力がいかほど出ているのかを計測しはじめた。


 結果、公園には無秩序な穴場がたくさんできてしまったが、頑張って半分くらいは埋めたので、あの老人には許してほしい。


「先生、ドラゴンさんの素材をつかえば、もっと凄い弓が出来るんですよね!」


 往来をぴょんぴょん跳ねて歩きながら、ウィンディは楽しげに言った。


「そうだね、あれ以上となると、ちょっと弓矢というスケールに収まるのか、俺も自信がないけど、まだまだ威力はあがるはずだ。それに、ウィンディ、聞いて驚かないでほしいんだが、モイスティドラゴンの弓には、魔法の杖としての機能も搭載しようと思ってる。弓を持ちながら魔術も使えるんだぞ」


「先生、そんな凄すぎることして、怒られないでしょうかー!?」


 なんだ、その反応は、可愛すぎるって。

 ダメだって、抱きしめたくなっちゃうから。


「よーしよし、ウィンディ、可愛いなぁ(くんくん)」

「えへへ、先生、木彫りの小鳥さんが凄いつついてますよ!」


 やめろ、護衛隊。

 あっちへ行きなさいよ、ほんと。


 飛ぶ小鳥ゴーレムを指ではじいて、吹っ飛ばす。

 

「ん、見てください、先生、兵隊さん達です!」


 ウィンディの指差す先に、街の中央を通り抜けていく、兵隊たちの姿があった。


 彼らの背後に引かれる、黒い鋼鉄の大砲が目につく。


「先生、知ってますか! 大砲も、物を飛ばして目標に当てる道具なんですよ!」

「火薬をつかって燃焼したエネルギーで鉄の玉を撃ちだす。魔術がつかえなくても、道具さえあれば使える最新の汎用兵器だったな」

「うーん、あのフォルム、痺れるねぇ」


 通り過ぎていく、大砲を眺めていると、ふとインスピレーションが湧いてきた。


 うちのウィンディって、あの大砲もゴーレム化できるのかな……?


 気になった事は試さないと気が済まない。


 俺は兵隊たちの隊列に手をあげて割りこみ、ウィンディに触らせてみることにした。


「っ、こ、これはドラゴン級冒険者のバルトメロイ様……! えっと、なにをされているんですか?」

「いやね、この大砲ってのに興味があってな」

「失礼しまーす! ……ん、やりましたよ、大砲もゴーレムさんになってくれましたー!」


 ウィンディが黒い砲身をなでながら、ニカニカ笑う。

 

 まじかよ。

 それじゃ、弓と同じ要領で砲弾のほうもゴーレム化したら、絶対にあたる大砲が完成するってこと?


 しかも、砲弾ゴーレムは″転がる運動″を簡単に連想できるから、道をつくり、鋼鉄のリンゴで命令すれば、勝手に大砲に入って自分で飛んでいくこともできるんじゃないのか?


 兵隊のいらない軍隊の完成じゃん。


 あれ、俺って……弓作ってる場合なのか……もっと、何か、恐ろしいコトが出来るんじゃないのか。


 湧き上がるアイデアの奔流に、何か恐ろしいものが潜んでいるような気がして、背筋に震えがはしった。


「……あぁ、君、この大砲ってどこで買えるんだ?」

「買う、ですか? いや、それは、ちょっとわからないですね……」

「そうか……いや、忘れてくれ、血迷ったことを聞いた」


 俺は止めた兵士たちに謝り、その場を見送った。

 

「うーん、大砲、いいなぁ」

「あのゴーレムさん、うちに来てくれないかなぁ」

「バルトメロイ、あたしゃ、今、凄まじい可能性に気付いてるんだけど……ちょっと錬金術ショップに寄ろうじゃないか」


 アンの提案を、俺は二つ返事で了解した。


 

           ⌛︎⌛︎⌛︎



 工房に戻り、パタリとお昼寝モードに入ったウィンディを寝かしつけ、俺とアンは地下室で弓の開発を再開した。


 これから作るのはドラゴンの牙、そして宝玉をもちいた正規品だ。


「バルトメロイ、あんた、火薬って強化できるのかい?」

「火薬の強化? ……やった事がないな」


 アンの作業机のうえ、置かれたバケツのなかで調合された粉末を指先に乗るくらいだけすくって、木片のうえにまぶす。


「火薬があれば、あんな重たい鉄の玉だって空を飛ぶんだ。矢だってきっと飛ばせるはずたろう」

「なるほど。でも、どうやって火薬で矢を飛ばすんだ? 今のところ大砲より遥かに強力な矢を当ててるんだから、火薬を使うメリットはないような気がするが……ああ、だから火薬を強化するのか」


 普通の火薬では、もはや魔導弓の威力をあげるにはパワーがたりない。


 しかして、火薬の強化とは、これいかに。


 木片のうえの黒い粉末を、金づちで叩いてみる。


 パンッと破裂する音がして、木片が砕けちった。


「…………『現象げんしょう』だな」


 俺はそうつぶやき、バケツのなかから、ただいま起爆させた粉末と同量を、木片のうえににまぶす。


 中杖をもちいて唱えるは≪現象強化げんしょうきょうか・ランク1≫


 そして、再び金づちで粉末をたたいた。


 するとーー、


 ーーバゴォッ


「うわあ!?」

「耳ぃい!?」


 突如、手元に生まれた衝撃波に吹き飛ばされ、地下室転がる。


「ぅ、な、なんだと?」


 爆音に耳鳴りがするなか、なんとか立ちあがる。


 視界がふわふわしてるなか、俺は作業机がまっぷたつに割れているのを発見した。


 なんて威力なんだ、信じられない。


「バケツの火薬は誘発しなかったんだな……あっぶねぇ……」


 気絶するアンが眠る地下室で、俺はゆっくりと尻餅をついた。


 『強化火薬きょうかかやく』……これは使えるな。


 散らかる地下室で、俺は不敵な笑みを深めた。


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