第19話 変形展開にこそ、ロマンはあり
ソファでくつろぎ、魔術協会から取り寄せた、日輪系の強化魔術について勉強する。
暗黒に類する俺のソレとは違い、アルウが得意とする現代魔術における稀少な
原理や手法がまったく違うのに、似た効果をもたらすとは実に興味深い。
これは強化魔術にたいして違う角度からアプローチし、成功し、体系化された、という事実を持っている時点でとても価値がある。
ここ最近は、違う分野の学術論文などから、着想を得たりしていたが、同じ分野を別の視点でもって見てみるのも、やはり有意義なものだ。
「ふむ、
ひと通りの論文を読み終えて、まとめて机の端に置いておく。
さて、では、ウィンディと2人目の先生の様子でも見に行くとしようか。
飛んでくる魔導書を避けながら、地下室に行ってみると、そこでは楽しそうに奇怪な道具をいじるウィンディの姿があった。
邪魔しないよう、となりのアンに話しかける。
「アン、それは何してるんですか?」
「あら、バルトメロイ、ちょうど良いところに来たじゃないか」
「先生、これ見てください! おばちゃんが教えてくれたようにゴーレムさん達を組み合わせたら出来ました!」
ウィンディは手に持つ
対人を想定した衛士や、技量系の剣士が使う比較的細身の剣。
それがどうかしたのかと、眺めていると、変化が起きた。
地下室の
わずか2秒ほどで、直剣は金属の弓に劇的な変貌をとげた。
思わず目を見張り、口が開きっぱなしになる。
「え、なにそれ……(カッコいいィイ゛ッ!)」
「ふふ、やりました、あばちゃん! 先生を驚かせることができました!」
「よしよし、上手い上手い、やっぱりウィンディは天才だねぇ!」
喜ぶふたりに近寄り、ウィンディから金属の弓を受け取る。
重量感があり、弦はそのまま指をかけたら切れてしまいそうなほどに、細く、鋭い。
だが、素人の俺でもわかる。
この弓ならば、より強力に反発力を生みだし、高い威力の矢を放つことができると。
「凄い弓ですね、これをウィンディが作ったんですか?」
「弓を作ったのはアタシさ。バルトメロイ、アンタが昨日背負ってたのが気になってねぇ、見ようと見真似で作ってみたのさ」
「先生、わたしはその出来上がった凄い弓を、ゴーレムさんに変えて、おばちゃんに教えてもらいながら″展開できるゴーレム″さんに進化させたんです!」
展開できる、ゴーレム?
アンが1日で弓を作り上げたのも、ちょっと頭おかしいが、その展開ってワードもかなり気になる。
「あっはは、アンタは本当にいいリアクションするねぇ! そうさ、アタシは最高のゴーレム職人であり、こうした展開機構の魔導具をつくるのが大好きなのさ。ウィンディの凄さを試そうと、複雑な展開機構を謎の″魔術ゴーレム化″なんていう眉唾なモンで再現できるか実験したら……いやはや、困ったことに出来ちまった! これほど複雑な機構の再現ができたんだよ? しかも、一晩ぶっ通しで教えただけでねぇ。はは、こりゃ世界に羽ばたく最高の
「ウィンディ、うぅ、やっぱりうちの子は、天才すぎたか……」
嬉しさに感極まって、涙が出てきた。
破顔して、ニカーっと笑うウィンディを抱きしめて、幼い香りに顔をうずめる。
「よしよし、よしよし、よしよーし! 凄い凄い、本当に凄いぞ、ウィンディ!」
「えへへ、先生が大サービスで褒めてくれます! わぁ、先生の香りがいっぱいですっ」
「へへ、仲が良い
微笑ましく笑うアンは、見てられないとばかりに階段をあがっていく。
「先生、今度はアレを使って最強の弓を作ろうと思うんですけど、いいですかー?」
「ん、アレ?」
ウィンディは俺の背後、階段を指差す。
降りてくるアンが手に持つのは、先日倒したドラゴンの素材だ。
「あの馬鹿みたいに破壊力のある弓の仕組みは聞いた。バルトメロイ、アンタの最高の魔術に耐えるだけの矢を作りたいんだろ? だったら、矢だけを高級品にしたって格好が悪いじゃないか」
アンは地下室の作業机のうえに、牙を五本並べて、その中央に蒼い宝玉をそっと置いた。
「その弓はね、試作品」
指差される、俺の手の金属の弓。
「ドラゴンの素材から、弓と矢を作る。失敗すると、ちょぉっと勿体無いけど、まっ、アタシなら平気さ。バルトメロイ、アンタにもしばらく手伝って貰うよ」
「ドラゴンの弓……(格好良すぎて踊りたい気持ち)。はぁ、やれやれ、なにを手伝えっていうんですか?(興味深々)」
「例えばの話、この酒瓶。底と側面、どっちが丈夫だと思う?」
アンは空の瓶を、俺とウィンディの前へ持ちあげる。
「底だろうな」
「そうだ。よし、それじゃ、もし仮に強化魔術を使い、構造を丈夫にするとして、より高度に強化するとしたら、今度はどっちがより耐えるだろうねぇ」
俺は顎に手を添え、思案する。
酒瓶の側面も、底も″材質″は変わらない。
ただ……俺の経験からいって、おそらく底のほうが強化に耐える。
「……そうか、同じ素材でも、基本となる構造次第では、″強化幅″に違いがうまれる」
難しい顔をして俺のマネをするウィンディを横目に、俺はアンへ結論を言いわたす。
「その通りさ。だから、バルトメロイ、このドラゴンの材質の″強化幅″が最大となるように、
「ああ、もちろんいいですよ。むしろ、こっちからお願いしたいくらいだ」
アンは野性味のあるどうもうな笑顔をうかべ、俺もまたきった悪い笑顔をしながら、俺たちは互いに手を握りあった。
この勝負?、勝った!
⌛︎⌛︎⌛︎
ーー2日後
俺はクリスト・ベリアの外門にいた。
「それじゃ、またあとで会おうね、バルトっち♪」
「
「大先輩が来るころには終わってるかもしれませんけど、来てくれたら私たち歓迎しますからね!」
この都市の外から迎えに来た、簡素な馬車の前で、俺は『ギラーテア魔術師団』の面々を見送る。
最近、わりと一緒にいたアルウ、ノルンに加え、リーダーのギラーテア。
そして、もう3人。
唯一の男にしてサブリーダー、クリフノード。
珍しい土魔術の使い手、ラスカル
『
挨拶が終わると、彼らは馬車に乗りこみ、クリスト・ベリアを出発した。
「よかったのかい? アンタも行かなくて?」
「行かないわけじゃないですよ。ただ、目の前に届く伸び代があるのなら、十分に伸ばしてから、ことに当たりたいだけです」
「アルウお姉ちゃん、ギラーテアお姉ちゃん、みんなどこへ行くんですか、先生」
「……戦いだよ、ウィンディ。平穏とは戦いと戦いの間の準備期間に過ぎないんだ。誰かの平穏を守るために、誰かが戦う。もちろん、自分の平穏を守るためにも人は戦える。お姉ちゃんたちは、そういう戦いに挑みにいったんだよ」
頭を悩ませるウィンディの手を握り、遠く離れていく馬車を見送る。
「さてと、それじゃ新型魔導弓の開発に戻りますかっと」
考えうる現行最強理論の武器。
完成は近いぞ。
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