第18話 素晴らしき理解者

 

 陽が高くのぼった頃。

 腹を空かせた俺たちは、消沈してクリスト・ベリアへと帰還していた。


「先輩、とんでもない魔術でしたね。ただ、見たときは感動で胸がいっぱいでしたけど、あの倒し方はよくないですよ。素材も全然手にはいりませんでしたし。ぁぁ、モイスティドラゴンがもったいない」

「ふふ、ごめん、ノルン。私、強すぎたよ」


 ノルンはああ言っているが、顔は幸せそうだ。

 袋いっぱいにドラゴンの残骸を集めて、肉片を詰めてるので、彼らとしてはそれで満足してるんだろう。


 なぜなら、それだけあれば、俺たちがドラゴンを倒したことを証明できるからだ。


「いやぁ、にしても、良かったですね、先輩! リーダーに内緒でドラゴンを倒しちゃうなんて、もっともっとクリスト・ベリアでの株があがっちゃいますよ!」

「そうだね、ノルン。ふふ、リーダーの元から離れて独立するのも悪くないかも」


 完全に調子に乗っているアルウを見て、かつては勤勉だったフォーグス達がなぜああなったのか、俺はなんとなく気づいていた。

 過度な強化バフは人をダメにするということだ。


「それにしても、バルトメロイ大先輩って本当に最高の魔術師なんですね! 今までは違うパーティで忙しくしてて、話す機会なんてなくて、ただリーダーから『あいつは、桁違い』ってだけ伝えられてて……今日、その意味が完全にわかりました!」

「ノルン、あれは私の実力が8割、後輩バルトメロイの働きが2割だよ。私をもっと称えるべし」


 褒められて嫌な気はしない。

 けれど、それよりも牙を5本だけしか回収出来なかったことが、本当に悔しい。


 あれだけ盛りを探し回って、湖の底まで潜って5本だ。


 これでは開発、実験、試作などしてたら、すぐに無くなってしまう。


「もう、アルウ……」


 非難の眼差しを、となりの真っ赤なローブの少女へむける。


「……後輩バルトメロイ、そっか。仕方ない」


 アルウはちょっと申し訳なさそうに眉を寄せて、抱き抱えるドラゴンの詰め合わせのなかから、まるっこく″蒼い玉″を取りだした。


「モイスティドラゴンの宝玉……」

後輩バルトメロイも頑張ったから、あげる。それは、その、後輩バルトメロイが貰うべき。と思う」


 ドラゴン退治において、必ず喧嘩になる事柄のひとつに、1匹に一つしか取れない宝玉の行方ゆくえがある。


 極めて強力な魔力触媒となり、貴重なこれは基本的にはドラゴン退治の一番の功労者に譲られることが多い。


 なんだ、アルウのやつ、調子に乗ってるけど、存外に俺に感謝してくれてるらしい。


 牙は手に入らなかったけど、あの爆散の仕方で、宝玉が見つかったのは不幸中幸いというやつだ。


 今回のところは、これで良しとするか。



 ⌛︎⌛︎⌛︎



 その日の夜。

 ノルンとアルウという大事な妹分たちを、勝手に危険なドラゴン退治に連れだしてしまったことで、こっぴどくギラーテアに怒られた俺は、ようやく反省文を書き終えて、ギルドから解放された。


 あわよくば隠しとおそうと考えたのがいけなかった。


 血に染まったアルウ。

 ドラゴンの素材を幸せそうに抱えるノルン。

 明らかにまるく膨らんだ、俺のポケット。


 状況証拠から一瞬でバレた。


「おう、バルトメロイじゃねぇか! ポルタに続いて、ドラゴンまで軽く倒しちまうなんて、独立してから輝きだした超英雄!」

「バルトメロイ様よ! こんばんわ、ずっと前から好きでした!」


 俺の顔をみるなり、ギルドへやってきた冒険者が喜んで握手やら、ハグを求めてくる。

 愛想よく受け、あっという間に出来上がった列を処理していく。


 しばらく後、列が短くなり、いよいよ最後のひとりがやってきた。


「はい、次の方ー。握手、ハグ? それともほっぺにチューでもしましょうか。ただし可愛くて、これくらいの身長の子限定な」

「あんたがバルトメロイかい? ずいぶんと可愛いぼうやだけど、アタシの守備範囲からはハズレちゃってるねぇ。チューして欲しかったら、生まれ変わって出直してきな」


 現れたのほ赤髪の眼帯をした女性。

 見るからに野蛮そうなので、ひと目見て苦手なタイプだと悟る。


「えっと、それじゃ、握手だけで」

「ああ、よろしくね。さぁそれじゃさっそく、魔術工房に連れて行っておくれよ。お楽しみの始まりだよ!」


 え、いきなり、人の家に上がりこんで楽しもうとしてらっしゃる?


 不審者です、この女。


「逆ナン、か。危険なようなので衛士のかたを呼びますね……」

「なに失礼なこと言ったんだい。アンタが呼んだんだろ、アタシをさ」

「え? 呼んでないです」

「ん、おかしいね、魔術協会からは確かにゴーレム職人の家庭教師を、アンタが募集してるって聞いたんだが」


 赤髪の女性は、首をかしげて困った様子だ。


 なるほどな、この人がゴーレム職人か。


 俺はただずまいを正して、ローブの襟を整えて、握手のため手をさしだす。


「失礼しました。ゴーレム職人様、募集をかけたのが、ずいぶん前なものでうっかりしてました。俺の名前はバルトメロイです、これからうちの弟子をよろしくお願いします」

「やっぱりあってるんじゃないか! アタシの名前はアンだよ。どんな奴にでも、アタシの″ロマン″って奴をみっちり仕込んでやるさ!」


 ゴーレム職人アンと硬く握手をかわし、俺は分厚い手のひらに言い知れぬ信頼を覚えた。



 ⌛︎⌛︎⌛︎



 アンを連れて魔術工房へ帰還した。


 眼帯をした見た目の怖いアンに、ウィンディは怯えきり、ゴーレム部隊による″おもてなし″をなんとけ鎮静化したあとーー。


 額の汗をぬぐい、一息つく。


 かたわらのソファではウィンディが俺の袖をつまんで、不安そうにアンを見つめる。


 当の本人は、興味津々に魔術工房じゅうのゴーレムたちを順番に見て、触り、かるく魔法をかけて分析したりして、うなったり、叫んだり、喜んだりして楽しんでいるご様子。


 ひと段落すると、高揚したアンはウィンディの前で膝をおって、目線の高さを合わせて口を開いた。


「アンタ、最高の才能だ!」

「うわぁ、おばちゃん、声大きい……」


 ウィンディが俺の背後に隠れる。

 それを見て、アンはニッコリと笑い、今度は俺のほうをむいてくる。


「バルトメロイ、アタシをここに住ませな。それと、明日の午前、アタシの工房からここへ機材を運びこむ」

「お、おお、凄いやる気ですね。えっと、地下室が拡張できると思うんで、そこになら住んでもいいですけど……」


 豪快な即決に面食らいながらも、家庭教師が、ウィンディの素晴らしさを理解して、やる気を出してくれてることに、嬉しさを感じる。


 この人なら、大丈夫そうだ。


 俺は背後に隠れるウィンディの頭を撫でて、彼女のさきに待つ幸多き、光溢れる未来に胸を躍らせた。


 翌日、さっそくアンの移住が完了し、本格的なゴーレム工学の授業がはしまった。

 

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