第16話 鉄の矢だ!


 従来じゅうらいの矢では俺の使う強化魔術に耐えられない。

 威力を底上げするには、木は素材として弱すぎる。

 ゆえに、まず考えられるのはより丈夫な素材を採用すること。

 

「それに、どうせ作るなら、最高のモノを作りたいよな」

「ですね、先生! 洞窟の秘奥に眠るドラゴンの牙とか使った、きっとすごいのが出来ますよ!」

「おお、ウィンディの発想は豊かだな。凄いぞ、俺はてっきり、鉄とかで作ろうかって、凡百なこと考えてたけど……」


 なるほど、高位の魔物の素材を採用する、か。


 うん、我が弟子ウィンディが目を輝かせている。


 弟子の夢をかなえるのは、師匠の務めだよな。


「うん」


 決めました、鉄の矢、却下です。

 ドラゴンの牙にしよう。


「やったー! 採用されましたー! ゴーレムさんたち、今日はお祝いですよ!」


 とは言えだ。

 ドラゴンの牙と言っても、そうそう手に入るモノじゃない。

 ポルタ討伐でお金はある。

 しかし、お金だけで手に入らないカテゴリーの素材だ。


 ここ最近、クリスト・ベリアで竜を討伐した奴はいないし。

 というか、ドラゴン級冒険者パーティだった俺たちのクソ雑魚剣士隊は、半年前に親元を離れた幼い子竜をたおして以降は、ドラゴン退治をしてない。

 『ギラーテア魔術師団』の面々はどうたが知らないが、俺の知る限りは彼女らも似たようなモノだろう。


 ドラゴン級冒険者とは言っても、そもそもドラゴンという種が人目につく場所におりてこないので、戦う機会なんてほとんどないのだ。


 いない者とは戦えないからな。


 とりあえず、まずはギルドを調べてみよう。

 竜の目撃情報があがってるかもしれない。


 魔導弓を背負い、強化した矢を4本、本来は剣を帯剣するためのベルトに差す。

 剣を4本も携えてる風に見るものを騙しちゃうが、矢筒とかいうやつは、矢が落ちそうで信用できないから、これは仕方ない仕様しようだ。

 

「ウィンディ、すこし出てくる」

「あ、先生、ちょっと待ってください」

「ん?」


 ウィンディが手渡してくる、木彫りの小鳥。

 いつも俺のウィンディ接触を邪魔してくる俺嫌いなゴーレムの1匹である。憎み。


「この子も連れて行ってあげてほしいです。先生の役にたつはすです。わたし、外の世界だと、まだまだ先生のお役にたてませんが、すこしでも先生のために何かしたいんです……」

「ウィンディ……ありがとうな」


 弟子の頭を撫でて、そっと抱きしめる。

 ふわっふわの少女の緑ポニーデールから、木彫りの小鳥が顔をだし、俺の鼻をつついてくる。わかってます、そんなスンスンしません。


「スンスン……それじゃ、よろしくな、相棒」


 俺はウィンディの渡してくれた木彫りの小鳥を肩に乗せ、魔術工房をあとにした。

 

 

           ⌛︎⌛︎⌛︎



「ドラゴンの目撃情報、ありますね! 討伐、行きますかっ! ついこの間、即興パーティで偶然でくわしたポルタを倒した、絶好調のバルトメロイ様たちになら任せられます!」


 仲の良い受付嬢が、ニコニコして、まだクエスト化されていない、調査情報をまとめた紙束を渡してくる。普通は見れない。けど、ドラゴン級冒険者なら特別だ。


「ふむ、北の湖、か。あそこは魔力溜まりがあったし、たしかに竜の巣になりやすいか。よし、それじゃこれクエストにしといてくれ。間違ってもフォーグス達に受けさせるなよ?」

「あはは、ないですよ、あんなのには薬草採取でもやらせときます!」

「ふふ、最高。……いや、ダメだな。受付嬢なんだから、そういうこと言うなよ。下の奴らが聞いてたらどうするよ」


 薬草採取も大事なクエストだしな。

 

 受付嬢に、午後にはクエスト化できると聞いて、ギルドをでる。

 俺は帰りに市場に寄り、ウィンディへのおみやげを買い、道中、大杖を新調してご機嫌のアルウの発見、捕まえて、近いうちにドラゴン退治があることを彼女に伝えた。


「え? 1週間後。それは不可能。なぜなら、3日後から、私たちしばらくクリスト・ベリアにいないから」

「はい?」

 

 耳を疑う言葉。

 『ギラーテア魔術師団』がホームタウンを離れるだって? そんなのこれまでに一度もなかったのに。


 目の前のフード娘をじっと見つめる。口の中で棒付き飴を転がすばかりで、特にふざけた様子はないな。


「クリスト・テレス。……なんか知らないけど、あの都市の″魔導王まどうおう″が、都市国家連合に宣戦布告したらしいんだ。だから、最強魔術師集団の私たちが鎮圧のために雇われることなった」


 魔導王が宣戦布告って、なんだよ。

 都市国家連合に喧嘩売ってなにすんだよ。

 てか、なんで、俺は呼ばれないんだよ。


 なんて日だッ。


「これはまだ、あまり知られてない。けど、すぐに周辺都市全部に伝わる。連合の結びつきが綻びたら、外国の侵入を許しちゃうから、火は大きくなる前に広まるまえに鎮火するの」

「そ、そうか。……ちなみに、俺のチカラとか貸りたかったりする?」

「当然。バルトメロイがいると、私のチカラ覚醒するから。コレ買ったあとで呼びに行こうと思ってた」


 アルウは手に持つ大杖をもちあげて、「むふぅ」と自慢げに鼻を鳴らす。


 俺たちが住む″ペグ・クリストファ都市国家連合″、その都市国家という古い国のあり方は、強大な王国や帝国、魔術王国、魔法王国、人間国やらなんやらが跋扈ばっこするこの大陸で、各都市の魔導王の積極的な協力によって維持されてる。


 連合の崩壊は、混乱を招く。

 混乱は、俺とウィンディの平穏を壊す可能性を孕む。


 魔導王、絶対に許せんやつだ。

 

「アルウ」

「アルウ先輩と呼ぶべし」

「アルウ、ノルンを連れてくるんだ」

「……なんででしょう」


「戦いの前に、装備を調達する。知ってるか、アルウ、戦いとは勝つべくして勝つ。準備の段階で勝敗は決するということだ」

「なんかカッコいい。と思う。今度、リーダー達に教えてあげよっと。それで、それとノルンになんの関係が」

「俺たち3人で、ドラゴンを倒しにいくぞ。明日」

「……明日」

「明日だ。お前たちどうせ暇だろ」

「すごく心外」


 アルウが目元に影をつくって睨みつけてくる。

 しまったな、アルウも一応は少女だった。

 俺みたいな引きこもり魔術師とは違い、人とのつながりを大切にする子だから、忙しかったか。


 てっきり、いつもブラブラしてるか、酒場の机で勉強してるか、日向ぼっこしてるかだったから暇なんだと思ってしまった。


「ごめん、アルウ、お前のことわかってなかーー」

「でも、わりと暇だから、行ってあげてもよき」

「……」


「でも、出来るだけ、みんな集めるよ。ドラゴンなんて流石に3人じゃ無理」


 俺が思うにアルウとノルン以外のギラーテアのところの魔術師たちは、みんな忙しそうにしてるイメージしかないんだけど……集まるかな。

 


           ⌛︎⌛︎⌛︎



 ーー翌日


 時刻は日付をまたいだ3時間後。


 夜中のギルド前にドラゴン退治のパーティが結集した。


 瞑目めいもくして、飴をくわえるフード娘。

 眠そうに目をこする、寝癖が残る水色髪の優等生。


 そして、世界一可愛い、弟子を持つ先生。


 以上。


「結局、この3人しか集まりませんでしたね……ふぁ〜」

「なんで、こんな早朝……違う、これ深夜だよ、後輩バルトメロイ

「仕方ないだろ。勝手にドラゴン退治になんか行かないって、ギラーテアさんと約束して来たんだろ? なら、夜に行って、チャチャっと倒して、朝には帰らないと、クエスト行ったのがバレる」

「ねぇ、アルウ先輩、バルトメロイ大先輩ってなんかドラゴン対する認識おかしくないですか……? そんな簡単に倒しに行っていい存在じゃないし、そもそも私も自殺に付き合わされてるような気がして、あんまり行きたくないんですけど……」

「大丈夫、ノルン。なんでか、知らないけど後輩バルトメロイといると、私、無敵な気がするから」


 アルウは乗り気でないノルンの頭を撫でて、「あと、バルトメロイの感覚がズレてるのは昔から」と余計な一言をつけたした。


 ドラゴンに対する認識、か。


 教団にいた頃は、から、たしかに一般の人間とは少々違うかもしれない。

 禁忌の研究の末に創りだされた、人造ドラゴンだ。いまさら天然の生物なんて、やろうと思えばうちのウィンディでも勝たせる事ができる……って考えちゃうのが、たぶんいけないんだろう。


 唐突に思いだす、過去の焼映。

 教団の施設がフラッシュバックで蘇る。


 もっとも、深く残っている記憶は、黄色い臓物ぞうもつにまみれた弟の姿。

 

「……」


 あいつは、まだ……。


後輩バルトメロイ?」


 アルウの言葉に、そっと目を開ける。


「……ふふ、ノルン君、このバルトメロイがいるんだ、ドラゴンなんて恐るるに足りないさ。安心したまえよ、ふふ、はは!」

「戦うのは強化される私たちですけどね……ぅう、ベタベタのトラウマが……!」


 深夜のクリスト・ベリアを発ち、俺たちは北の湖へとむかう。


 久しいドラゴン退治、上手くできるといいが。


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