第15話 ポルタ狩りと、弓の改良案

 

 息を潜めて、木陰に身を隠し、ポルタに見つからないようにする。


「あわわ、向かってきますよ……!」

「ノルン、しー」


 どうするか。


 あのポルタ、明らかに俺たちの気配に気づいてるよな。


 戦闘は避けられなそうだ。


 となると、さっそくゴーレムの矢を回収したいところ。


 木陰から顔をだし、遠くに見えるテゴラックスの死体にささる矢へ、指示を飛ばす。


「ゴーレム先生、ちょっと戻ってきて……」


 一言伝えると、矢はひとりでにぐりぐり動いて、白熊の死体から離れて転がってくる。


 素晴らしいな。

 これだけ離れていても指示が通る。


 だがーー。


「おっそ……」

「あれ? あの矢転がってきてますね」

「後輩、もしや、あれはゴーレム?」

「おっしゃる通り。けど、遅すぎて間に合いそうにないな」


 仕方ない、どうせなら魔導弓で射ってみたかったが、今回は諦めてやろう。


 代わりに、


「ノルン」

「はい? え? ポルタと戦うんです? でも、私の魔術だけで仕留め切れるかどうか……違う? なんですか、バルトメロイ大先輩、その期待を寄せる眼差しは」


 俺はノルンの方に触れて、その肉体を≪分析ぶんせき≫≪解明かいめい≫。


 バルトメロイ・セットを使い、スーパー戦士に強化する。


「ぇ、ちょま、なにしてんすかー!?」


 頬を染め、勝手にかけられる魔術に声を裏返すノルン。


「あーあ、叫ぶからポルタに気づかれちゃった。これはノルンが責任とってこないと、いけないなッ!」


 ノルンの脇に手を差しこんで、全力でポルタの前へ放り投げる。


 10メートル級のホラー系猿のまえに躍り出たノルンは、わなわなと震えて、腰をぬかしてしまった。


「ぎやぁああああ!? 鬼畜っ、悪魔、最低です、悪漢ですぅーッ! いやぁあ、死にたくないですよーッ!」

「パンチ、パンチだ、頑張れ! ノルンならできる! 一発だけでいいから!」

「あ、ああ! ノルンが、ノルンが、食べられちゃう……! 私の後輩に手を出すなー!」


 焦りの表情をうかへ、アルウが飛びだして火属性式魔術による援護射撃を開始する。

 しかし、魔力のおおくはポルタに当たるなり霧散して、消えてしまい、アルウの攻撃が通っているようには見えない。やっぱり、攻撃魔術は苦手らしい。


「ぐわあああ! 食べられるぅうー!」

「あわわ、ノルン、ノルンっ! こんなところで死ぬなんて許さない! ≪火炎弾かえんだん≫!」


 ポルタに下半身をくわえられ、徐々に口のなかにノルンの姿が消えていくなか、アルウは涙目で魔法を唱えつづける。が、やはり厳しそうだ。


 ちょっと、乱暴すぎたかも。


 ひとりで腕を振りまわすだけで、ポルタなら瞬殺できると思ったが……見通しが甘かったようだ。


 がむしゃらなアルウの肩に、背後から手を置く。

 ふりかえるアルウ。

 俺はゆっくりと、首を横にふる。


「そ、そんな、ノルン……っ。バルトメロイ! よくもノルンにあんなことをーー」

「ノルンだけじゃ勝てない」

「わかってる、わかってたのに、ポルタ相手にひとりで戦うなんて無茶なことーー」

「だから、アルウ……お前も行ってこいッ!」

「へ、……はぅあ!?」


 アルウにもバルトメロイ・セットを搭載して、おいしそうにノルンを食べるポルタへ投げつける。


「バルトメロイィイー!?」


 絶叫をあげながら、ポルタの前足に頭をぶつけ、アルウは恐る恐る顔をあげた。


 両者の目が、しっかりと合う。


「ヒ、ひぃ!」


 絶望の顔でアルウは、泣き叫び、大杖をフルスイング。


 瞬間、空気の壁が爆発を起こした。


「グロゥウッ……ッ!?」


 10メートルを超える体長のポルタの前足が、変な方向に弾かれ″バキっ″と音を鳴らして、骨と皮の巨大な体が異様な速度で吹き飛んでいく。


 そのまま、木々を盛大に破壊しながら、ポルタは地面になかば埋もれる形で、静止して、動かなくなってしまう。


 アルウは折れた大杖を手に、唖然として、森に破壊跡をつくりながら、静かになったポルタを眺めるばかりだ。


 俺は、そんなアルウに近寄り、肩に手をおいて、


「いやぁ、いい一撃だったな、アルウ。ポルタ討伐おめでとう。お手柄じゃん」

「え? 死んだの? 私が杖でたたいただけで……」


 アルウは折れた杖を大事そうにかかえ、「覚醒、しちゃったか……ふ」と何やらこじらたように呟いた。


 面白いのでほうっておく。


「ぐべえ、すごいガジガジされたのに、何故か生きてます私、なんで……だろう」


 ポルタのよだれでベドベトのノルンが、金の刺繍がはいった白ローブをぐっしょり重たくして、大きな口から這い出てきた。


 よしよし、ちゃんと無事だな。

 俺の汎用耐久がついてれば、城の屋上から落ちても、怪我しないんだ。ポルタの顎くらいどうって事はない。


「お疲れ様、ノルン」

「あ、バルトメロイ大先輩……」


 粘性をテカらせる水色髪の少女がこちらを見る。

 目があい、俺は親指をたてて、彼女の健闘をたたえた。


 ノルンはそれにニコリと微笑みーー。


「この鬼畜ぅう! とぅりゃああ!」

「っ、ぐっ! よせ、ノルン、落ち着くんだ、大先輩、大先輩だろ!? やめろ、そのベドベトで近づいてくるんじゃないッ……ァァァァァアア゛ア゛ー!」


 俺は相応のむくいを受けることになった。


 今度から強化する時は、一言ことわる事にしよう。



 ⌛︎⌛︎⌛︎



 思いもよらぬ出会い。

 稀少な魔物ポルタを倒したことで、その素材を売り払い、我が魔術工房は金銭的な余裕をえた。


 ちなみに、分け前の8割は『ギラーテア魔術師』に持っていかれた。

 頑張ったのはノルンとアルウだったし、やり方がやり方だったので、俺は彼女たちに逆らうことなどできなかったせいだ。後悔はしてる。


「おかえなさい、先生!」

「ただいま、ウィンディ。ほら、ウィンディの大好きなホットドッグをたくさん買って来たぞ」

「わーい! これはお勉強にも熱がはいってしまいますね! わんわん!」


 魔術工房の床のうえで、ゴーレムたちにホットドッグを分けながら、ウィンディは木材を削り、その先に金属の矢尻をつけて、矢を手作りしていく。


 矢を作れる者など、街にはいないし、買うと遺物なみに貴重品ゆえ恐ろしく値が張る。


 だから、自給することにしたのだ。


 射ってみて、はじめて気がついたが、そもそも矢が一本だけだなんて不便すぎた。


 先日のポルタの時、次矢を射てない状況におちいったのは、百発百中だし、外さないから1本でいいか、と当時の俺が素人じみた事を考えていたせいだ。


 これからは、たくさん持っておこう。

 このバルトメロイは、二度同じ失敗をしない男だ。


「ふっ」


 不敵に笑い、俺はウィンディ謹製きんせいの素晴らしい矢に魔力をこめて、物質構造を変化、強化を施していく。


 ふと、手元で魔力が乱れる。


「……割れた」


 またやってしまった。


 折れて使い物にならなくなった矢を、かたわらの箱のなかへそっと置く。


 現状、そこらへんの木を加工して、矢を作ってるわけだが、どうにも俺の強化魔術と相性が悪い。


 やろうと思えば、まだまだ高次元の強化段階を残しているゆえ、低級な素材に魔力をこめられないのが、とてももどかしい。


 もっと俺の秘術のすべてを矢に捧げたいのだが……。


「矢を設計し直したほうがいいかな。このままだと、どんなに注意しても不可能だろうし」

「それじゃ、この矢は使わないんですか、先生?」

「うんん、ウィンディが頑張って作ってくれた矢は、大事に使うからな」

「っ! えへへ♪ ありがとうございます! わたし、とっても嬉しいです、先生のお役にたてて!」

「……うん」


 うっ、心が痛む。

 さっきから、何度も強化にしてて、多くの矢を殺してしまってるのが、つらいよ、ウィンディ。


 俺は強化に失敗して、役目を果たすことなく死んだ矢たちを魔術工房の裏手に埋めてあげることにした。


 ごめんな、お前たち。


「やはり、こんな悲劇を繰り返さないためにも、我が魔術工房には、新しい矢が必要だな」


 俺は覚悟を新たに、魔力触媒、耐久性に優れた鉱物に関する書類を、魔術協会より取り寄せることにした。


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