第14話 先輩とか、後輩とか、大先輩とか
『ギラーテア魔術師団』の定位置のつくえに座り、アルウのおごりでミルクをグイッと飲む。
互いにお酒は飲めないので、俺たちにとってはこれが祝宴だ。
「いや、だから本当だって。この弓矢もゴーレムなんだって」
「私は騙されないよ。なぜなら先輩だから。ウィンディと私を混同してもらっちゃ困る。と思う」
「してないっす。うちの弟子のほうがだいぶ可愛いんで。……ちょ足、痛ッ!?」
発言を撤回して、理不尽な暴力から、我がつま先を助けだす。痛み。
「して、
「いや、ギルドに来る目的なんてひとつだけだろ。アルウ先輩。クエスト受けに来たんだよ」
「クエスト? 誰と?」
「ひとりで」
俺はもう昔の自分ではない。
それを証明するために『ひとりで魔物倒せるもん実験』の実地段階に突入するのだ。
いつまでも、何もできないバルトメロイでいてたまるか。
「だめ、行かせない」
「ぇ、なんで、アルウが決めんだよ」
「先輩つけるべし」
「……アルウ先輩。なんで、ダメなんすか」
「新しい武器を手に入れて、調子に乗ってる
まったく、相変わらず素直じゃない。
そういえば、アルウはポーションが足りないって言ったら、相場より安く譲ってくれるような奴だった。
「ありがとうございます、アルウ先輩」
「……やれやれ、勘違いは、困るよ、
⌛︎⌛︎⌛︎
クエストを受けて、クリスト・ベリアの近くの森へやってきた。
ここからは魔物の勢力圏だ。
気を引き締めていかねば。
「ところで、アルウ先輩、なんで、ノルン先輩も付いて来たんすか」
すぐ横の水色のおさげ髪の少女を見やる。
彼女の名はノルン。
アルウと同じ俺の先輩。
つまり『ギラーテア魔術師団』の一員だ。
薄蒼の瞳で、自信なさげに見つめてくるが、彼女もまた名門魔術大学を出ている一流の魔術師である。
「
アルウは
「たぶん、先輩は火属性のなかでも
すべてを説明するノルン。
ああ、そうか、そうか。いや、知らなかったなぁ。
ずっと前から知ってたけど、お前も俺と同様の悩みを抱えてるんだなー。うん、わかるー。
「それと、バルトメロイ
ノルンは頬を赤らめて、目を伏せたり、こちらを見たり繰りかえして、おどおどしながらそう言った。
「大先輩なんて、言うほど自慢できる魔術じゃないけど。それにアルウ先輩が、満更でもなく、先輩呼び気にいっちゃってるし……痛ィッ!?」
「口は災いの元だよ。黙るべき。だと思う」
容赦ないアルウをノルンが止めにはいってくれる。
「何やってんですかッ、先輩! まったく、こんな魔術の大先輩にとんでもないことしちゃってますって!」
「大先輩、大先輩言ってるけど、それ完全に先輩の上位互換じゃん。バルトメロイってそんな、魔術歴長いの?」
こっちへ顔を向けてくる、2人の少女。
魔術歴、か。
「アルウ先輩の聞き方だと、魔術にたずさわったのは今年で20年間と2ヶ月くらいはある、けど」
「今、
アルウは「語るに落ちるとは、このことだね」と得意な顔で満足そうに鼻を鳴らした。
嘘じゃないんだけどね。
先天的にも後天的にも、俺は教団の理想とした神秘素体として″造られた人間″だから、生まれてからずっと魔術と斬っても切り離せない人生なんだ。
まあ、こんな事、語る必要もないことだから、いちいち言ったりしないけど。
「魔術自体は3歳から本格的に勉強しはじめた気がする。よく覚えてないけど、そんくらいだった。アルウ先輩は?」
「ローレシア魔術大学は、だいたい10歳から入学するものだから、私は今年で9年。ノルンはひとつしたで8年くらい」
あ、なんだ、魔法学校でそれくらいから魔術を勉強しはじめるもんなのか。
それじゃ、俺のほうが魔術師として大先輩じゃん。
パーティ歴は短くても、これくらい差があるなら、ちょっと先輩威張りたいなぁ。
「よし、アルウ。これからは俺のこと先輩って呼ぶように。ノルンもな」
「っ、後輩の叛逆……ッ。だめ、すくなくとも、私はバルトメロイを後輩扱いする!」
「はい、ぜひとも、バルトメロイ大先輩って呼ばせてもらいますね」
新しい後輩をふたり引き連れて、俺たちは森を進んだ。
⌛︎⌛︎⌛︎
しばらく歩いた先で、おおきな白い四足獣を発見。
森に溶けこまない目立つ色は、強者の証だ。
狙い射ちのために、唯一自己強化できるように急ピッチで調整した≪
「凄いですね、バルトメロイ大先輩は。先輩の日輪強化では、こんな細かい芸なんて出来ませんよ」
「ノルン、それは私に効くから、もう二度と言わないこと」
2人はもう遠眼を確保したらしい。
「俺は調整に手間取ってるのに……なんだかなぁ……」
術者本人が一番苦労してるのに、魔術の対象者はなんの苦労もせずに効果を受け取るだけなんて。
やはり、俺の強化魔術は間違っている。
なぜ俺は、自己強化を勉強してこなかったんだ。
「ふぅ、ようやく見えた。……むむ、あれテゴラックスじゃないか、討伐対象の。早々に見つけられるとはラッキーだ」
倒しなれた魔物に、恐れなく矢をつがえた弓をひく。
先日、強化実験で一本破壊してしまったので、残りはこの一本だけだが、必中のゴーレム矢なので問題はない。
俺が倒すのは初めてだが、はたして上手くいくか。
「ゴーレム、あの白いクマの頭を狙う感じで、ひとつ頼む」
矢にしっかりお願いしてっと。
「……ここ!」
弦を離して、緊張を解放する。
空気の切れ目をつくり、青い矢尻が魔力のオーラの尾をひいて、飛んでいく。
矢の向かう先には木があるが、そんなことお構いなしとばかりに、2本ほど木を貫通し、青の一射がずっと遠くで白い巨体に直撃したのが見てとれる。
ありえない軌道と、ありえても人間業じゃない曲芸射ちに、アルウとノルンは顎がはずれそうになるくらい口をあんぐり開けている。
「どうだ? 4日くらい弟子といっしょに木を射って練習したんだが、上手いもんだろう?」
ちょっと格好つけて、経歴をごまかす。
実際のところ4日間寝ずに目の強化魔術の調整に費やしたなんて言わない。
「凄すぎて、なんて言えばわからない、です……ッ。バルトメロイ大先輩、いえ、大先生、魔術をもちいたいにしえの武器『
「何それ、ズルっ……
ふふ、悔しがってる、悔しがってるな、アルウよ。
ウィンディという素晴らしい弟子を見つけた俺は、最高に波に乗ってるんだ。もう止まらないぜ。
「さあ、それじゃ、魔導弓のチカラも証明されたし、証人も確保したし、あとはあのテゴラックスを分けて持って帰っ……って、あれ?」
今しがた倒したテゴラックスが、すーっと横にスライドしていく。
怪奇現象?
いや、違う。
「なにかが、テゴラックスの死体引きずって行ってるよ」
「わっ、本当ですね。あれは、ぇ、
ノルンの一言に戦慄する現場。
上位魔物種の名前は、冒険者すべての血に刻まれている。
ポルタは賢く、極めて危険な魔物。
もしかしたらーー。
「
「静かに、動いちゃダメですからね」
こちらへぐるりと首を動かすポルタ。
骨と皮だけの10メートル級のサルだ。
場合によってはドラゴンすらくびり殺し、喰い散らかすという。
俺たちは口元を押さえ、懸命にヤツが過ぎ去るのを祈ることにした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「面白い!」「面白くなりそう!」
「続きが気になる!「更新してくれ!」
そう思ってくれたら、広告の下にある評価の星「☆☆☆」を「★★★」にしてフィードバックしてほしいです!
ほんとうに大事なポイントです!
評価してもらえると、続きを書くモチベがめっちゃ上がるので最高の応援になります!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます