第13話 過去との決別

 

 鋼鉄のリンゴを首からぶら下げて街をいく。

 背中に背負うのは弓と矢のゴーレムだ。

 見たこともない摩訶不思議な形の武器に、街の皆がすれ違うなり振りむいてかたまる。


 爽快、爽快、実に爽快ではないか。


 今までにない注目度に満悦で、目的地クリスト・ベリア冒険ギルドに到着、扉を開けて注目をうける。


「バルトメロイだ……バルトメロイだ……」

「本当に生きてたのか……」


 まだ、バルトメロイ死亡説が覆されたことに驚いてる奴もいるな。それやめろって。


「お前、バルトメロイ……よくもまぁ、また冒険者ギルドに顔を出せたな」

「あ」


 冒険者ギルドの奥、因縁の男がふらついた足取りで歩み寄ってくる。


 最低最悪のクソ野郎。

 俺の知るなかでもこいつは一番ゴミだと断言できる。


「裏切り者のフォーグスか。元気そうだな。俺がいなくなってから調子はどうだー?」

「あ? なんだ、おめぇ、すこし前はピーピー仲間だの、絆がどうとか、泣いてたくせにもう持ち直したのかよ。けっ、てめぇのパーティへの気持ちなんざ、所詮はそんなもんってことか。お前こそ、裏切り者だ」


 酒くさい息を撒き散らしながら、フォーグスは不適な笑みをうかべた。


 ふざけやがって。

 目の前にいるだけで、気分悪いのに、この言い草。


 ぶっ殺してもバチは当たらないかな。


「スゥ、ハァ……落ち着け、俺」

「はは! おい、どうしたよ、バルトメロイ。かかって来ないのかよ。ああ、そうか、てめぇの、雑魚魔術じゃ目の前の天才剣士を黙らせるのには、クソの役にも立たないもんな! 所詮はバルトメロイってことだ。ひとりじゃ、何もできやしねぇ! 三流魔術師さ!」


 落ち着け、落ち着いて思考をまとめていけ。


 俺に腕力があったならぶん殴ってる。

 攻撃魔術があったなら撃ちこんでる。


 そして、今、俺には攻撃魔術がーーある。


 なら、やることは一つだよな。


「アルウ先輩直伝だ。ほい、≪風打ふうだ≫」

「っ!?」


 ただ一言、それだけトリガーを告げ、腰の中杖をスッと抜いた。


 圧縮された空気の球に、目の前の″天才剣士″とやらは吹き飛ばされ、きりもみ回転しながら机と椅子を盛大に壊しながら、床に激突する。


 いい気味だ。

 胸がすくってこういう事か。初めて知った。


「あッ!、が、そんな、なんで、バルトメロイ、ごときが、俺様に、ぐ、そ、ぅえ……!」

「おいおい、覚えて3日の現代魔術だぜ? そんなに飛ばされんなよ。仮にもドラゴン級冒険者の端くれだろうが。クソ野郎」


「てめぇ! なに人様の机に勝手に突っ込んできてんだ!」

「舐めてっと、ぶっ殺すぞ!」

「俺のミルク返せぇえ!」


「ま、まて、てめぇら、俺はドラゴン級冒険者『フォーグス剣士隊』の……ぶへぇ!」


 机に座っていた他の冒険者たちに胸ぐらを掴まれ、ボコボコにされるフォーグス。


 その隣を、通りすぎて奥へいく。


 実に素晴らしい気分なのだが……ふむ、違和感はある。


 俺の言ったとおりフォーグスは仮にもドラゴン級冒険者、あんな奴らに抵抗するくらいの力はあるだろう。


 そもそも、あいつらギルドの誇る最高戦力相手によく殴ったり、蹴ったりできるな。普通なら話しかけることすら、一考の余地あるというのに。


 それに、俺が『フォーグス剣士隊』にいたころは、通るだけで他のパーティ全部が、道をつくるくらい尊敬されて、羨望のまなざしで見られてたはずだ。


「いてぇ、やめ、やめろ、俺は、フォーグス、フォーグスだ! 伝説のドラゴン級パーティ『フォーグス剣士隊』のリーダーだぞォ!」

「いい加減にしやがれ、三流剣士がよ。バルトメロイがいなくなった途端、ゴブリンの群れに敗北して逃げ帰ってきたくせに偉そうにしてんじゃねぇ、雑魚!」


 え? ゴブリン? それかなり″脅威度″低いやつじゃ……。

 嘘だろ、フォーグス達、そんな弱かったのか?

 いや、でも、流石にそこまで弱いってことは……。


「ッ、てめぇら、リーダーに何してやがる!」

「『フォーグス剣士隊』を舐めやがって! ぶっ殺しちまえ!」


「「うらぁああ!」」


 突如、扉から入ってきた『フォーグス剣士隊』の隊士たちが、剣をぬいて斬りかかる。


 どいつもこいつも酔っ払っているみたいだ。


 迎え撃つのは、オーガ級冒険者パーティの面々。

 クリスト・ベリアでも著名な冒険者どうしの喧嘩だ。いや、剣抜いてるので、ちょっと過激すぎだが。


 本来の等級から考えれば、オーガ級冒険者たちの行動は自殺行為であり、瞬き一回のうちに細切れにされててもおかしくない蛮勇的行動である、がーー。


「ぐへぇ!」

「なんで、オーガ級が、こんな強いんだ……ぐが!」

「最近、やけに俺たちが調子悪いからって、調子に乗ってんじゃ……ぐぼげぇ!」


 どうだろう『フォーグス剣士隊』の隊士たちと、オーガ級冒険者たちはツバ競り合い、あまつさえ隊士のうち何人かは吹き飛ばされてギルドの外へ追い出されていく。


 ああ……まじであいつら弱いじゃん。


「はは! 雑魚どもめ、てめぇらは『剣気圧けんきあつ』ーー戦士たちがまとう特別な力。厳しい鍛錬で身につくらしいーーまとってるところも見たことねえし、歩き方から強さも伝わってこねぇし、怪しいと思ってたんだよォ!」


 叫ぶ肉塊のような、たくましき筋肉のオーガ級たちが、隊士をどんどん倒していく。


 待てよ、うちの隊士、流石に雑魚すぎだろうが。


「まじ、勘弁しろよ……フォーグス」


 頭痛がする。

 自分が剣の達人と慕っていた奴らが……こんな……。


「バルトメロイの死が悲しまれてたのは、死後になって評価があがったから」

「ん、あ、アルウ先輩じゃん。ちっす」


 いつの間にか、となりにいたアルウは飴を口のなかで、もて遊びながら、とても冷たい目でフォーグスの隊士たちを見つめる。


「もしかして、アルウ先輩とか、ギラーテアさんは、わかってたのか、フォーグス達のこと」

「当たり前。私も剣はちょっと使えるよ。最近の魔術師はすこしくらい近接戦闘力をやしなっておくのが、たしなみってやつ」


 首をホールドされ、膝ガッくんされて崩される。


 なんで、俺に技をかけるっ!?


「ぐへ……アルウ先輩、後輩に、優しくして……ッ」

「仕方ない後輩だよ、まったく。ふふん」


 アルウ先輩、後輩をいじめてご満悦です。


 ま、ご機嫌になられたようでなにより。


「バルトメロイ! おい、バルトメロイ、お前のせいだ、お前がすべてを台無しにした!」

「あ?」


 フォーグスは隊士たちに、かつがれて逃げさる途中で、俺へ大声で罵声をあびせてくる。


「お前が本当に『フォーグス剣士隊』を愛してるってんなら、もう一度、俺たちのパーティに入れてやってもいい。チャンスをくれてやるんだ、今すぐに答えを出せ、バルトメロイ」


 床に尻餅ついて下ろされるフォーグス。

 かたわらのオーガ級冒険者をにらみ、彼は俺に詰め寄ってきて、早口にまくしたてる。


「さぁ、答えを聞かせろ。俺たちのパーティに、戻る最後のチャンスだぞ」

「おまえさ……それ、まじ?」


 俺は驚愕のあまり言葉を失った。


 このクソったれ、正気なのか?


 目を閉じて、深呼吸。

 呆れてなにも言えない。


 過ぎ去りし日々を回想する。


 フォーグス、お前はどうして、こんなになったんだよ。

 若い頃は、こんなじゃなかったはずだ。

 始まりの4人。


 毎日、朝早く起きて、剣を練習して、最強の剣士になるって……。


 薄く目を開け、ひとつ思いいたる。


「甘やかしすぎた、かな……」

「あ? なんだ、でけぇ声で言えよ! 俺のドラゴン級パーティ『フォーグス剣士隊』に戻りたいって!」


 小さな呟きに、めくじらをたてて、胸ぐらに掴みかかってくる。


 アルウが杖を傾けるが、手をあげて踏みとどまってもらう。


「……」


 俺の返答のため用意される静寂。


 固唾を飲む、見慣れたギルドの面々。


 どこで間違えたのか、どこで結末が変わったのか。


 いや、初めからこうなるしかなかったのか。


 表世界へ来てからの、日々のすべて。

 それらすべてを乗せて、俺は言葉をつむぐ。


「はぁ、クソ喰らえ、フォーグス。お前とは終わりだ」


 中指をたてて、俺は思いきりフォーグスをぶん殴った。


「ぁ、が!?」


 俺に殴られたのが、フォーグスはよほど驚いたのか、瞠目して、目を見開いて見つめてくる。


 楽しそうにニヤけるアルウと奥へいく。


 奴に言うことは、もう無い。

 言葉を重ねるだけ、無駄だ。


 歓声をあげて盛りあがる酔っ払いのギルド。


 投げつけられる酒の木杯やら、料理の皿、ゴミの雨にフォーグスたちは苦い顔をし、ギルドから逃げ去るように撤退していった。


「ところで、バルトメロイ、その背中のは何?」


 アルウが騒動など忘れたように、話題を変えてくる。


 俺は弓を手に持ち、彼女へよく渡してやる。


「弓矢っす。ちっす」

「ふーん。びょんびょんしてる。先輩に優しく教えるべし」

「いっすよ、ちっす。この武器、人間が魔術による攻撃手段を獲得する以前に、ひろく普及していてですね、博識はくしきなアルウ先輩なら、もちろん知ってると思いますけどーー」


 過去との決別は、これで終わりだ。


 次は、未来へ生きるため、新しい先輩との良好な関係づくりを行うことにしようじゃないか。


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