第12話 魔弓の射手
ウィンディとやって来た、昼間の公園。
木陰では吹き抜ける涼しい風を感じる。
夏は、もうすぐそこだ。
「よし、ここら辺でいいか」
おおきな木の根で、日差しを避けながら、ウィンディの見守るなかで弓矢を用意する。
俺は弓矢の弓身と弦へ、それぞれ≪
まずは、その構造までは変化させない『
「これは俺自身の魔力をもちいて、対象を強化する方法だ。ウィンディが今行ってる『
「わぁ、凄いです。ウィンディもできるようになりますか?」
「ああ、もちろん。『
「無限? 無限ですか! 凄いです、ほんとうに凄いですね、先生の魔術は!」
無邪気に喜んでくれる我が弟子。可愛すぎる。
抱きしめて揉みくちゃにしたい。
だが、近場でふつうの本や、落ち葉のふりをしてるウィンディ守護隊はそれを許さないだろうから、ここは我慢だ。
にしても、そうだよな。
俺でも結構凄いことしてるだよな。
なのに、あのクソ野郎ども、ボロカスに言いやがって……。
「いや、やめよう。あいつらの事はもう知らん」
「先生?」
「んん、なんでもないよ、ウィンディ」
気を取り直して、魔術をつづける。
使うのは、この強化魔術の第一人者バルトメロイがオススメするオリジナルスペル≪
何にでも使えるよう調整された、革命的魔術。
俺のオリジナルスペルに用いられる『ランク』は魔術を構成する術式の多さを示しており、ひらたく言えば術式がおおいと強化率が高くなる。
ただし、高ランクの強化は対象を選ぶ。
俺が極端負担を覚悟して、高精度の強化をすれば、幼い少女でもランク6くらいの、強化はできるが……失敗の可能性もあるので、普通はやらない。
「さてと、これで弓矢をひけば、それだけ弦に込められる反発力が高まるはず」
期待をこめて、ちかくの木へ狙いをつける。
そして、思いきり引っぱった。
「ぐぐぐ、ぅ、ぅう……ッ!」
「? 先生、全然、弓を引けてないですよ!」
「ぐぬぬ、ぅ、ウィンディ、わかってるんだけど、だけど、ちょっと先生の腕力が無理っぽい……ッ!」
弓をひくのを諦めて、木の根に腰を下ろす。
はあ、はあ、はあ、やっぱり、ダメだ。
弦の強度を高めて、凄い威力の矢を放つ算段だったが、このままでは厳しいものがある。
弦の強度があがるほど、引くのにも相応の筋力が必要になるわけだ。
無からチカラは生まれない。
高い威力には、それを成すだけのエネルギーが、どこかから供給される必要がある。
「うぅ、この弓は固すぎます……! わたしでもすこししか引けません!」
「ぅ」
ウィンディが引っぱる弓が、わずかだけど、しなっている。
俺が非力なだけなのか?
こんな女の子でも引けるのに……。
「凄いな……ウィンディ……」
「えへへ、コツがいるんです。先生は腕だけで引いてるから、引けないんですよ! ほら、こうしてこうして背中で引いてください……そうです!」
ウィンディの助言にしたがい、姿勢を矯正すると、なんとランク1で強化された弓をわずかにしならせる事に成功した。
「ぐぬぬ! はっ!」
それっぽく放ってみると、矢は目標の木からおおきく右へとそれていき、違う木へと突き刺さった。
近寄って見てみると、深々と突き刺さっており、なかなか悪くないんじゃないかと思えてくる。
「初めてにしては上手ですよ、先生!」
「そうかな? あはは、まあ、こう見えて俺って万能の天才みたいなところあるし……んっん、浮かれた。こんなんじゃ、実戦の役には立たないな」
すぐ調子に乗る自分を律して、弓を回収して、元の位置にもどる。
俺はただ弓を使いたいんじゃない。
ここまでは遊びだ。
次からが本番。
「ウィンディ、
「へ?」
そう、俺の真の目的は「弓のゴーレム化」だ。
もしこれが成功すれば、おそらく全ての問題が解決する。
ウィンディが硬化を施して、硬化だけを解除してもらった弓を取得。
ピョンピョンと跳ね回りだした弓を、誰にも見られないうちに走って捕まえ、腰の中杖へ指をそえて、ゴーレム化した弓のコントロールを得る。
よし、これでいい。
「わぁ! 先生もゴーレムさん達を操れるようになったんですね!」
「まぁね。ウィンディのリンゴのおかげだよ」
「なるほど。先生が研究してから、たまに見当たらなくなってたんですね」
ウィンディが「安心しました」とホッと息をつく。
彼女にとっては、この世界一頑強なリンゴは
大事に扱わなければ。
「して、だ。さぁ、ゴーレム、お前のチカラを見せてみろ」
回収して来た弓をつがえて、ゴーレムに矢を引くように命令を出しながら引きしぼる。
すると、今度はほとんど力を使わないで、弓を引くことができた。
ニヤリとほくそ笑み、放つ一撃。
すると、矢はヒュンッ、と風を裂いて飛んでいき、ふたたび右へおおきくそれて、同じ木に着矢。
「す、凄いです! 先生ならわたしの里一番の弓使いになれる才能ですよ!」
大喜びのてウィンディと顔を合わし、走って矢を回収しにいく。
「っ、おお!」
「これは!」
矢はさっき俺が当てた木に穴を開けて、その後ろの木に刺さって止まっていた。
素晴らしい威力だ。
これなら俺ひとりでも、倒せる魔物が出てくるに違いない。
いや、俺たちか!
「ウィンディ、凄いぞ! お前は最高だ!」
「え、え? えへへ、そうですか〜? えへへへ、先生嬉しいなら、わたしも嬉しいです!」
はにかみ、破顔して笑うウィンディ。
たぶん意味はわかってない。
「でも、先生、この弓矢、
「ああ! そうだな! 弓矢はあと2本しかないし、なにより、
わくわくが止まらない。
今度は、新しい矢を適度に強度をあげ、弓のほうも≪
「先生、弓だけじゃなくて、矢もゴーレムさんになれば、きっと目標にピタリと当たってくれるのでは?」
「……ウィンディ、流石、俺の弟子だ」
さっそく、やってみた。
「いいな、あの木を狙うんだぞ?」
「ーー」
ウィンディにゴーレム化してもらった、最強硬度をほこる矢尻を装備した矢に、しっかりとお願いした。
なんとなく「任せとけ。全部こっちでやってやっから」と頼もしい返事をしてくれてる気がする。
矢をつがえる。
俺の魔力をたらふく
あたりで生い茂る青草たちが揺れ、
純魔力特有の蒼いオーラがあたりに満ちていく。
久々にこれだけの強化をした。
こんだけ魔力を使うのは教団にいた時以来だ。
解放された魔力の脈動に、背中がピリピリとする感覚が気持ち良い。
「先生の体、なんか青くモヤモヤが……すごい魔力を感じますッ、先生、それ燃えませんか!?」
「燃えません。この程度の魔術で驚いてるようじゃ、俺の真髄を見せるのはまだまだ先かな」
「ぬぅわー! 余計なこと言っちゃいました! もっとすごい魔法を見たかったのに!」
はしゃぐウィンディを横目に、力みを解放。
放たれた矢が
ほんのり輝く青い矢尻。
軌跡をのこして飛ぶ先は、さっきは俺の下手で当たらなかった木だ。
ーーバゴォンッ!
「ッ!」
「うぇあ!? なんですか、あの音は!? あれは矢が当たる音じゃなかったです!」
爆発するような音が聞こえ、バキバキと音をたてて、木が倒れていく。それも一本じゃない。
その先、ずっと奥のまで、10本近くの公園の木が折れていき、はるか先に青い輝きを発見できる。
唖然として、ウィンディと顔を合わせる。
ヤバイ物を作ってしまった。
そんな共通の感動を感じているのが、俺とウィンディには、手に取るようにわかってしまった。
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