第11話 ゴーレム・アルゴリズム


 ギラーテアとアルウによる家庭訪問から1週間。


 ウィンディの強化魔術の練度れんどは着々と上昇し、硬化を解除することができるようになった。


 ゴーレム達に掛けた硬化を解除しても、彼らが動かなくなるわけではないところを見ると、一度ゴーレム化した物質には、″硬化の付与/取消″に関係はなく、動作をささえる術式が組み込まれつづけるらしい。


 硬化と一緒に無意識にゴーレム術式を刻んでいるなら、解除したらゴーレム術式も取れるかと思ったが、そんな事はなかったということだ。


 硬化を解くと、どことなくぎこちなかったゴーレム達の動きが、滑らかになっていったので、今では魔術工房中のゴーレム達はみな硬化が解かれている。


 ゴーレム達を観察していると、面白い動きをすることもわかった。


 彼らはウィンディを守る習性がある。


 ソファで寝ているウィンディへ手を伸ばそうとすれば、たちまち魔術工房中の本棚から魔導書が飛んできて物理的な結界を展開、葉っぱゴーレム隊が舞ってあおってくるなかで、俺は木彫りゴーレム隊にめった打ちにされるのだ。


 ただ、そういう場合、俺の硬化した『鋼鉄のリンゴ』が助けてくれる。


 どうにも、『鋼鉄のリンゴ』はゴーレム達を統率するマザーブレインらしき働きをしているみたいで、彼らをぎょするチカラをもってるらしい。


 不思議に思って鋼鉄のリンゴを手にとり、魔術で調査したところ、ゴーレム達をコントロールするアルゴリズムの一端を垣間見ることができた。


 仮称・魔術≪ゴーレム・アルゴリズム≫の実験は、鋼鉄のリンゴを手に持っているうちは上手くいった。


 あのリンゴさえ手に持っていれば、俺にもゴーレムを操作できるのだ。


 ちなみに、ゴーレム化した魔導書の一匹を捕まえて、鋼鉄のリンゴと同じように単純硬化を施したところ、マザーブレインとしての能力はつかなかった。


 順番の問題かと思い、そちらも実験した。


 つまり、

 ①魔導書のゴーレム化→②単純硬化付与、ではなく、

 

 ①単純硬化付与→②魔導書のゴーレム化、を行った。


 結果、ダメだった。

 魔導書がマザーブレインの能力を持つ事はなかった。


 あの鋼鉄のリンゴは特別らしい。

 何か別の要素ファクターがあのリンゴにはあるのだ。

 

 鋼鉄のリンゴは、今のところゴーレム達の叛逆を唯一コントロールできる手段なので、莫大な魔力量をともなって毎日のように『構造強化こうぞうきょうか』を施して世界一頑強な果実にしている。


 壊れたら困るからな。


 ウィンディには悪いが、たぶんあのリンゴと同じ硬さにする魔術はない。というか、あれ以上に丈夫な物質を見つける事自体が困難かもしれない。


 本日、俺はゴーレムと強化魔術をもちいた更なる可能性の拡張にいどむ。


「わっ! お帰りなさい先生! っ、その手に持ってるヤツ、わたしももよく使ってました!」


 作業机で頑張るウィンディが、俺の帰還に喜んで走り寄ってくる。可愛い。よしよし。


 俺は手に持って″弓矢ゆみや″と呼ばれる古い武器を、ウィンディに手渡す。


 人類に″魔術を撃つ″チカラが備わってから、弓矢は必要とされなくなって言ったという。


 名前でしか聞いたことがなかったので、街で探すのも苦労した。


 何せ、クリスト・ベリアの武器屋には、どこへ行っても弓矢なんて売ってる店はなかったのだから。


 俺の見つけた弓は、骨董品をあつかう露店で、たまたま見つけたものだ。


「にしても、ウィンディ、弓矢を使ったことがあるのか?」

「ええ、もちろんですよ、先生! わたしの里で弓矢をを使えない人はいません! おばあちゃんもおじいちゃんも、こうして弓をつがえて100歩先のイノシシを射抜けるんです!」


 ウィンディが弓に矢をそえて引くのをマネして、俺も弓を試しに引いてみる。


 なるほど、このげんと呼ばれる部位が生みだす人力のエネルギー上手く使っているんだな。


 これなら″腕力″を″遠くの敵を倒す力″に変換できる。賢い武器だな。感心する。


 魔術がない地域では、まだ使われるのもうなづけるというものだ。


「……ぐ、にしても、これ結構疲れるな……それに、100歩先のイノシシを狙うだと……?」


 ウィンディのおじいちゃんとおばあちゃん、凄すぎないかな? 


「えへへ、先生もまだまだですね! 弓矢の腕ならわたしもそれなりのモノなんです! よかったらお教えしますよ!」

「ありがとう、ウィンディ、後で教えてくれ」


 元気よく返事をするウィンディ。

 よーし、これでゴーレム達に非難されることなく、弟子とイチャつく口実ができたぞ。


「それにしても先生、どうして弓矢を? イノシシを倒したくなったんですか?」

「そうじゃないさ、ウィンディ。俺は弓矢という武器の″仕組み″を聞いた時から、おおきな可能性を感じてたんだ。すごく貴重だし、高かったから手に入れなかったけど……」

「だけど……? あ、わかりました、ギラーテアお姉ちゃんたちと、お仕事してきたんですね!」

「いや、まだクエストには行ってない。これはその汚いお金で生まれた弓っていうか……このまえギラーテアさん屋敷で、『ようこそ、バルトメロイ。大歓迎草むしり大会』に参加したんだ。そこで、たまには上位に喰い込みたいって言う、アルウお姉ちゃんを強化してね、やりすぎて優勝させちゃったんだ。これは、つまり、その時の報酬で……」

「あ、知ってます! つまり賄賂わいろって奴ですね!」


 そうだ、ウィンディ。

 先生は姑息なことしないと、まだお金を稼げないんだよ。他人任せの強化魔術師だから! うぅ!


「まあ、それは置いておいて。ウィンディ、弓矢がどう放たれるか知ってるかい?」

「ふふん、いくらなんでも、わたしのことを舐めすぎていますよ、先生。このげんに込められた反発のチカラでビューン、シュパパッ、って飛ぶんです!」

「そう、多分、それであってる。つまり、この弦に溜まる力が高いほど、強い矢が放てるわけだ」


 再度確認して、理論上は上手くいくと確信。


「ふふ、ウィンディ、今から凄いモノを見せてあげよう。さあ、公園へ行こう」

「わーい! さあ、みんな行きますよ!」

「ゴーレムは置いていく」

「えー!? それは、可哀想です、先生!」


 ウィンディの抗議の視線と、乗り気なゴーレムに気圧されて、仕方なくゴーレム達の同行を許可。


 俺たちは驚異の実験のため、公園へむかった。



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