第10話 魔術工房へ招待


 面接を一発合格し、その場で採用された俺の頭を撫でて、嬉しそうなギラーテアが俺をとなりに座らせてくる。


 アルウはスーっと、俺とは反対側のギラーテアのとなりの席に移動。


「それで、このひと月で考えは固まったってことでいいのね? あたしたち『ギラーテア魔術師団』の仲間として、やっていく意志があるってわけだ」


 ギラーテアは桃色の前髪を綺麗な指先でわけ、まっすぐに見つめてきた。

 

「そうですね、ギラーテアさんのパーティでやり直そうかなって思ってます。ただ、正式にパーティに属したくはないです。取り分は少なめでいいので、雇われって感じで甘い汁をすこし吸わせてほしいなって」


 我ながらあくどい。そして、小さい。

 

「そんな言い方されるのは、あたしも傷つくね。あたしたちと冒険に出たいのに、どうしてあたしたちのパーティへは加入したくないの? 仲間になった方がいいよ?」


 ギラーテアは机に肘をつき、可愛らしく小首をかしげる。


 残念だが、24歳、貴様がどれだけ可愛かろうと、俺は自身の守備範囲外に関しては無敵だ。

 加えて胸の大きさも、俺相手には十分な効果をもたん。むしろ減点まであるからな。ふんす。


「俺、弟子をとったんです」

「……え? その若さで弟子をとったの? それって凄いね。バルトっち、ほどの魔術師に目をかけられるなんて、いったいどんな子なのかな。ね、アルウ」

「多分、小さい子。小さい女の子だと思われます、リーダー。なぜなら、バルトメロイは女児の香りが大好ーー」

「やめて、アルウ先輩、お願い」


 机の反対側、届かぬアルウへ手をかざして祈る。


「まあ、とにかく弟子がいるって言うなら仕方ない。パーティの仲間になっても、そっちにかかりきりになられちゃ、全体の足並みに影響出るかもだしね。仕方ないから、バルトっちにはクエストに行く前に一声かけるってことで。ちょうど、アルウもいるし、アルウがバルトっちへの連絡係ね」

「ええー。バルトメロイが引きこもってる場所、知らないんですけどー」

「あたしも何だかんだ、バルトっちの寝ぐらがどこにあるのか知らないな〜。ちょうどいいし、家庭訪問しよっか♪」


 どうやら、この人たち俺の工房にくるらしい。



 ⌛︎⌛︎⌛︎



 白に金の刺繍がはいった、全然、路地裏が似合わないタイプの2名を魔術工房へ招待する。


「へえ、こんなところにあったんだ。ずいぶん陰湿な場所に作ったのね、バルトっち」

「くんくん、くんくん……バルトメロイの魔術工房から、犯罪の香りが、する」

「あいあい、どうぞ、なかを見て驚くなよ」


 俺は強化魔術の行使と、魔術工房の整理整頓だけでは、ほかのどんな魔術師にも負けない男。


 部屋の綺麗さに、度肝抜いてやる。


 扉をあけて、いざ入室。


 すると、さっそく本が飛んできて、俺の顔へ突撃を敢行かんこうしてくる。


 直前で受けとめて、本の背表紙を指でなでてやり、本のご機嫌をとる。


「うわぁ……本が飛んでる……」

「ぇ、凄……これは、あたしも予想してなかったかも! それは、近代魔術なんだろうけど、いったいどんな魔術を使ってるの?」

「ゴーレムです。この工房で作られた、ね」


 意味深げにほほえみ、言葉をきる。


 俺の誘いに引っかからず、特にゴーレムについて何か質問しないで、ギラーテアは目の色を変えた。

 まるで、楽しい遊び場を見つけた子どものように、魔術工房のなかを駆けだす。


「ああー! 先生が帰ってきたと思ったら女の人を連れこんでいます! それも2人もです! これは緊急事態宣言なのでは!?」


 駆けだすギラーテアのまえに立ち塞がり、両手を広げて通せんぼするウィンディ。ぺろぺろ。今日も可愛い。


「凄い、凄いよ、こんな可愛らしい子が魔術工房から出てきちゃったよ! これも近代の魔術なの? バルトっちの工房凄すぎなじゃない!?」


 いや、ギラーテアさん、この子は魔法じゃないです。


「紹介しましょう、ギラーテアさん。この子が俺の弟子のウィンディ。詳しくは話せませんけど、凄まじい才能を持つ魔術師見習いです」

「こんにちは! 先生の友達の、お姉ちゃんたち! わたしはウィンディです! ここで先生に魔術を教えてもらってます!」

「ウィンディ、平気? バルトメロイ先生に、何か妙なことされていない?」

「あ、そういえば、今朝はいきなり服を脱げってーー」

「誤解が起こる言い方やめなさい」


 こつんと弟子の頭を小突き、事案の発生を未然に阻止。


「うぅ、痛いです〜、先生」

「よしよし、いい子いい子。痛くないわ、ウィンディちゃん」

「えへへ、ありがとうございます、お胸の大きいほうのお姉ちゃん」

「その呼び方も悪くないけど、ウィンディちゃんには、名前で呼んでほしいなぁ。あたしはギラーテア。このクリスト・ベリアで冒険者をしてる魔術師なの。よろしくね」


 ギラーテアはそう言って、ロープ下に隠れていた腰の中杖をウィンディにチラ見せする。


「なんと、ギラーテアお姉ちゃんは魔術師、魔法使い様なのですか! それは素敵です!」

「ふふ、魔術師ってだけでこんな喜ばれちゃうなんて、気恥ずかしいものね。ところで、ウィンディちゃん、その手に持っている物はなに?」


 ギラーテアはウィンディの手に持つ、木彫りの小鳥を指さした。


 現在のウィンディにできる強化魔術は、物質の単純硬化まで。

 生命につかうと十中八九、になるのは目に見えている。ので、先日買った小鳥や小動物には、硬化実験をせずに別室で、寝てればエサがもらえる自堕落な生活をおくってもらっている。


 彼女に″木彫りの小鳥″をあたえたのは、ひとつの予想から。


 葉っぱを硬化させれば踊り、本を硬化させれば空を飛ぶ。


 ならば、木彫りの小鳥ならどうなる?


 俺はウィンディが硬化させた物のなかでも、″本だけは決定的にちがった″、特別製だと思っている。


 葉っぱ、リンゴとは違う。


 のだから。


 俺の予想では、ウィンディは硬化させる物から連想できる範囲で、実現可能な動作を対象に自動で組みこんでゴーレム化している。


 ならばーー。


「これは先生からプレゼントされた木彫りさんで……あ、あ、こら、暴れちゃだめですよ! ちょっと、あああぁあ〜!」


 木彫りの小鳥は暴れだし、床のうえに落ちてしまった。


 その後も、羽を不器用にバタつかせるばかりで、一向に飛ぶ気配はない。


 これでは実験失敗だ。

 木彫り小鳥なら間違いなく、本のように飛んでくれると思ったが。


「あ、飛びはじめました! 凄いですよ、木彫りさん!」


 む、どうやら早計だったらしい。

 木彫りの小鳥は羽を動かして、部屋のなかを自由自在に飛びまわりはじめた。


 体中に硬化が効いていたから、慣れるのに時間がかかったというところか。


「凄い……まさか、木彫りの小鳥に命を吹き込んだっていうの?」


 そこまで、ヤバイことはしてないですよ、ギラーテアさん。


「これはゴーレムです、ギラーテアさん。さっき、言ったでしょ?」

「ぁ、ええ、よく聞いてなかったけど、たしかに言ってたような。まさか、魔術でゴーレムを作り出すなんて、それ、相当凄いことしてない、バルトっち」


 口元を押さえ、ギラーテアは真剣な表情で、ウィンディの凄まじい才能に感嘆してるようだ。


 アルウもポカンとした顔で聞いている。


 ふと、アルウはローブをめくり、顔が見えるようなしてから、しゃがみこんだ。

 ウィンディと同じ目線の高さだ。

 

「こんにちは、お胸の小さい方の魔術師さん!」

「それは心外。だと思う。私の名前はアルウ。アルウお姉ちゃんって呼んでくれていい。ねえ、ウィンディ、君はただの木彫りを空飛ぶゴーレムにすることができるの?」

「そうです! 先生が教えてくれた魔術を使えば、どんなものだって、ゴーレムにする事ができるんです!」


 ウィンディは手元にあった本を持ちあげて、ゴーレムに変えて空へと飛びたたせる。


 アルウとギラーテアが目を見開き、俺の顔を見てきた。


「バルトっち……そんな凄い魔術師だったの……?」

「バルトメロイ、今なら結婚してあげても、いい」

「…………ふふ、まぁ、朝飯前かな。余裕、余裕」


 なんか勘違いを呼んでるけど、すごく心地よい視線なので、しばらくこのままで行こう。


 弟子の威を借りる先生というやつだ。



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