第5話 ラッパー、強敵に苦戦する

 「私の、実の娘だ」


 「ええええええええええ!?」


 王様の衝撃の告白に俺とサーシャは驚きを隠せなかった。


 「こ、この巨乳女がエンドルハン王の娘?」


 「おい、失礼だぞ」


 サーシャの無礼な発言を俺は注意した。


 (しかし待てよ。確か王様は、娘は国を出てったって言ってたよな)


 俺は酒場での王様の会話を思い出していた。まさか、国を出て行った娘が自分の父親の命を狙うとは。


 (そう言えば、何故女アサ、じゃなくてエリナは国を出て行き、父親の命を狙おうとしたのか)


 「あの、王様。どうして娘さんは国を出て行ったんですか?」


 「あ、ああ。従者君、それはだね」


 相変わらず俺のことを従者と呼ぶ王様は、ことの発端を語り出した。


 「縁談?」


 「ああ、娘もいい年頃だ。だから近くの領主の息子と縁談をしようと思ったんだがね。だが、エリナはその縁談をなかなか受けようとしなくてつい喧嘩になってしまったんだ」


 と事情を話していた王様に、牢屋に入れられているエリナが首を突っ込んだ。


 「誰があんな男と結婚するか!大体お前はいつもそうだ、小さい時からああしろこうしろ、もううんざりなんだよ!だけどザイク様は違った。ザイク様は私の全てを受け入れてくれた。ザイク様が私の本物の父親だ!」


 (なるほど、要は反抗期の娘とお節介な父親の喧嘩って訳だ。そして娘は家出中、いまだに仲直りはしていない。なるほど、そういうことね。ってちょっと待て。ザイクって誰だ)


 「なあサーシャ、ザイクって誰だ?」


 俺はザイクなる人物についてサーシャに聞いた。


 「ザイク?聞いたことないわね。ビーラのリーダーは違う名前だったはずよ。リーダーが変わったのかしら。ちょっとあんた、ザイクって何者よ?」


 サーシャもザイクのことが分からないので、エリナに聞いた。するとエリナはこう答えた。


 「ザイク様はザイク様だ!それ以上でも、それ以下でもない!!」


 なるほど。つまりエリナもザイクの素性が分からない。しかし、国を出て行く当てなんてどこにもないこの女をザイクは面倒を見てやった。そしてそれを自分が深い愛情を受けていると思いこみ、奴のいいように使われた。そんなとこか。なんて考えていると、王様がとあることを言い出した。


 「なあ従者君、エリナを解放してくれないか?エリナはそのザイクとやらに操られていただけかもしれん。それに今までエリナを押さえつけてきた私にも責任がある。もう一度娘と話がしたい。頼む!」


 王様は頭を下げている。従者の俺に決定権があるとは思えないが、俺は一応エリナに聞いてみることにした。


 「と、王様は言ってるけど、お前はどうなんだ?」


 「今更話すことなんか何もない!」


 と、エリナはまんざらでもない様子で答えた。


 「あのね、君。もう少し親の気持ちってものを・・・・・・」


 俺がエリナに呆れて説教しようとしたその時、管理局の守衛が慌てて俺達のいる地下牢にやってきた。


 「て、敵襲です!敵がこの上にまで攻めてきました!!」


 「ば、馬鹿な!あれだけ厳重な警備をどうやって?敵は何人だ?」


 王様が敵の数を聞いてきた。


 「ひ、1人です!」


 「なんだと!?」


 と、王様は驚くと、牢屋の鍵を開けエリナを解放した。


 「急いで地上に出よう!」


と、俺とサーシャに言った。俺達は急いで地下牢を出て地上に上がった。地上に上がると、マントを羽織った唇が紫色の1人の男が立っていた。周りには守衛が倒れていた。すると、その男を見たエリナは


 「ザイク様!」


 と言って奴に近づいた。するとザイクは近づいてきたエリナに


 「エリナ、お前はもう用済みだ」


 と言い、近づいて来るエリナに向かって右手を出した。そして次の瞬間、エリナは吹っ飛ばされ床に倒れた。それを見た王様は


 「エリナ!」


 と言ってエリナの元に駆け寄った。エリナはダメージを受けてむせている。サーシャは剣を抜き、俺もマイクをイメージし、kamiに音楽をかけさせた。


 「気をつけてカルマ!こいつ強そうだよ、bring on the beat!!」


 スクラッチ音が流れる。俺はいきなり8小節のラップを繰り出した。


 「はじめましてだな、するんじゃねえぞ汚え勝負は仕掛ける、雑魚は家帰って、王様の娘は、タダじゃ済まねえぞブロックのじゃここらで解いてやるよ、俺様の勝ちだこの


 次の瞬間、ザイクの周りが爆発した。


 (やったか?)


 煙の中で俺はザイクの姿を確認した。しかし、俺が目にしたのは、無傷のままでマントのホコリを払っているザイクの姿だった。


 (な、効いてない!?)


 「確かにお前の魔術は素晴らしい。だが、魔族である私の結界を破る程ではないようだな。では、次は私の番だ」


 ザイクは自信満々でそう言うと、一瞬で俺に近づき、俺のお腹に右手を当てた。そして次の瞬間、俺はお腹にとてつもない衝撃波を喰らい、口から血を吐き出した。


 「がはっ・・・・・・」


 俺はこの世界に来て初めて強敵に遭い、苦戦を強いられることになった。

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言霊魔術士〜異世界ラッパーの最強韻踏術 山田 弘 @pomtuyo2457

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