第4話 女アサシン、ラッパーの命を狙う

 「なんで報酬が出ないのよ!!」


 「ですから……」


 エンドルハン国王襲撃の件から数日後、俺とサーシャは護衛任務の報酬を受け取りに、ギルドに来ていた。しかし、俺達護衛がいたのにも関わらず、国王は危うく殺されるところだった。しかも国王を殺そうとした刺客には、逃げられる始末。だから、今回の件は俺達の責任能力不足ということで、エンドルハン国から今回の報酬はなしだと言われた。ということを受付嬢はさっきから何回も説明しているのに、サーシャは納得いかないようでカウンターに右肘をつけ、猛抗議している。


 (お前、何もしてねーだろ!)


 実際、王様の命を守ったのは他でもないこの俺である。側近と楽しく飲んでいたこの女がどうこう言える筋合いはない。だが、刺客に逃げられたのは事実である。王様を殺そうとした犯人を逃しておいて、お金をもらおうとは虫が良すぎる。


 (仕方ない、諦めるか)


 「おい、帰るぞ!どうもすみません」


 「は、離せ!あぁぁぁ私のエクスカリバーがぁぁ!!」


 俺はカウンターにくっついているサーシャの腕を引っ張り、ギルドを出た。ギルドを出てナディアの街を歩いていた俺達は、刺客について話していた。


 「あの女、一体何者なんだ?」


 「知らないわよ!」


 サーシャはまだ怒っているようだ。起こっているサーシャをよそに、俺は刺客の正体について考えていた。ついでに余計なことも考える。


 (あの胸の感触、忘れられん)


 「あぁ?なんか言った?」


 しまった、つい口に出してしまった。サーシャは鬼のような形相で俺を睨んでいる。


 「い、いや、これは違う、というか、誤解・・・・・・」


 「何が誤解よ!さっきからニヤニヤして!ああそうですよ、私には胸を揉まれる男はいないし、揉まれる胸もないですよ!!」


 サーシャはそう言いながら、俺の胸ぐらを掴んで前後に揺らした。


 「や、やめて!の、脳が揺れるー!」


 頭が揺れて吐き気がしてきた俺に、kamiが突然警告をしてきた。


 「カルマ、お楽しみのところ悪いけど、敵が来るよ!」


 (だから楽しんでねえ!って、え?)


 敵なんてどこにいるのか、なんて思っていたら近くの建物の陰から口元を布で覆った奴らが出てきた。全部で10人いる。その中には見覚えのある奴もいた。王様の命を狙ったあの女だ。顔はマスクで覆われているが、目元と何よりあの巨乳は、間違いなくあの刺客である。


 「な、何よ?あんた達。今、私は超イライラしてるの。喧嘩するなら容赦しないわよ!」


 大変ご立腹のサーシャは今にも俺達を囲んでいる集団に殴りかかりそうだった。すると、例の巨乳暗殺者が口を開いた。


 「女剣士、お前には用はない。用があるのはお前だ、魔術士」


 「え?俺?」


 「お前は何やら不思議な詠唱と魔道具を使うそうだな。だから厄介な力を使うお前には今から消えてもらう。やれ!!」


 女の命令を聞くと、全員剣を抜いた。そして女も短剣を二刀流で構えている。


 「はあ?何よ巨乳が偉そうに!いいわ、かかってきなさい。全員ぶちのめしてやる!!」


 サーシャも同じく剣を抜いた。俺もマイクとスピーカーをイメージし、kami


 「おい、音楽かけろ!」


 と言った。


 「OK!カルマ、死なないでよ!bring on the beat!!」


 片方のスピーカーからスクラッチ音が鳴りアップテンポのビートが流れる。俺は8小節のラップをした。


 「なんだ醜い、お前らは俺に、集団で襲うとは、だからお前ら、手に持った剣もしてるぞ、所詮はチンピラの、わんわん鳴いてる、あ、間違えた負け犬の


 「うわああぁぁ」


 敵の何人かが持っていた剣が砕け散り、口から血を吐き出した。サーシャも敵をどんどん切り倒している。残るは女1人だ。


 「ふ、やるな。だがこれでどうだ!!」


 すると女の姿が突然見えなくなった。


 「気をつけてカルマ!その女はアサシンよ!」


 俺は注意深く観察する。その時、俺はお腹にパンチを喰らい、次は背中を蹴られた。


 「ぐはっ・・・・・・くそ、見えねえ」


 絶対絶命の俺にkamiがヒントを与えた。


 「カルマ、敵が見えるようなラップをするんだ!」


 (見えるようにする・・・・・・よし、やってみるか!」


俺はラップを続ける。


 「発動だ全てを見通す、乱発する言葉の、悪い子にはお仕置き、でもその前にひっかけるぜ


 「う、うわああぁぁ!!」


 すると次の瞬間、女アサシンの姿が見えた。そして女はロープで両手を縛られている。


 「観念しなさい、この巨乳女」


 サーシャは嫌味のような台詞を吐いた。俺は他の奴らの死体を見ていると、左腕に蛇の絵が描かれているのを見つけた。


 (タトゥー・・・・・・か?)


 気になった俺はサーシャに聞いてみた。


 「サーシャ、こいつら腕に蛇のタトゥーをしてるぞ、なんか知らないか?」


 「蛇?ちょっと見せて。これは盗賊団ビーラのマークね。ナディアの近くに拠点があるわ。でも、奴らは悪い貴族からしか物を盗らない義賊のような奴らで、人を殺そうとするなんておかしいわね」


 「そうか・・・・・・とりあえずこいつに話を聞くしかないか」



 俺達は捕まえた女アサシンをナディア管理局の地下牢に連れて来た。そこにはエンドルハン王もいた。女と顔見知りかどうか聞くためだ。


 「王様、こいつが貴方を殺そうとした奴なんですけど・・・・・・見覚えあります?」


 こんな盗賊もどき、どうせ一国の王が知る訳ないだろうと思っていた俺とサーシャだったが、女の顔を見た瞬間、王様は顔を真っ青にしてこう答えた。


 「エリ・・・・・・エリナ・・・・・・わ、私の、実の娘だ・・・・・・」


 

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