第3話 ラッパー、女アサシンに会う

 「待て!」


 俺は夜のナディアの街の中を走っていた。とある刺客を追って・・・・・・


 (は、速い。これじゃ逃げられちまう!)


 「kami!」


 「OK!bring on the beat!」


 俺はマイクをイメージし、走りながら2小節のラップをした。


 「俺は行くお前の、そこで止まれ


 俺は刺客の前に瞬間移動した。だが、瞬間移動してバランスが取れなかった俺は目の前にある膨らみにつかまった。


 (うん?柔らかい。この感触はまさか・・・・・・?)


 「ーーっ!触るな変態!!」


 「ぐはっ!あべしっ!!」


 女の声が聞こえた次の瞬間、俺はお腹と顔面に1発ずつパンチを喰らい、後ろに吹っ飛ばされた。





 時を昼間に戻そう。


 「護衛任務ですか?」


 「はい、今日これから近くのエンドルハン国のエンドルハン3世が公務の一環でナディアを視察に来るんです。そしてその護衛を、連日クエストで大成功を収めていて、しかも強力な魔道具をお持ちだというカルマさんにお願いしたいと思いまして・・・・・・もちろん、サーシャさんもご一緒でよろしいですよ」


 俺とサーシャはギルドのクエストカウンターで受付嬢とそんな会話をしていた。確かに俺とサーシャはゴブリン討伐から、着実にクエストをこなし、レベルが20まで上がっていた。しかも俺はスピーカーという強力な魔道具も出せるということでナディアではちょっと有名になっていた。そんなことを振り返っているとサーシャが怒り心頭でこんなことを言った。


 「ご一緒にって、何よその私がおまけみたいな言い方は!」


 「おい、落ち着けって」


 今にもカウンターに足を乗り出しそうなサーシャを俺は必死で抑える。苦笑いしている受付嬢は話を続ける。


 「もちろん、報酬も出ますので」


 受付嬢は1枚の紙を俺達に見せた。


 「え、ええええええええええ!!」


 俺とサーシャは口を揃えて声を上げた。それは今まで受けたクエスト報酬の何十、いや、何百倍もの金額だった。


 「ちょっと考えさせ・・・・・・」


 「受けるわ、この護衛任務!!」


 「おいサーシャ、もう少し相談して・・・・・・」


 「私、欲しい剣があるのよ!」


 サーシャは目を輝かせて俺の顔を見る。まあ確かにあれだけの報酬が出れば、生活には困らないし、サーシャもいろいろ欲しいものがあるんだろう。俺達は王の護衛を受けることにした。ナディア管理局にきた。管理局の門は厳重に警備されていた。俺は門番に


 「あのー、ギルドから王の護衛を依頼された者なんですけど」


 と言った。すると、その返事は俺ではなく、サーシャに返ってきた。


 「お待ちしておりました、剣士様。さあ、中へどうぞ。おい、そこの従者もだ。早く入れ」


 (え、従者?)


 「さあ、行くわよ従者」


 「従者」


 サーシャとkamiは笑いをこらえながら、俺のことをそう呼んだ。


 「誰が従者だ!」


 と怒りたいところだが、この世界では見たことないファッションではそう見られるのは仕方がない。俺は終始笑いをこらえているサーシャの後をついて王がいる客室まで行った。中に入ると、奥の椅子に立派な髭を生やしたおっさんが座っている。すると、サーシャはおっさんの前に立て膝をついた。慌てて俺も立て膝をつく。そしてサーシャが


 「ギルドから護衛の命を受け参上致しました、サーシャです。こちらは従者の下級魔術士のカルマでございます」

 (下級?この女、後で覚えてろよ!)


 するとおっさんは重い腰を上げ、口を開いた。


 「いやー、遠くまでご苦労様!疲れたでしょ、ほら座って、お茶飲む?」


 王様ってのは威張り散らしているもんかと思っていたが、なんだかイメージと違うな。という訳で、俺達はお茶をご馳走になり、その後王様と一緒にナディアの街に買い物に出かけた。もちろん、荷物持ちは従者の俺である。そんなこんなですっかり夜になってしまった。夕食はとある酒場を貸しきって食べることになった。王様の側近とサーシャが楽しく飲んでいるところから、少し離れたカウンターで俺は独り寂しく飲んでいた。


 「今日は散々な1日だったなぁ」


 そんなことを呟いていると、酔っ払った王様が俺の隣に座った。


 「従者くーん、聞いてくれよ。私はダメな王様だ。妻には愛想をつかれるし、娘は国を出て行くし……」


 「へ、へぇ。そうなんですか……」


 (このおっさん、酔っぱらうとめんどくさいな)


 そんなことを思っていると、王様は俺を無視して話を続けた。


 「実は、この街の視察は公務の一環だと言ったが、本当は家出した娘を探すためなんだよー。ああエリナーー!!従者君なんとかしてー」


 「ちょっと抱きつかないで下さいよ、ていうか酒臭っ!」


 俺は抱きついている王様を剥がそうとする。すると、kamiが


 「カルマ、お楽しみのところ悪いけど、後ろを見てご覧」


 「楽しんでないわ!え?後ろ?」


 俺と王様は丁度出口が見えるところに座っていたが、出口を見るが、誰もいない。しかし、次の瞬間、何か光るものがこちらに飛んで来た。


 (まずい、弓矢だ!)


 「王様伏せて!」


 とっさの判断で俺は王様の頭を伏せた。弓矢はカウンターに置いてあったお酒に当たり、グラスは見事に割れた。俺は酒場の外に出て、弓矢を放った刺客を探した。するとボウガンを持ったボロマントを着た奴を見つけ、俺はそいつを追いかけた。




 そして現在に至る。


 「ちょっとカルマ、大丈夫?!」


 「ああ、なんとか……刺客は?」


 「逃げられたわ、エンドルハン王は守衛と一緒に管理局に帰ったわ。今日はそこで寝るそうよ」


 「そうか、しかしあの女何者なんだ?」


 「ああ、サーシャにはないあの感触間違いない。刺客は女だ」


 「感触?私にはない?あんたどこ触った……あんたまさか!」


 そう言うと何かに気付いたサーシャは、自分の胸を見て顔を赤らめ、


 「この変態!!」


 と叫んで俺の顔を殴った。


 「こ、これで、さ、3発目……」


 俺はその場に倒れた。




 その頃、ナディアの近く、とある盗賊のアジトで男女が会話している。


 「エリナ、しくじったな」


 男が立て膝をついている女に言う。


 「申し訳ございません!敵は何やら見たこともない魔術を使うため、撤退せざるを得ませんでした」


 「見たことない魔術か、面白い。ではエンドルハン王の前に、その魔術士を殺せ」


 「はっ、ザイク様の仰せのままに」


 女は男の命令を受けると、アジトを出て行った。


 「エンドルハン王よ、お前が破滅する時は近い」


 男はそう言うと、不適か笑みを浮かべた。



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