「はい、学生証。」

「はいよ、確かに、学割で100円、雨の日割引で100円、合計200円引きね。」

　ヒメちゃんが今日の戦利品を購入したようです。

「しっかし、おまえすごい名前してるよな。大伽藍緋梅（だいがらんひめ）って。」

「いや、親に言ってくれよ。正直ちょっと恥ずかしいんだ。」

「そんなことないよ！ヒメちゃんの名前はかっこいいよ！必殺技みたいで！」

「それが嫌なんだが！？」

「ヒメは何買ったの？」

「ああ、anbbの"Mimikry"っていうアルバムだ。グリッチで有名な電子音楽家のAlva NotoことCarsten Nicolaiとインダストリアルの代表的なバンドEinstürzende NeubautenのボーカルBlixa Bargeldのデュオ。二人の頭文字でanbb。」

「ねえねえ、流してもらわない？」

「おいおい、うちはガキのたまり場じゃねえぞ。まあいいけどよ。くつろぐなら店の外の缶コーヒーでも買ってくれ。あ、商品にこぼすんじゃねえぞ！」

　四人で缶コーヒーを買って音楽を流してもらいました。Alva Notoによるクリアで動作不良を思わせる様な電子音。引き絞るような叫びのような音、Blixa Bargeldのポエトリー。

「いいね～！自分、Alva Noto結構好きだからオケが気に入った！」

「音は完全にAlva Notoの仕事なのになんだか寄せてる感じがするな、そこにBlixa Bargeldが歌うとEinstürzende Neubautenに聴こえてくる不思議がある。こりゃいいぞ！この"Ret Marut Handshake"がシングル・カットされた楽曲だったかな。」

「しかしおまえは若いのに趣味がシブいよな。エクスペリメンタルが好きなんだっけ？」

「ヒメちゃんは不思議ちゃんなんだよ！部屋にマーダーケースブックのバックナンバーが揃ってるの！」

「それは不思議ちゃんとは言わんだろ！すげえガキだな、ユルグ・ブットゲライトのVHSとか持ってんじゃないの？」

「う、ネクロマンティックのVHSなら持ってるが……。わ、悪いか！」

　ヒメちゃんは顔を赤らめています。

「いや、悪くはねえよ……。すげえ趣味だなぁと思ってよ。」

「もう、恥ずかしい……。」

　ヒメちゃんがなんだかかわいいです。

☆　☆　☆

anbb - Mimikry - 2010

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