21枚目 けんか

「だってわかんないもん!」


「バカかよ!ぜんぜん違うわい!トラックメーカーとラッパーは全然違うだろ!」


「バカって言ったほうがバカなんだよ!違いなんて些細なものじゃん!」


「はあ!?もういい!お前とは話す気になれねえ!帰る!」


 そう言って肩を怒らせながらケイちゃんは教室を出て行ってしまいました。


「おお~い、テンコ、今ケイがすごい形相で出てったけどどうしたんだ?」


「……喧嘩した。」


「あらまあ、原因はなんなの?」


「MF DoomとMadlibって同じ人だと思ってたって言ったの。」


「え、思ったよりも下らないな!」


「でもケイちゃんがすごい怒ったの!こんなので怒るむこうが悪いと思わない!?」


「でもね、テンコだってOasisとBlurが同じって言われたら、怒るでしょう?」


「え、だってOasisとBlurは違うもん……。」


「でしょう、ケイにとっても同じことなのよ。」


 私はそう言われたときのことを想像して、気持ちがモヤモヤと乱れるのを感じました。


「う、うう……。うわ~ん!どうしよう私酷いこと言っちゃった~!」


「いや、まあそこまで酷いことじゃないとは思うが……。」


「明日ちゃんと謝ったら良いと思うわ。」


「うう、うん……、そうする……。」


「今日は私が持ってきた音楽を一緒に聴きながら帰りましょう。」


 流れたのはかわいらしいガールズ・ガレージ・ロック。でも言葉は聴き慣れない言葉でした。それがまたキュートさを引き立てています。


「あ、あたしが貸したやつじゃないか。Dara Puspitaの"1966-1968"。」


「そうインドネシアのガールズガレージバンドなのよ。かわいいわよね。」


「うう、この"Pip Pip Yeah"って曲、かわいいよぉ~。サトちゃんはわかるけれど、なんでヒメちゃんが?」


「あたしの好きなアーティストが主催してるレーベルでSublime Frequenciesっていうのがあるんだけど、これはそこからのリリースなんだよ。」


 二人が選んでくれた元気いっぱいの異国のガールズポップに慰められながら帰ったのでした。


☆ ☆ ☆


Dara Puspita - 1966-1968 - 2010

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