第35話ソフィアとの出会い

翌日、俺は入学試験を受けるため、父さんから借りた馬車に必要な荷物を乗せてハワード領を出発した。

 馬車の御者は俺の専属メイドであるマーサさんがやってくれることになった。護衛も十数人ついている。


 マーサさんは魔法、剣術をはじめ、たくさんのことができる。ゆうにメイドの範疇を超えている。

 試しにどうしたらそんなことができるのか、と聞いてみたところ、


『アルバート様のことを思えば何事もできます』


 と返ってきた。


 異世界ってすごいよね。思うだけで何事もできるなんて。



 


 出発する時、俺とマーサさんを家族総出で見送ってくれた。本当にいい家族だ。大切にしなければならないな。


 王都につけば王都の屋敷に行こう。ジェシカ姉さんがいろんな意味で心配だ。マーク兄さんは大丈夫だろう。母さんにも会いたいしね。


 そんなことを思いながら俺は馬車の中から外の風景を楽しんでいた。


 5年前は楽しむどころではなかったからね。







 いくつかの主要都市を通り過ぎ、王都まで残り3日となった。


 

 しばらくすると、少し眠くなってきた。1週間も馬車に乗っていたら疲れるのだろう。馬車の中は一人で何もする事がない。寝るとするか。


「マーサさん。眠くなってきたからか寝るよ。何かあったら馬車止めて僕を呼んでくれないかな?」


「分かりました、アルバート様。何かありましたらそうさせてもらいます。どうぞおやすみになってください」


 その声を聞いてから俺は眠りについた。








「アルバート様! アルバート様! 起きてください!」


 誰かが俺を呼んでいる。でもごめんまだ眠いんだ。


 ん? 眠い? 


 そこで俺の意識は覚醒した。


「どうしたのマーサさん!」


「やっと起きられましたか。あ、そんなことよりアレを見て下さい」


 マーサさんは俺へ見る方向を指す。


「なんだアレは?」


 馬車から降り俺は見た。


「魔物達がどこの貴族かは分かりませんが先行している馬車を襲っています」


「なんだ? あの魔物達はは?」


「恐らく、レッドボアかと」


 猪みたいな体格の魔物だ。しかし猪よりも何倍も大きい。そんな魔物が何体もいる。数えたところ10体はゆうにいる。俺が5年前、屋台で食べたものだ。まさかこんなものを食べていたなんて思いもしなかった。


「どうして街道に魔物が?」


「近くに常闇の森より大きいレーン大森林があります。恐らくそこから餌を求めて大森林を抜け出してきたのではないでしょうか?」


「こうしちゃいられない! 僕はあの馬車を助けに行く!」


「お待ち下さい! 私も………」


 俺はすぐに飛び出し、マーサさんの声は聞こえなくなった。


 靴に風魔法を施し、踏み出すと同時に俺は加速した。そうやって何回も走るとすぐに襲われている馬車に辿り着いた。


 襲われている馬車の護衛が必死に抵抗を試みているがかなり押されている。このままでは時間の問題だ。


「加勢します!」


 俺はそういうと同時に水魔法『ウォーターカッター』をレッドボアの首目がけて放った。俺の魔法によりレッドボアの首と胴体は永遠の別れを告げた。


 よし、これで一体。まだまだこれからだ。俺のレベルアップにもこいつらには踏み台になってもらわないとな。


 食材になることも考えて最小の傷で仕留めなければならない。



『最近どうして呼んでくれないの?』


「あ、アクア?」


 頭にアクアの声が響いてきた。


「ご、ごめん。疲れてたかなーと思って……」


 嘘です。普通に忘れてました。主人としてあるまじき行為です。


『私があの魔物達を倒したいの』


「分かったよ。じゃあ後はよろしく」


 そう言った後俺は唱える。


『召喚!』


 俺のその言葉と同時に大精霊ウンディーネが眩しい光と共にこの世に顕現した。


 相変わらず神秘的だ。


「頼んだよアクア」


『任せてなの!』


 



 そうして数秒後、レッドボアの首と胴体はアクアの手によって永遠の別れを告げた。


 やっぱり、怖いです、アクアさん。


 


 そんなことでレッドボア倒したし、馬車に帰るとしますか。お肉は襲われた貴族様に渡せばいいだろう。さすがにみんなの前でアイテムボックスを使ったらなんか言われそうだし。



 そうして俺は馬車に帰ろうとした。


「あの、あなた様はいったい……」


 前の貴族様の男の護衛らしき人が俺に声をかけてきた。


「ハワード侯爵家が四男、アルバート=フォン=ハワードと申します。あなたは?」


「は、はい! 私はレーデンベルク公爵家の次女であるソフィア様の護衛を務めております、ラルフと申します。先程は助けていただきありがとうございます。もうダメかと思っていたのですがあなたとそちらの……」


「ああ、こちらは僕の契約精霊のアクアです」


 アクアは俺の声を聞いてお辞儀をする。いい子だ。


「あ、あの失礼ですがお年は……」


「僕は今年で10歳となります」


「10歳!? そのお年でもう契約精霊がいるとはすごいとしか言い表せませんな」


 やっぱりすごいらしい。しっかりチート生活してると改めて実感した。


「ところで公爵家のソフィア様はどうしてこんなところに?」


「ああ、そうでしたね。実は1週間後の入学試験に向けて早めに王都に行こうかと考えておりましたがこの有様です」


 ラルフさんが見た方向をよく見ると馬車の車軸が折れていた。


 先程の襲撃のせいだろう。


「よければ僕達の馬車に乗りませんか? 公爵様のように高価な馬車ではありませんが、乗り心地は確かなものです。僕達も入学試験に向けて王都へ行くつもりでしたので」


「本当ですか? ではソフィア様に確認をとってきますのでしばらくお待ちいただけないでしょうか?」


「構いませんよ」


 俺は笑顔でラルフさんにそう言った。


 数分後、公爵家の馬車から1人の少女が降りてきた。


 白銀の髪が特徴的で、とても可愛らしい顔をしていた。



*10歳の健全な意見です。ご理解ください。可愛いんです。


「はじめまして、レーデンベルク公爵家が次女、ソフィア=フォン=レーデンベルクと申します。先程は助けていただきありがとうございます。よろしければそちらの馬車に乗らせて下さいませんか?」


 可愛いは正義。是非! などと言えるはずもなく、俺は


「ええ、もちろんです。さ、こちらへ」


 そう言って馬車の中に案内する。


 はじめて同年代の子と知り合った。


 ラルフさんをはじめ公爵家の護衛と俺の護衛は合同でこの馬車を護衛することとなった。


 車軸が折れた公爵家の馬車は後で俺がアイテムボックスの中に収納することに決めた。心の中で。


 そうして俺たち一同は王都へ向け、再出発した。






 のはいいのだが、先程からソフィアが俺の腕に手を回して体を近づけてくる。


 いい匂いがする。これが女の子の匂いか……。


*10歳の健全な意見です。ご了承下さい。


「どうされましたか、ソフィアさん」


「……タメ口でいいです。同い年ですし」


 そう言われると仕方ないよね。


「さっきからどうしたんだ?」


「あの魔物が怖かったんです」


 なるほど、それで俺にひっついているのか。


「俺の名前はアルでいいよ。もう魔物は倒したし大丈夫だよ。何かあってもずっと守ってあげるから」


 そう言った途端、ソフィアの顔が紅く染まった。


「……アル。ありがとう」



 それから会話は同年代ということもありはずんだ。





 それから3日後、俺たち一同は王都へ到着した。

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