第34話実は親戚だった

ギルドを出た後、俺は屋敷に戻った。


 その日の夕食で今日体験したことを家族に話すことにした。


 実は5年前からテーブルを囲む顔触れが変わった。


 1番上の兄さんであるオリバー兄さんと2番目の兄さんであるエドガー兄さんにお嫁さんができたのだ。

 この世界では15歳で成人する。


 オリバー兄さんのお嫁さんは伯爵令嬢のシャル=アームストロング。

 エドガー兄さんのお嫁さんはリリーお姉さん。

 オリバー兄さんとシャルさんは貴族同士のお見合いで出会ったとか。長男は当主の後継者なので結婚式はかなり盛大に行ったことを今でも鮮明に覚えている。

 エドガー兄さんとリリーお姉さんは学園からの付き合い。5年前、俺が裏路地で助けた女の人だ。

 あの後、付き合い始めてそのままゴールインなのだそうだ。


 この家の後継者であるオリバー兄さんは毎日父上と行動を共にして領地経営の勉強をしている。

 エドガー兄さんは本来なら次男なので家を出て行かなければならないが、ハワード領の防衛を担う防衛責任者という役職を父さんから与えられたのでこの家に住んでいる。

 

 2組とも幸せな生活を送っている。


 三男のマーク兄さんと長女のジェシカ姉さんは現在王都の王立フォルトナンセ学園に在学しているため、王都にいる。第二婦人のスーザン母さんも同じく王都にいる。


「アル、冒険者となって初日だが、何か仕事はやってきたのか?」


「はい。なりたてなので戦闘クエストとかではなく、薬草を採取する採取クエストをしてきました」


「薬草か。というと常闇の森まで行ってきたのか?」


 え? 父さんは薬草のある場所とか分かってたんだ。なんか悔しい。


「あ、はい。薬草の見分け方などを『炎帝』のボルティ=アームストロングさんに教えてもらったんです」


「お、お兄様に!?」


 食事の手を止めてそう、声を上げたのはオリバー兄さんのお嫁さんであるシャルさんだった。


「お兄様とは一体どういう……」


「『炎帝』ボルティ=アームストロングはアームストロング家の次男で私のお兄様です。恐らく女の人が2人いたのではないのでしょうか?」


 そう言われ思い返してみると、いたな。


「スーシーさんとアンジーさんでしょうか?」


「ええ、そうです。あの3人は夫婦で冒険者をしていて、地方を転々としているのです」


「まさか、はじめてのクエストで親戚と出会うとは思いませんでした」


「元気にしておられたのなら良かったです」


「ははっ、やはりアルは縁にも恵まれておるな」


「そ、そうでしょうか?」


 そう言ったけど、たしかに恵まれてるよね。神様にも、精霊にも、そして能力にも。


 後一つだけ恵まれたいとすれば彼女!!!


 そう、俺には幼馴染などがいないのだ。


「そうだ、アル。今から2週間後に王都で入学試験だが用意はしているのか?」


「ええ、もうできております」


 そう、俺はもうすぐ王立フォルトナンセ学園の入学試験を受けるのだ。


 そして合格する。いや、始まる前から合格は決まっている。ブレット師匠にみっちりと教えられたからだ。屋敷内の魔法に関する本もほとんど理解している。

 受験勉強はとうの昔に終わっているのだ。


「余裕を持って早めに出ると良い。5年前のように過酷な7日間は嫌であろう?」


「あはは……そんなのもありましたね」


 10日の距離を7日で走破した時は本当にキツかった。


「それでは余裕を持って明日にでも出ようと思うのですが……」


 そこで一旦止め、父さんを見る。


「どうした、言ってみよ」


「馬車をお貸しいただけませんか?」


「なんだ、そんな事か。良いぞ」


「ありがとうございます!」


 作戦大成功だ。


 そんな事で俺は明日王都へ向かうこととなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る