第33話初報酬

『炎帝』の人達と別れた後、俺は教えてもらった通り常闇の森に入った。


 森の中に入った瞬間、空気が変わった。魔力の濃度が濃くなったのだ。


 魔物の発生要因は大きく分けて二つある。


 一つは人間と同じように子を作り、集落を作るゴブリンやオークの繁殖型。

 ゴブリンというのは人型で幼い子供程度の背丈の緑の肌をした魔物。

 オークというのは二足歩行をし、豚が大きくなったような魔物。

 2種の魔物は人より知性がないが繁殖力が高く数が多い。


 『ゴブリン1匹見たら100匹いると思え』

と本には書いてあった。


 そしてもう一つは、魔力が淀んだ場所では魔物が自然発生する自然発生型。なぜ自然発生するのかは分かっていない。だが一つだけわかっていることは自然発生した魔物は繁殖型の魔物より強いということだ。


 そして話を戻すと、この常闇の森は前者と後者の両方の性質を持っている森なのだ。


 前者は森の外周部に生息しており、深く森へ入っていくと後者が生息しているらしい。


 俺はボルティさんに教えてもらった薬草の見つけるポイントを思い返しながら地面を見渡し、しばらく歩いていた。


 すると、ボルティさんの説明に合致する物を発見した。


 薬草である。


 しかも、群生地で辺り一帯は薬草だらけだった。


 薬草は見つけはしたが、今思うと薬草採取の仕方を教えてもらった覚えはなかった。


 採取の仕方は屋敷の本には書いておらず俺の頭にはその方法がない。


 恐らくだが、根っこまで取ってしまうと次に生える薬草がなくなってしまう。根っこを残して切ることで薬草を採取し続けられると思った。


 思い立ったら即行動。


 俺は水魔法『アクアカッター』を使い、地面から上に出た薬草の部分をきれいに切断した。


「あ、切りすぎた……」


 ん? いや待てよ。確か俺ってアイテムボックスがあったよな?


『アイテムボックス』


 俺は試しに呟いた。


 すると空間が歪み、やがて小さな穴ができた。


 ここに入れれば収納できるということだろう。


 試しに俺は切った薬草一本を空中にできた穴に入れた。


 すると穴の中に入り、出てくることはなかった。俺は穴の中に手を入れるが薬草は掴めなかった。

 そこで俺は薬草が欲しいと考え、穴の中に手を入れた。すると何かを掴めた。穴から手を出し確認すると、俺の手には穴に入れた薬草があった。


 俺は某国民的人気アニメのようなものだと思った。


 他にも色々と調べたいことはあるが、先にクエストを完遂し、薬草を届けなければならない。


 そこで俺は残りのほぼ全ての薬草をアイテムボックスの中に入れた。


 残した少ない方の薬草を手に持った後、俺は水球を作りそこに切った茎を入れる。これで鮮度は保たれるだろう。水球を常時維持しながら俺はギルドへ向かうため、常闇の森から帰り始めた。






 数時間後、俺はギルドについた。


 さすがに街に入るときに水球は解除している。


 ギルドの扉を開けて、受付を見るとそこにはララーナさんがいた。ギルドには受付のララーナさんしかおらず俺は目があったので


「ララーナさん! 薬草採取してきました!」


 俺はそういった。


「おかえりなさいませ。薬草採取してきたとは?」


 多分、薬草採取なんて新人冒険者にできるわけがないと思っているのだろう。

 しかし、俺はAランク第2位階の冒険者である、ボルティさん達に教えてもらったから問題はないはず。


「ええ、コレです」


 そう言って俺は、手に持っていた薬草をララーナさん渡す。


「ほ、本当に薬草ですね……。正直驚いています。私は何も教えていないのに……」


「あ、それはですね、『炎帝』のボルティさんに教えてもらったんです」


「ぼ、ボルティ……ボルティ!?」


 なんか急に大きな声になったのだが俺何か悪い事を言ってしまったのだろうか?


「ボルティ=アームストロング。彼は今現在、この街で1番冒険者ランクが高い人の一人です。まさかあの人が……。新人冒険者に冒険者について教えるなんて考えられません」


「え? ボルティさんはいい人ですよ?」


「ええ。それはそうなのですが、あまり冒険者に興味はない人だと思っていたのですが、どうやらあなたは好かれているようですね」


 そ、そうかな? 別に何もしてないんだけど。


「そ、そうでしょうか? でも、嫌われてはいないことは分かります」


 おにぎりくれたからいい人だと思う。


「あ、申し訳ありません。薬草の採取クエストでしたね。この薬草は切断面も綺麗に切れています。しかしなぜこんなにも鮮度がいいのでしょう? 普通は少ししなっているのですが……」


「茎に水を浸して、鮮度を保っていたのですが、ダメでしたでしょうか?」


「い、いえ。完璧です。アルさんには驚くばかりですよ。こんな新人冒険者は初めてです」


 おっ、俺の名前覚えられてる。


「ありがとうございます。それでクエストは完了したのでしょうか?」


「ええ、大丈夫ですよ。ギルドカードを貸してください。今回のクエスト記録をカードに保存します」


 え、そんなことできるの? なんだかICカードみたいだな。本にはそんな説明は書いてなかった。


 やはり見て学ぶのも大切だな。


 俺はギルドカードを渡し、クエスト記録を保存してもらった。


「クエスト報酬の件ですが、今回はクエスト完了で銀貨8枚、保存状態が良いので銀貨2枚。合わせて金貨1枚となります」


 銀貨一枚が1000円だから、10000円か。時給換算したら、あまり現代日本と変わらない。


「金貨1枚は受け取られますか? それともギルドカードに保存しておきましょうか?」


 なるほど、銀行のようなこともできるのか。さすが異世界。なんでもありだな。


「はじめての報酬なので受け取ってもいいですか?」


「ええ、構いませんよ。どうぞ金貨1枚です」


「ありがとうございます」


 そうして俺はララーナさんから金貨を受け取った後、ギルドを後にした。 

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