第32話 高ランク冒険者
俺はギルドから出た後、ふと思った。
薬草の生えてる場所教えてもらってない、と。
どうやらギルドの方針は自分でやってください的な、いわゆる放任主義の姿勢だと分かった。
でも、薬草の生えてる場所くらい教えてくれてもいいのではないだろうか?
まあ、新人冒険者の俺は地道に実績を積み上げていくことしかできないのだが……。
屋敷の書庫にある本曰く、薬草は湿ったところに群生していると書いてあった。湿ったところといえば陰になっていることが多い。
俺はそう予想して常闇の森がある方向の北門を目指した。
俺は新しく貰ったギルドカードを門番に見せた。
「君、どこかで見たことがあるような……」
「き、気のせいですよ。それより通してもらえますか?」
「あ、ああ。何も問題ない。通ってくれ」
「ありがとうございます」
危うく俺の正体がバレるところだった。服装は一般の冒険者の服を父さんに頼んで用意してもらったので大丈夫だが、5歳の時に一度大魔法使ってるから、あの時俺を見た兵士や冒険者は俺の顔を知っている。
身分とか関係なく冒険者をやりたいからここでバレては後の行動に影響してしまう。
ハワード領に魔物が押し寄せて来てからおよそ5年。
街を防衛するための堀や土塁はなくなり、焼け焦げた草木は息を吹き返し、以前以上に緑あふれていた。
常闇の森の生態系も回復したようで、今現在もたくさんの冒険者達が森に訪れては魔物を狩っている。
まあ、さすがに森の中までいかなければ大丈夫だろう。
そんな事を考えながら俺は常闇の森に向かった。
数時間後、常闇の森に着いた。
辺りにはポツポツと冒険者がいた。
俺は薬草の形などあまり分からないので、近くにいた3人組の冒険者パーティーと見られる人達に聞いてみることにした。
「あの、すみません。今よろしいでしょうか?」
「ん、いいぞ。ちょうど今から昼休憩するところだ。お前も一緒に食え」
そう答えたのは服の上からでも分かる筋肉を有した少しイカツイ男性だった。
「ちょっと良いんですか? こんな子の相手して……」
「そうですよ! それではあなたの立場が……」
「良いと言ったら良いんだよ! お前らは黙ってろ!」
「「は、はひっ!!!」」
どうやらリーダーはイカツイ男性のようだ。
「あの、お邪魔だったら他を当たりますが……」
「良いと言ったらいい。男に二言はない。小僧、ここに座れ」
「それではお言葉に甘えて。失礼します」
そう言って俺は男性に言われたところにゆっくりと腰を下ろした。
すると、男性がおにぎりを手渡してくれた。
「食え。食いながら話そう」
男性の言う通りに、俺はおにぎりを一口食べた後、聞きたい事を聞くことにした。
「あの、それで聞きたいことなんですけど、薬草ってどんな形のものか教えていただけませんか?」
「ん? お前、新人冒険者か……。確かに冒険者の服装はしているが、装備がないな」
「ええ、これからクエストを達成して貯めたお金で装備を買うつもりです」
「そうか、それはいい。自分で買ったものは大事にしたくなるものだからな。して、なぜここに来た?」
「あ、はい。湿っているところに薬草が生えている、と言う知識がありまして、影になっている常闇の森なら生えているのかなと思ったのですが、違いましたか?」
「いや、合っている。素晴らしい洞察力だ」
「あ、ありがとうございます。それで薬草の形はどのようなものでしょうか?」
「薬草は雑草と少し見分けがつきにくい。薬草の特徴は葉が少し横に広い。それに対して雑草は細い。森を少し入ると群生地が広がっている」
「教えていただきありがとうございます。あの、お礼がしたいのですが……」
「お前が高ランクの冒険者になること。それが俺への恩返しだ」
何この人、チョーかっこいいんだが?
しかしこんな事を平気でサラッと言える人って一体どんな人なんだろう?
「あの、失礼ですがお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「いいだろう。俺はAランク第2位階、『炎帝』ボルティ=アームストロングだ」
「同じくAランク第2位階、スーシー=フォルティスです」
「同じくAランク第2位階、アンジー=レクスティアです」
思っていたよりも高ランクの冒険者だった。そんな人たちの話を聞けたなんて本当に良かった。炎帝とはパーティー名のことだろう。火魔法が得意なのかな?
ボルティさんがリーダーでスーシーさんとアンジーさんがメンバーということか。
「す、すごいですね。あっ! 僕の名前はアルです!」
「そうか、アル。早く立派な冒険者になれよ」
小僧呼ばわりから名前で呼んでもらえるまで成長したのはいいことだ。
「ええ、もちろんです。それでは僕はこれで」
そうして俺は『炎帝』の人達と別れて、薬草を探しに常闇の森に入っていった。
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