第二十九章

飯島一矢は智香の声に素直に反応した。彼の背中に稲妻が襲い掛かる寸前に、闇に一矢は消えた。

(良かった)

と智香は安堵した。一矢が自分の声を疑わずに、信じてくれたのが、彼女は嬉しかった。

「チィィ!」

洋蔵は智香に怒りをあらわにした。閃光が再び智香に走った。

「フン」

智香は洋蔵の怒りが自分に向けられると読んでいた。でも、洋蔵の次の動きを察知したのはいいが、彼女にはどう動けばいいのか判断出来なかった。闘う武器が無かったのだ。

「先生、もう・・・だめ!」

智香の体は固まってしまい、手足さえ動かせなかった。

「アァァ・・・」

この時、白く閃光が細い線を描き、闇の中を走った。

「チィッ、またか!」

洋蔵が狼狽している。


稲妻の閃光は確実に智香を狙ったのだが、彼女から離れた地点に着弾した。洋蔵の意志が狂ったのか?智香は洋蔵を見返す。

洋蔵の頬に泥臭くて赤い血が滲んでいた。

「誰だ?」

洋蔵の目は正確にそれをとらえた。

智香もとらえた。

「ラン!」

智香は絶叫した。ランが智香を助けたのだ。

「お前は鬼神か!軟な鬼神だな。お前は、やはり・・・間違いないな」

洋蔵は頬に滲んだ血を手の甲でぬぐって、智香を睨んで、にやりと不気味な笑いをした。

「ラン。止めて。もう、いいから。さがっておいで」

智香はランに命令した。普段、白い友だちのみんなに命令なんてしない。ランがこのような行動をするなんて考えたことがなかった。

ランは次の行動に映っていた。ランは闇の中で凄い速さで旋回し始めた。いつもぎこちない足取りで歩いていたランからは想像できない。そして、ランは何かのエネルギーを持った白い塊りになり、闇の空間を生きもののように動いていた。

「クゥ、面白い」

智香は、この時、闇の空間の彼方からざわめきが聞こえて来た。何かが・・・誰かが、ここにやって来る!

「何?」

智香は闇の空間を見回したが、何もいなかった。

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