第49話 突撃

 南高に通う中学時代の友人に時間割を横流ししてもらった結果、南高の下校がうちよりも遅いのは水曜日だけだということがわかった。それ以外の曜日だと、どうやったって間に合わない。

 その子自身は安達朔也とは面識がないらしいので、さすがに仲介は頼めなかった。

 そんなわけで玲奈はひとり、南高こと南辻戸田高校の前にやってきている。


 普段のポニーテールは葵直伝の「抜け感ゆるふわポニー」にセットし直し、リボンは鎖骨が見えるくらいに引っ張り下ろした。

 スカートもウエストのところでくるりと折って調整したので、今はしっかり膝上丈になっている──それなりに擬態はできたと信じたい。あとはちゃんと、お目当ての人物を見つけられるかどうかだ。

(大丈夫、アルバムでわかったんだから。本物だってわかるはず)

 そんなふうに自分に言い聞かせながら、校門から出てくる生徒の顔をひとりひとり確認していく。

 と、何かのタイミングが重なったのか、出てくる生徒の数が一気に増えた。手に負えないので、とりあえず背格好の似た男子に絞ってチェックしていく。

(──あっ!)

 間違いない、何人かで固まっている男子集団の中に安達朔也が見えた。その突端、心臓がバクバクと不穏な暴れ方を始める。

(どうしよう、今ならまだ……)

 急に、回れ右して立ち去ってしまいたい衝動に駆られた。実際、今ならまだ間に合う。まだ話しかけてもいないのだから。でも今ここで逃げ帰ってしまったら、いったい何のためにここまで来たのだろう?

 玲奈の頭の中でそんな逡巡が繰り広げられていた時だった。

「──あ」

 一人が玲奈に気づいたらしい。いや、「一人」ではない──安達朔也本人だ。ばっちり目が合ってしまったのだから間違いない。もう後戻りはできなかった。

「……ちょっと話があるんだけど」

 驚いて表情を硬くしている朔也に歩み寄りながら、努めて明るい声で言う。よかった。ちゃんと声も出た。

「ねえ、ちょっと安達くん、借りてっていい?」

 周りにいた、彼の友人らしい男子たちにそう断りを入れる。わざとらしくない程度に上目づかいで微笑むと、なんとなくウケた感触があった。そうか──世の女子たちはみんなこうやってるのか。

「お前、他校の彼女ってホントだったのかよ!」

「紹介しろよー」

 友人たちからそう詰め寄られる朔也を、玲奈は無言の笑顔で見守る。

「いや、これは違っ……」

 もちろん玲奈は彼の「彼女」ではない。けれど訂正すると余計な時間を食いそうなので黙っているだけだ。それでも面倒になってきたので、玲奈は朔也の腕をつかみ引っ張った。

「ごめんね! ちょっと急ぎなの!」

 そう言って微笑み、校門から少し離れる。抵抗されるかと思ったけれど、朔也は案外すんなりとついてきた。

 校門近くにいると目立つので、とりあえず来るときに前を通ったファーストフード店に引っ張り込むことにする。

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