第27話 事件
(ふう、終わったー!)
ぱたん、と軽やかな音を立てて、玲奈は学級日誌を閉じた。一カ月に一回あるかないかの頻度で日直が回ってくる。
この日誌を職員室にいる担任の先生のところに届ければ、今日の日直の仕事はすべて完了だった。玲奈は荷物をまとめ始める。
「──すいません」
そんな声が聞こえたような気がして顔を上げると、教室の入り口から一人の男子生徒がこちらを伺っていた。一年生だろうか。メガネをかけたおとなしそうな男の子だ。
なんだろう、と思いながら玲奈は彼に歩み寄る。
「すいません、生徒会長の……佐々木さん、ですか?」
男の子はやはり一年生だった。意外だったのは、どうやら玲奈に用事があったらしいということだ。
「そうだけど、何か用事?」
玲奈が尋ねると、彼は一瞬迷うような表情を見せた。が、すぐにすっと表情を引っ込める。
「あの、佐々木さんを呼んできてほしいと言われて」
玲奈は無意識に目を細めた。今度はいったい何の呼び出しだろう。
玲奈と面識のないこの一年生はおそらく使い走りだろうから、呼んでいるのは上級生とみて間違いないと思う。
「誰が、何の用で呼んでるの?」
ため息を押し殺しながら尋ねる。が、彼は困った顔をするばかりだ。
「すいません、わからないです」
「……『わからない』?」
どういうことだろう。用件がわからないのはまだしも、自分に玲奈を呼んでくるよう言いつけた相手がわからないというのはあまりにも不自然だ。
けれど、何かを隠そうとしているわけではないように見える。
「……どこに行けばいいの?」
諦めて玲奈が言うと、彼は「こっちです」と先に立って廊下を進み始めた。
連れてこられたのはボックス街だった。部活の開始時刻からしばらく経っているので、周囲に人影はほとんどない。体育館やグラウンドがにぎやかなのとは対照的に、ボックス街は静かだった。
「あっ、あのっ! 佐々木さんを連れてきました!」
突然、玲奈を呼びに来た一年生が声を張り上げた。どうやら、彼にも玲奈を呼び出した人間がどこにいるのかわかっていないらしい。
いくらなんでもこれはおかしい。詳しく話を聞こうと口を開きかけた時、背後で何かが落ちるような物音がした。
「──?」
振り返ると、そこには一組の靴が転がっていた。それを目にするや否や、彼は慌てて靴を拾い上げる。
そしてくるりと玲奈の方を振り向き、「ごめんなさい!」と頭を下げた。
「え!? なんなの!?」
玲奈は思わず声を上げる。けれど彼はそのまま一目散に走り去ってしまった。
いったい何だったのだろう。わけがわからず呆然としていた時だった。
「──っ!?」
誰かが後ろから首を絞めてきた。やばい、と思うがものすごい力で振りほどけない。だんだんと、手にも力が入らなくなってきた。
「……だから忠告したのに」
遠のいていく意識の中、どこかで聞いたような声が耳に響いた。
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