第1話 冴えない生徒会長

「──あ、生徒会長だ」

 少し離れたところでそんな声がして、玲奈は思わず振り返った。

 と、そこには妙に整った顔立ちの男子生徒が立っている。いや、むしろかなりのイケメンだ。

 上履きの色を見る限り、一年生らしい。真新しい制服をだらしなくない程度に気崩し、眉や髪型も先生の目に留まらない程度に整えている。

(あ、苦手なタイプかも)

 瞬間的にそう判断する。今は一人でいるけれど、普段はクラスの中心で友人に囲まれているタイプの子に見えた。

 そんな彼は近づいてくるでも立ち去るでもなく、無言でこちらを眺めている。

 なんだか居心地が悪い。

「えーと、何か?」

 なんとなく気後れしながらも尋ねると、彼は無言で軽く首を傾げた。

(なんなんだろう……)

 よくわからない。つい思ったままが声に出てしまっただけで、話しかけたかったわけではないのだろうか。

 と、彼がこちらに向かって歩いてきた。

「やっぱり近くで見ても、なんか……冴えない感じだね」

 淡々とした口調でそう言って玲奈を見おろす。

「な……」

(何よこの失礼な一年は!)

 玲奈は文字通りぽかんと口を開けた。が、言い返す余地がない──残念なことに本当のことなのだ。それに、言われてみれば「冴えない」というのはかなり的を射ている気がする。「美人」でも「ブス」でもなく、「冴えない」。玲奈の外見は、いかにもそんな感じだ。

(っていうか、「先輩には敬語を使う」って学校の不文律じゃないの!?)

 そう思いながらも、玲奈はのどまで出かかったため息を飲み込む。よく考えてみたら、後輩に敬語を強制するのも変な話だろう。強いられて口にする敬語なんて無意味だし、自ら進んで使ってこその敬語だと思う。

「……そりゃどうもすみませんね」

 怒っているとか拗ねているとか、そんな風に思われたくなくて、玲奈は淡々と言い返す。まさか、一年生に会長──それも「冴えない」会長──として認識されているとは思わなかった。まして、それを直接指摘されるとは。

 わざわざそんなことを口にするくらいなので、用事があるわけでも生徒会に入りたいわけでもないのだろう。玲奈は自分の靴箱を開け、靴を履き替えた。

「……怒らないんだ」

 上履きを拾おうと身をかがめると、上からそんな声が降ってきた。

(いや、ほんとなんなのこの子……)

 怒ったところで美人になれるわけじゃないし、それどころかただただこちらの心の狭さが露呈するだけなのに。

「怒ったって仕方ないでしょう。……ほんとのことだし」

 一瞬ためらったものの、正直に付け加える。というか、そもそもこの子はこちらを怒らせようとしていたのだろうか。だとしたらもっと口調が──。

(──ん?)

 そう、もっと──なんだろう、馬鹿にしたような口調になる気がする。玲奈は改めて、男子生徒に向き合った。

「何が言いたいの」

 玲奈が短く問うと、彼は初めて笑みを見せた。

「どうせなら『美人生徒会長』になりたいと思わない?」

「……はい?」

 やっぱり馬鹿にされているのだろうか。目の前の笑顔のさわやかさに彼への苦手意識がふくらむ。けれど気づけば、玲奈は静かにうなずいてしまっていた。

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