方舟

 八咫烏は今、太平洋の上空を飛行していた。八咫烏内の司令室には、中田達を含むチームのメンバー全員がモニターの前に立っていた。モニターには河田防衛大臣の姿が映し出されていた。


 「昨日から太平洋上でアメリカ海軍と海上自衛隊の合同演習が行われているが、そこで日本が開発した最新型空母 方舟はこぶねが導入された。その方舟の甲板で乗組員である海兵のマット・リーパー軍曹が遺体となって発見された」


 河田防衛大臣は右手で顎髭をさすりながら話を続けた。


 「遺体には感電の痕が見られたことから、恐らく軍曹の死因は感電死ではないかと私達は考えた」


 「じゃあ軍曹は甲板での作業中に間違って高圧電流に触れて感電したんじゃ?」


 仁藤が防衛大臣の考えに意見する。しかし、防衛大臣は首を横に振って話を続けた。


 「軍曹は整備士ではない。それと、発見された時の遺体の状態だったんだが・・・・・・」


 「まだあるんですか?」


 今度は酒井が口を開く。


 「軍曹の体温は異常に低かったそうだ。普通、死後でもこれほど体温は低くはならないらしい。どうだ?こんな殺人は普通じゃあり得ないだろ?」


 防衛大臣の説明を聞いた中田が答えた。


 「そうですねえ。狭霧の犯行、しかも狭霧は二人・・・・・・」


 「電気人間と冷気人間」


 冬木が中田の後に続く。


 「現地に着いたら捜査に当たってもらうが、今回は被害者が外国人で、狭霧も日本人ではない可能性があるため、外務省国外犯罪捜査班の捜査官と合同捜査に当たってもらう。もしも犯人が捕まらなければ外交問題になりかねん。速やかに事件を解決するように。以上だ。」


 メンバーはモニターの防衛大臣に向かって敬礼して通信を終了した。





 数十分後、八咫烏は太平洋に浮かんでいる、他の艦船とは比べ物にならない程巨大な方舟内の格納庫に着艦した。メンバーが八咫烏から降りると、スーツに身を包んだ初老の男と、髪の毛をピンクに染めてスカートを履いた若い女と、河田太郎防衛大臣が立っていた。メンバーはこの三人に敬礼をした。


 「こちら外務省国外犯罪捜査班の立花康太たちばなこうた捜査官とメアリー・ワンス捜査官だ」


 防衛大臣が二人の捜査官を紹介した。


 「立花です、よろしく」


 「メアリー・ワンスよ。みんなよろしく」


 立花は礼儀正しい挨拶をし、ワンスは見た目によらず流暢な日本語で自己紹介をした。二人が自己紹介を終えると、大臣は早速指示を出した。


 「まずは遺体の状態を見てもらう、こっちだ」


 そして中田達は軍曹の遺体が置いてある部屋に案内された。その部屋は遺体を保管するため、空調が他の施設よりも低く設定されていた。


 「それじゃ、調べますよ」


 仁藤がドローンで遺体を解析した。すると、右手首に反応があった。


 「確かに体温が異常に低い。それと右手首に感電の痕が強く残っていますね。恐らく軍曹は体を冷やされた後、右手首を掴まれてそこから高圧の電気を流された」


 「目立った外傷もないわね」


 冬木が仁藤の見解に付け足す。


 「犯人達は軍曹の知り合いってことか?」


 立花が疑問を口にした。その疑問に中田が答えた。


 「その可能性が高そうですね。よし、じゃあ僕とシゲさん、立花さんで第一発見者に話を聞きに行く。先生は遺体をもう少し詳しく調べて。彩香ちゃんとワンスさんは甲板のカメラの映像と、乗組員の中に軍曹と関係のある人物がいるか調べて、仁藤君と酒井君は甲板の様子を。それと、念のため大臣は部屋に待機していて下さい」


 「了解!」


 「分かった、そうしよう。何か分かったら逐一報告するんだぞ」


 




 特別危険犯罪対策室のメンバーと外務省国外犯罪捜査班の捜査官は、狭霧を捕まえるべく捜査に動き出した。

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ガーディアンズ〜防衛省特別危険犯罪対策室〜 山田 弘 @pomtuyo2457

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