見えざる敵
とある薄暗い地下室で、一人の制服を着た少女が監禁されていた。手足の自由は奪われていないものの、出口は硬く閉ざされている。少女はもう二日、この出口をなんとかして破ろうとしているが、破ることが出来ずにいた。落ち込んだ様子で少女は地下室のベッドに座り込み、大きなため息をついた。すると、出口のドアが突然開き、ドアから一人の男が入って来た。
「杏奈さん、お昼買って来たよ」
男は不気味な笑顔でそう言うと、手に持っていたコンビニの袋からおにぎりを取り出し、少女に差し出した。しかし、少女は男と目を合わせず
「いらない」
と言った。すると、男は不気味な笑顔のまま少女にこう言った。
「もしかして嫌いな食べ物が入ってた?買い直してくるよ、杏奈さん、何が食べたい?」
「何もいらないから!ここから出して!!」
少女は男が差し出したおにぎりを床に投げ、地下室に響く大声で言った。しかし男は表情を変えず、こう言った。
「ダメだよ、杏奈さんは僕だけのものなんだから。ここから出す訳ないじゃないか。これからは僕が君を守ってあげるよ」
そして男は少女の顔に自分の唇を近づけようとした。しかし、少女はそれに抵抗して、男の右頬を思い切りビンタした。
「やめて!!」
すると次の瞬間、男は不気味な笑顔から怒った顔になり、自分の着ている服まで完全に透明になり少女の首を絞めた。
「何で僕の愛を受け止めてくれないんだ!僕は君のことを初めて見てから、ずっと、ずっと君のことだけを見て来た。僕は君のことをこんなにも愛しているのに・・・・・・なのに、なのにどうして分かってくれないんだ!!」
「く・・・・・・苦しい・・・・・・」
男は我を忘れて少女の首を絞めていたが、少女の声を聞いた男は正気を取り戻し、手を離した。そして男は、透明人間から普通の姿に戻って慌てて少女を介抱した。
「あぁ!僕はなんてことを・・・・・・杏奈さん、ごめんね!ごめんね!」
男は謝りながら少女の頭を撫でた。そして不気味な笑顔に戻り、少女に
「これから必要なものを買い出しに言ってくるから。大人しくしてるんだよ・・・・・・僕の可愛いお姫様」
と言い残し、地下室を出て行った。少女はベッドに座ったまま涙を流し、小声で呟いた。
「助けて・・・・・・」
「ストーカーですか?」
下校中突然消えた東亜女子高校の生徒、緑川杏奈について調べるため、中田、酒井、澤村の三人は杏奈の自宅に来ていた。ソファーに座っている中田達の前には、杏奈の両親と、事件当時彼女が消える前に一緒にカラオケにいた友人が、同じくソファーに座っていた。母親と友人は先程からずっと泣いている。中田は、杏奈がストーカーされているということについて詳しく聞いた。すると、父親が口を開いた。
「娘が二年生に進級して間もない頃です。ある日娘は、誰かに見られていると私達に話して来ました。しばらくして今度は誰かに尾けられていると言い出して来ました。そして一週間前、こんな手紙が」
そう言って父親は一枚の紙を中田達に見せた。そこには
「君のことをいつも見てるよ。君の王子様より」
という文章が手書きではなく、ワープロソフトで書かれていた。
「警察にも相談したんですが、まともに取り合ってくれなくて・・・・・・だから娘はきっとそのストーカーにさらわれたんです。お願いです、刑事さん!娘を助けてください、お願いします!!」
父親は深々と頭を下げた。中田は父親に、頭を上げて下さいと言い、今度は杏奈の友人に話を聞いた。
「君は緑川さんと一緒にカラオケ店に入って、その後店の前で彼女と別れているね?」
「はい」
彼女は泣きながら答えた。中田は質問を続ける。
「君もストーカーのことを聞いていたんだよね。なのに店を出た後、何で一緒に帰らなかったのかな?」
「杏奈が、私にまで危険な目に合わせたくないからって、私は大丈夫だって・・・・・・そう言って一人で帰ったんです。帰りにカラオケに誘ったのも、ストーカーから杏奈を守るためだったのに・・・・・・私が家まで一緒に着いってたら、こんなことにはならなかったのに・・・・・・」
友人は再び号泣した。
「君は何も悪くないよ」
酒井が泣いている友人を慰めた。
「ああ、一刻も早くそのストーカーを捕まえないとな」
澤村は拳を握りしめ、強い思いを語った。ちょうどその時、中田の八咫鏡に冬木から着信が入った。
「先生どうした?」
「主任、これは誘拐事件よ!」
「ああ、そうみたいだね」
冬木の焦った報告に、中田は冷静に対応し、杏奈の両親と友人から聞いたことを言った。
「なるほど、ストーカーね。実は京子さんに彼女の残留思念を辿ってもらったら、彼女が消えた場所から近くの場所にあるコンビニに辿りついたの。そして、そこの駐車場の防犯カメラを調べたら、不審な車両が一台見つかったわ」
ホログラムの冬木は八咫鏡を操作し、中田の八咫鏡にカメラの映像を映し出した。そこには、近くに誰も居ないはずなのにドアが勝手に開き、駐車場を後にする一台の赤色の軽自動車が映っていた。
「何ですか、これ!?」
酒井がカメラの映像を見て驚く。冬木が続けて説明する。
「狭霧は透明人間よ。しかも自分以外のものも不可視化出来る能力を持っているはずよ。その能力で緑川さんを誘拐したに違いないわ」
冬木の説明を聞いて中田は
「犯人は透明人間か、厄介だね・・・・・・先生、車の持ち主は?」
と聞いて来てた。
「Nシステムで所有者を割り出したわ。車の持ち主は、木村健太。東亜女子高校の近くの医大生よ。自宅も東亜女子校の近く」
「ということは、木村がストーカーで間違いないね・・・・・・ストーカーは独占欲が強い。もし木村が誘拐したなら、奴はまだ彼女を生かしておいている。だが、彼女が抵抗を続けたら恐らく木村は彼女を殺しかねない・・・・・・先生、木村が緑川さんを監禁しそうな場所、どこかある?」
中田は冬木に聞いた。すると、ホログラムの冬木はまた八咫鏡を操作して、とある図面を中田の八咫鏡に映し出した。図面の一部分が点滅している。
「京子さんにお願いして木村の自宅の設計図をクラッキングしてもらったわ。ここ見て。木村の自宅には地下室がある。彼女はここに監禁されている可能性が高いわね」
「地下室か・・・・・・分かった。先生達は八咫烏で木村の自宅付近で待機してて。僕達は車で合流する」
「了解!」
中田は通信を終了し、酒井と澤村に
「彼女を救うよ」
と、真剣な表情で言った。二人も力強くうなずいた。そして、中田は杏奈の両親と友人に
「娘さんの居場所が分かりました。彼女は僕達が必ず救います!だから、安心して待っていて下さい。失礼します。」
と、言って一礼した。酒井と澤村も一礼し、杏奈の自宅を後にした。
三人は車で木村の自宅へと向かった。
「あの野郎、一発ブン殴ってやる!!」
車中で澤村は両手の指の骨を鳴らした。
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