力を持つ者

 再び木村の地下室にて・・・・・・

 

 杏奈はベッドの足の部分に手錠を掛けられていた。杏奈は手錠を外そうとするが、びくともしない。目の前には木村が不気味な笑顔で座っている。


 「ねえ、離して!離してよ!!」


 「それはダメだよ。だって杏奈さんが抵抗するんだから。こうしないと杏奈さん大人しくならないでしょ。そんなことより・・・・・・僕と君の愛をもっと深めるとっておきの方法があるんだよ」


 木村はそう言うと、不気味な笑顔のままカッターナイフをズボンのポケットから取り出した。そして杏奈の元に近づき、カッターナイフで杏奈の制服のワイシャツを切り始めた。


 「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 杏奈の悲鳴が地下室に響き渡る。破けたワイシャツからブラジャーがはだけて見える杏奈を見て、木村は不気味な笑顔から興奮した表情に変化した。そして木村は杏奈の太ももを触り、スカートに手をかけようとした。


 「いや!いや!助けて!!!」


 杏奈の悲鳴が再び地下室に響き渡った。




 十分前・・・・・・


 木村の自宅前に中田率いる特別危険犯罪対策室のメンバーと、助っ人である警視庁サイバー犯罪課所属で狭霧の有田と澤村がいた。突入の前に冬木がメンバーにあるものを渡した。


 「これ付けて、赤外線ゴーグル。これを付けておけば、万が一木村が透明になったとしても、姿が見えるはずよ」


 「分かった。よし、みんな、木村が消えたらゴーグルで姿を確認するんだ」


 中田が的確な指示を出す。


 「了解!」


 「じゃ、澤村君よろしく!」


 中田が澤村にウインクすると、澤村は深呼吸をして木村の自宅の玄関のドアに立ち


 「了解!よっしゃ、うおぉぉぉりゃあ!」


 と、気合いを入れて、思い切りドアを蹴破った。そして中田を先頭にチームが突入する。


 「クリア!」


 「クリア!」


 雷切を構えたメンバーが部屋を探索する。すると、仁藤が一つのドアを見つけた。


 「主任!ありました、地下室のドアです!」


 中田達は仁藤の声を聞くと、すぐにドアの前に集まった。酒井がドアを開けようとするが、ドアはびくともしなかった。


 「ダメです!開きません!」


 酒井の報告を聞いた仁藤が


 「仕方ない、あれやるか」


 と言い、雷切の上部に八咫鏡を装着した。すると、八咫鏡から「雷切強襲モードスタンバイ」という機械音声が鳴った。


 「みんな、離れて!」


 と、仁藤がメンバーをドアの前から離れさせ、メンバー全員はゴーグルを装着した。そして仁藤が、雷切を構えている右手を左手で抑えながら、雷切を発射した。と同時に物凄い轟音と共に地下室のドアが吹き飛んだ。酒井を先頭にメンバーが地下室に突入する。


 「木村健太!手を上げろ!防衛省だ!!」


 酒井が雷切を向ける。杏奈のスカートに手をかけようとしていた木村は酒井の声に気づき、透明になった。


 「逃さないよ!」


 中田、酒井、仁藤、澤村が赤外線ゴーグルで杏奈から離れた木村を追う。すかさず冬木が雷切で手錠を壊し、有田が着ていた上着を杏奈にかけた。


 「もう大丈夫だからね」


 有田が杏奈を慰める。杏奈は泣きながら有田に抱きついた。


 一方、木村を追った中田達は地下室から出て、木村をリビングに追い詰めていた。


 「動くな木村!お前をストーカー規制法違反と誘拐、監禁の容疑で逮捕する!」


 中田が木村を追い詰める。しかし、木村は不気味な笑みを浮かべ


 「力を持たないお前らが、力を持つ僕を逮捕できる訳ないだろ。もう少しで彼女を僕のものにできたが、仕方ない。ここは逃げてまた新しいお姫様を探そう。その前に逃げるのにはまず、君達を何とかしなくちゃね」


 と、自身満々に語った。すると次の瞬間、中田達のゴーグルに映った木村の姿が突然消えた。


 「何だ故障か?」


 澤村が何回かゴーグルを叩くが木村の姿は映らない。しかし次の瞬間、酒井の右腕が斬られ、傷は浅いが出血した。


 「どういうことなんだ仁藤君!?」


 中田が焦って仁藤に質問する。


 「恐らく奴は体の中の臓器、細胞、血の一滴に至るまで透明になったんです。これじゃあゴーグルを付けてても意味がありません!って痛っ!」


 仁藤が説明していると、また仁藤も腕を斬られた。すると、澤村は装着していたゴーグルを外し


 「完全な透明か、おもしれえ!俺の力で見つけてやるよ!」


 と言い、目を見開いた。木村は中田の後ろに立ち、カッターナイフを背中に向けていた。それを見た澤村は、木村の背後に近づき木村の手首を力強く掴み、持っていたカッターナイフを落とさせ、体の正面を澤村の方に向けさせた。そして木村の顔面を右手で殴り、ふらついた瞬間を雷切で撃ち気絶させた。


 「見たか、ストーカー野郎!これが俺の力だ!!」





 数日後……八咫烏内の司令室に特別危険犯罪対策室のメンバーがいた。その中には、マスクをした道重と湊もいた。そしてメンバー全員でジェンガをしている。


 「バイト先で彼女を見たら、一目惚れしたらしくてね。それから彼女を運命の相手だって思い込んで、自分の愛をああいう形で示したらしいよ」


 中田がブロックを抜いて積み上げる。それを聞いた湊がブロックを抜きながら


 「うっわ、キモ」


 と、言って抜いたブロックを積み上げた。


 「男ってのは不器用な生き物なんだよ」


 続いて道重がブロックを抜こうとする。


 「何言ってんすか。不器用なのはシゲさんだけですよ」


 道重の言葉につい仁藤が口を滑らせる。


 「何だと!」


 道重が怒るとジェンガが崩れてしまった。


 「ああもう何やってるのよ。しかし驚いたわね。木村は生まれつき能力を持ってたなんて」


 冬木がテーブルから落ちたジェンガを拾いながら、木村の出自に関心していた。


 「木村は力の使い道に悩んでいたかもしれないね。しかし、結局は誰かのためではなく、自分のために使ってしまった。力を持つ者はその力をどう活かすか、考えなければいけないね」


 中田がブロックをテーブルの上に置きながら、そんなことを言った。酒井が続ける。


 「そして、力を間違ったことに使わせないことが自分達の役目……」


 「そういうこと。だからこれからも、僕達は狭霧と向き合っていくよ」

 


 地平線に沈む夕日に向かって、八咫烏は飛んで行った。

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