追跡

 「ええ!?」


 酒井は澤村と有田の二人が中田から狭霧だと聞かされ、動揺を隠せない。


 「二人は生まれつき能力を持っていてね。僕達が保護してからは、サイバー犯罪課で働いていて、たまに僕達の捜査も手伝ってもらっているんだ。ちなみに、澤村君は透視能力、京子さんは超感覚の持ち主だよ。澤村君、京子さん、こちら新人の酒井悟君」


 「はじめまして、酒井です。よろしくお願いします!」


 酒井は慌てて敬礼をした。


 「よろしく、酒井くん」


 と澤村が敬礼をし、


 「足引っ張らないでよー」


 と有田が冗談を言って酒井をからかった。ここで中田が


 「再会の挨拶はこれぐらいで・・・・・・実は僕達が捜査している事件の捜査の解決に、二人の力を借りたい」


 と、話の本題に入った。


 「狭霧の事件ですか?」


 と、有田が確認した。


 「ああ、そうなんだ。力を貸してくれるかな?」


 「もちろんです」


 澤村が答える。有田もうなずく。


 「ありがとう、二人共。じゃあ事件の内容は八咫烏で話そう」


 中田達は警視庁を後にした。




 八咫烏内の司令室で、澤村と有田を加えたチームは事件の内容を整理していた。


 「この映像が正しければ、彼女は突然姿を消したってことですよね?」


 有田が指摘する。


 「ああ、もしくは何者かに連れ去られたか」


 その指摘に中田が答えた。


 「でも、誘拐だとしたら、犯人から何かしらの要求が来ますよね。しかし、犯人からの連絡が来ていない・・・・・・」


 仁藤が口を開く。


 「まあ、誘拐殺人って線もあるかもしれない」


 中田が付け加えた。ここで、酒井が、狭霧の能力について考察を始めた。


 「狭霧の能力は瞬間移動なんじゃないでしょうか?」


 「なるほど、いいとこ突くわね」


 冬木が酒井の考察に口を開いた。


 「でもね、瞬間移動っていうのはとてもデリケートな能力なの。例えば移動する場所に障害物があったら、そこに当たって怪我をするか、最悪命を落としかねない可能性がある。だから瞬間移動は自分の目に見える範囲で行うの。カメラの映像を見て」


 冬木はモニターにカメラの映像を映し出した。


 「狭霧が瞬間移動を使うなら当然、緑川さんが視界に入ってなきゃいけない。でも、カメラには彼女の後を尾ける怪しい人物はいない。そして、彼女が映っているはずの次のエリアのカメラには、前のエリアにいた通行人が全員いる。つまり、彼女と共に消えるはずの狭霧がいないってことになるわよ」


 「た、確かに・・・・・・」


 冬木の考察に酒井は返す言葉もなかった。完全に行き詰まったチームに中田が指示を出す。


 「よし、ここからは二手に別れよう。仁藤君、先生、京子さんは彼女が消えた現場を調べて。僕、酒井君、澤村君で彼女の両親と事件直前に一緒にいた友人に話を聞きに行く」


 「了解!」


 



 「ここね、彼女が消えた場所は」


 冬木、仁藤、有田の三人は緑川杏奈が消えたと思われる防犯カメラの死角にいた。近くには、杏奈が友人といたカラオケ店がある。早速仁藤はドローンを取り出し、調査を始めた。


 「共鳴振動解析開始・・・・・・先生の言う通り、この付近で瞬間移動を使った痕跡はないですね」


 「そう。じゃあ京子さん、お願い」


 有田は冬木に指示されると、うなずいて現場の床に右手をかざした。


 「確かにここに彼女の残留思念が残されている。ん?ちょっと待って、ここだけじゃない。この先にも彼女の気配が続いているわ」


 有田はそう言って歩き出した。


 「それじゃあ、彼女は消えてなかったってことですか?」


 冬木と仁藤が慌てて有田の後を追う。有田は杏奈が消えた場所からしばらく歩いたところにあるコンビニの駐車場で止まった。


 「今、彼女の強い思いを感じた。助けてって思いを・・・・・・」


 「緑川さんは連れ去られた可能性が高いわね。だとすると、カメラに映らずここまで連れて来られたということは・・・・・・狭霧は透明人間」


 「しかも自分だけでなく、自分以外のものも透明にできる」


 仁藤が冬木の考察に付け足す。


 「その可能性が高いわね。京子さん、彼女の気配を追える?」


 「だめ。彼女の気配が薄くてこれ以上は無理」


 「それじゃあここの防犯カメラを調べましょう」


 冬木達はその駐車場の敷地内にあるコンビニに入っていった。


 「これがちょうど彼女が消えた時間帯の映像ね」


 冬木達はコンビニの事務所内のモニターで、事件当時の駐車場の防犯カメラの映像を見ていた。すると、仁藤が不審な車両を一台見つけた。


 「ちょっと、これ!」


 仁藤は一台の赤い軽自動車を指差した。すると、その軽自動車は近くに誰もいないのに、勝手に後部座席のドアが開いた。そして後部座席のドアが閉まると、運転席のドアが開き、赤い軽自動車は駐車場を去って行った。


 「狭霧の車に間違いないわね。仁藤君、京子さん、八咫烏に戻ってこの車をNシステムで追跡するわよ」


 冬木は二人にそう指示した。


 「了解!」


 冬木は八咫鏡を取り出し、中田達に連絡した。

 

 

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