神隠し
「なんなんだね?この請求書は!」
中田達特別危険犯罪対策室のメンバーは、防衛省内の会議室に召集されていた。そこで白髪混じりの初老の男性の前に中田裕二、酒井悟、仁藤慎二、冬木直子の四人が立っていた。
「河田防衛大臣、それはですね、駐車場のだ……」
中田の話を最後まで聞かず、河田太郎防衛大臣は怒鳴った。
「駐車場の弁償代金だろ、そんなことは分かっているよ!この金はどこから出せばいいんだね?」
「それは大臣のお小遣いからなんとか、ね?」
仁藤が他のメンバーと顔を見合わせる。他のメンバーもうなずく。
「私の小遣いは月三万だ!!」
「し、失礼しました・・・・・・」
仁藤がなんとも言えない表情で謝罪する。防衛大臣が続けて説教をする。
「いいかね、何度も言うが、ただでさえ
「は、承知いたしました」
と中田とその他のメンバーが敬礼する。すると防衛大臣がため息をつきながらこの場にいない道重宏と、湊彩香について聞いた。
「道重さんと湊君は?」
「インフルエンザで自宅療養中です」
中田が大臣の質問に答える。すると、大臣は
「人手不足で大変だろうが、事件だ」
と言って、一枚の紙を中田達に見せた。そこには、一人の女性の顔写真と簡単なプロフィールと、事件の内容が書かれていた。大臣は話を続ける。
「昨日、東亜女子高校の生徒が下校中行方不明になった。行方不明者の名前は緑川杏奈、十七歳。深夜になっても彼女が帰宅して来ないため、両親が今朝、警察に捜索願を出したそうだ」
「誘拐事件ですか?なら、うちが扱う事件じゃないですよ」
冬木が訂正する。
「いや、誘拐なら犯人から連絡が来るはずだが、それが犯人から未だに連絡が来ない。しかも彼女は放課後、友人とカラオケに行き、友人と別れたその後、行方不明になっている」
「じゃあ防犯カメラの映像で彼女の足取りを追えばいいんじゃ?」
仁藤はごく当たり前の操作手段を提案したが、大臣は首を横に振った。そして会議室のモニターに事件当時の防犯カメラの映像を映し出した。
「彼女が友人とカラオケを出て、数メートル先の角を曲がり、一旦このエリアのカメラから姿を消したが、次のエリアのカメラに映るはずの彼女の姿がなかったんだよ。この二つの防犯カメラが映らない死角は僅か数メートル程だ。」
「じゃあその死角の中で突然消えたってことですか?」
中田が反応する。大臣は厳しい顔でこう言った。
「ああ、まさに神隠しだよ」
「神隠し・・・・・・」
中田は呟いた。
「という訳で、こんな意味の分からない事件を警察が捜査したら、マスコミが嗅ぎつけ、いずれ
捜査命令を受けたメンバーは大臣に敬礼をして部屋を後にしようとした。
「ああ、酒井君!君は少し残りたまえ。話がある」
大臣はそう言って酒井を呼び止めた。
「お話とは何でありましょうか?大臣」
「どうだね?この仕事は気に入ったかね?オカルト好きの君に持ってこいだろう」
「はっ!やりがいは感じています。手は火傷しましたが・・・・・・」
酒井は軽いジョークも混ぜながら、大臣の質問に答えた。
「それは何よりだ。酒井君、君には期待しているよ。何かあったら防衛省の恥晒しだ、気をつけたまえ。もういいぞ」
「はっ!失礼します!」
酒井は大臣に敬礼して会議室を後にした。
八咫烏に戻った酒井は司令室で中田達と合流した。ここで酒井は今のチームが人手不足だということを中田に指摘した。
「道重さんいないのに、八咫烏どうやって飛ばすんですか?それと湊さんもいないので、映像分析とか、詳しい資料検索とか出来ませんよ」
「それなら心配御無用。八咫烏は自動操縦で飛ばすし、今回は強力な助っ人を呼んだから。とりあえず、警視庁に向かうよ」
中田は陽気な表情で、人手不足の対策を言った。そして、八咫烏は警視庁に向かった。
中田達は警視庁のロビーに着いた。そして中田は目の前に立っていたとある二人に手を振った。
「おーい!澤村君、京子さん!」
すると、中田の声に気づいた二人が近づいて
「中田警部補、それに皆さんもお久しぶりです!」
と敬礼をした。
「久しぶり!」
と仁藤と冬木の二人も手を振る。中田が置いてけぼりの酒井に二人を紹介する。
「酒井君、こちらサイバー犯罪課の澤村拓哉君と、有田京子さん。二人共狭霧だよ」
「ええ!?」
驚く酒井をよそに二人は笑顔で敬礼した。
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